第七十一話 父親の大失態とパレードの先導
「皆さま、お待たせいたしました。パレードの準備が完了しました。順に外に移動をお願いいたします」
係の人のアナウンスで、大教会の中にいる人たちが一斉に動き始めた。
王家や上位貴族から動き始めるため、僕たち下位貴族はもう少し待つ事になる。
ぞろぞろと多くの貴族が出口の扉に向かうのを見ると、数多くの貴族が参列したのだと改めて実感した。
僕もエレンお祖父様と共に大教会の外に出ると、既にパレードの出発準備が整っていた。
アーサー様とメアリー様はオープンタイプの馬車に乗り込み、スラちゃんたちもスタンバイしていた。
沿道に駆けつけた多くの市民も、そして特設会場にいる貴族の関係者も、パレードの出発を今かと待っていた。
そして、パレードが出発する直前に、とんでもない事件が起きてしまったのだ。
「うわぁ!」
ドサッ。
何と、一人の警備兵が馬に乗ろうとして落馬したのだ。
かなり太っている兵だなと思ったら、何と落馬したのは父親だったのだ。
大きな声と落下時の音のため、パレードに注目していた全ての人が落馬した父親を見たのだ。
いつも僕たちが軍の厩舎で乗馬訓練をしていた馬に乗ろうとしたらしく、馬も落馬した父親を見て「マジ!?」って表情をしていた。
父親は落馬の衝撃で動けないのか、蹲ったままだった。
僕とエレンお祖父様は直ぐに陛下に謝ろうと駆け寄ったが、陛下は手で僕たちを制した。
「落馬した警備兵を運び出せ。【蒼の治癒師】たるケンよ、落馬した父親に成り代わりパレードの護衛をするように」
陛下の言葉に、集まった人たちは直ぐに事情を把握した。
というのも、小さい僕を戦地に送りつけた父親の悪評は、王国中に広まっていたからだ。
しかも、陛下は敢えて父親に代わってと周囲に言ったのだ。
父親の側には担架が用意され、警備兵が蹲る父親を担架に乗せた。
しかし、わざと担架は動き出さなかった。
トコトコトコ。
「僕の父親がごめんね。怪我はない?」
「ブルル」
スタスタと僕のところにやってきた馬は、全く平気だと僕に顔をスリスリとしてきた。
この様子を見て、集まった人から「【蒼の治癒師】は馬と心を通わせている」という声が上がった。
「よっと」
「「「「「おおー!」」」」」
まだ体の小さい僕が難なく馬に跨ると、集まった人から歓声が沸き起こった。
僕は、馬の首筋を撫でてから騎馬隊の後方に馬を進めた。
ところが、陛下によって僕の位置に修正が入った。
「ケンよ、隊長の後ろに位置するように」
「「「「「おおー!!」」」」」
周囲からの歓声は、更に大きなものとなった。
これは断れないと、僕は騎馬隊の隊長を務めているゴードン様の後ろについた。
すると、更に位置の修正が入った。
「ケン、私の隣に来るように」
「「「「「おおー!!!」」」」」
町の人の歓声は、更に凄いものとなった。
あのその、主役のアーサー様とメアリーさんよりも目立っていますよ。
しかも、父親が僕のことを物凄く睨んでいた。
陛下は、わざと僕の騎馬姿を父親に見せつけたんだ。
「出発!」
「「「「「わあー!」」」」」
ゴードン様の合図で、遂にパレードはスタートした。
もう集まった人たちは大興奮状態で、そんな多くの人たちにアーサー様とメアリーさんはにこやかに手を振っていた。
ちゃっかりと、スラちゃんたちも触手をフリフリとしていた。
僕に声を掛ける人も沢山いたが、流石に沿道の人に手を振る訳にはいかない。
背筋をピンと伸ばして、真剣な表情で前方を見た。
あくまでも僕の役目は騎馬隊の一員なのだから、安全かつスムーズにパレードを誘導しないとならない。
幸いにしてパレードのコースは把握していたし、ゴードン様も隣にいるので道を間違えることはない。
それでもかなり緊張していたのは事実で、予定時間の倍以上の時間が経ったような感覚に襲われていた。
沿道に詰めかけた人の数が物凄く、警備兵もとても大変そうだった。
こうして、一時間かけてパレードは何とか終了した。
僕は、アーサー様とメアリーさんがオープンタイプの馬車から降りて王城に入るまで周囲を見回した。
ようやく僕も馬から降りることができ、ホッと胸を撫で下ろした。
「ケン、よくやった。何も問題はなかったぞ。ケンのお陰で、間違いなく王国史に残るパレードになったぞ」
ゴードン様は、馬から降りた僕のことを手放しで褒めてくれた。
他の騎馬隊員も、とても良かったと褒めていた。
「急にパレードをお願いしてありがとうね」
「ブルル」
乗っていた馬も、全く問題なかったと僕に顔をスリスリしてきた。
馬を王城の担当者に預け、僕も披露宴会場に向かった。
「それでは、二人の輝かしい未来と王国の益々の発展を祈願して乾杯とする。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
ちょうど陛下による乾杯の音頭が行われたタイミングで、僕は乾杯が終わってから披露宴会場に入った。
目立たないようにエレンお祖父様のところに向かったのだが、直ぐに多くの貴族に捕まってしまった。
概ね好意的に受け止められていて、騎馬隊としての姿もとても良かったと褒めてくれた。
「ケン君、お疲れ様。パレードが出発した後で、陛下に謝っておいた。後で、もう一度謝罪しよう」
エレンお祖父様は、僕を出迎えつつ出発後の様子を教えてくれた。
騎馬隊が出発して直ぐに、父親はササッと運ばれたという。
何か言っていたが、大歓声にかき消されて何も聞こえなかったらしい。
陛下は、貴族主義勢力への牽制も含むと言っていたという。
確かに、貴族主義勢力の貴族は会場の隅っこで大人しくしていた。
肝心の新郎新婦は多くの貴族からの挨拶を受けており、僕たちの出番はもう少し後だった。
「まあ、ケン君も父親には色々と思うところはあるだろう。しかし、今のケン君には王太子殿下と王太子妃様の結婚パレードを盛大に行ったという功績もある。胸を張って良いんだよ」
ビーズリーさんは、相変わらず優しく僕に話してくれた。
こうして親身に話してくれるのは、本当にありがたかった。
ようやく僕たちの挨拶の番となり、エレンお祖父様と共に新郎新婦のところに向かった。
「王太子殿下、王太子妃様、この度はご成婚誠におめでとうございます。また、娘の元主人が大変なご迷惑をおかけし申し訳ありません」
エレンお祖父様が挨拶をし、僕も一緒に頭を下げた。
すると、アーサー様はこんなことを言ってきた。
「ケン君は聞こえなかったかもしれないが、町の人は【蒼の治癒師】に導かれながらパレードが進んで行くと言っていた。大教会を、荘厳な雰囲気を出すほど綺麗にしてくれたのもある。幸いにして、落馬したギャイン騎士爵のことは全く話題にならなかった」
「それに、今日はめでたい場でもありますわ。今は、こうしてとても和やかな雰囲気を楽しみましょう」
メアリーさんが笑顔で言ってくれたのが、全てだったのかもしれない。
父親に関することは、後日の話となった。
次に挨拶をする人がいるので、僕たちは新郎新婦の前から移動した。
すると、ヘルナンデス様が僕とエレンお祖父様の挨拶が終わるのを待っていた。
「色々と思うところはあるだろうが、私としてはよくやったと言えよう。結果的に貴族主義勢力を黙らせることにもなったし、殆どトラブルなく結婚式を終えることができそうだ。こういう大きな行事になると、全てのトラブルを防ぐことはできない。だからこそ、あの程度のトラブルは許容範囲だ」
ヘルナンデス様は、挨拶対応で忙しい陛下の代弁をしてくれた。
きっと、陛下も僕とエレンお祖父様が大教会で謝罪するのを止めたのも、こういう意図があったのかもしれない。
その後結婚式は無事に終わり、今日は解散となった。
本当に忙しく、色々と考えさせられる一日だった。
因みに、スラちゃんたちはあと一日新郎新婦の護衛として残るらしい。
最後まで頑張るぞと、張り切っていたのだった。
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