第七話 王妃様から聞く母親の話
誰がどの席に着くかが決まったが、僕は何故かヘルナンデス様の隣になった。
いやいや、ソファーの隅っこにポツンと居るだけで十分ですよ。
何はともあれ、自己紹介しないと。
僕は、ソファーから立ち上がった。
「はじめまして、ギャイン騎士爵家のケンです。スライムのスラちゃんです。宜しくお願いします」
僕がペコペコと今日何回目かの挨拶をすると、またもや周りの人が微笑ましいものを見たというにこやかな表情をしていた。
特に中年女性は、僕のことを物凄くニコニコしながら見ていた。
「ジョージ四世だ。弟と息子が随分と世話になったみたいだ。余からも、感謝する」
「アーサー・ホークスター、ルーカスの兄にあたる。叔父上を治療してもらい、感謝する」
「リリアーナですわ。こうして元気なヘルナンデス様を見ると、神が奇跡を起こしたのかと思ってしまいましたわ」
矢継ぎ早に挨拶と感謝を言われ、僕はちょっと頭がグルグルとしていた。
間違いなく、この国のトップスリーの人たちだ。
そして、陛下は僕にこんなことを聞いてきた。
「ケンよ、今朝例の手紙を預かった時、家族からどんなことを言われたのか?」
陛下は、真剣な表情で僕のことを見ていた。
この質問になった瞬間、他の人も姿勢を正して僕の方を向いた。
既に手紙の中身は伝わっているから、下手に隠さない方がよさそうだ。
「その、父親からは僕を合法的に始末する方法を見つけたと、兄からは国のために死んでこいと言われました」
「なんと、なんと酷い話でしょうか……」
僕の話が余程衝撃的だったのか、ポツリと感想を漏らした王妃様以外はかなり真剣に考え込んでしまった。
そして、陛下は腕を組んで少し目を瞑ってから話し始めた。
「嫡男の軍での発言も耳にしておるが、軍人貴族だからとかそういう次元の発言ではない。もはや、人間としてどうかと思ってしまうレベルの発言だ。ケンは、王家が保護してルーカスの配下につけることにする」
陛下の言葉に、他の人たちも深く頷いた。
どうやら、実家の父親と兄の手紙と発言は、この国で一番偉い人たちの怒りを買ってしまったようだ。
僕としては、自業自得としか思えない。
「とはいえ、ケンの治癒師としての能力は相当に高い。ギャイン騎士爵の手紙とは別に、国境に派遣するしかない。それ程、多くの負傷兵が発生している。余から、貴族子弟たるケンへの命令としよう」
陛下も、かなりの苦渋の決断みたいだ。
それだけ、戦況が苦しいのだろう。
僕は実家に閉じ込められていた時に比べれば今の状況は雲泥の差だし、スラちゃんと一緒だから全然平気だ。
すると、王妃様以外の面々が一斉に立ち上がった。
「何はともあれ、対策を進めなければならない。ケンは、暫くリリアーナといるように」
陛下を始めとする面々は、颯爽と執務室から出ていった。
本気で国のことを考えている、とても真剣な表情だった。
そして、王妃様は僕にこんなことを提案してきたのです。
「さあ、ケン君は私と一緒に衣装部屋に向かいましょう。実は、午後からヘルナンデス様を見舞う予定だったのよ。まるっきり予定が空いてしまったわ」
そして、素早く僕の手をとって応接室から連れ出した。
この国の偉い人たちは、本当に決断力が凄い。
程なくしてやってきた部屋の中に入ると、僕は大きな鏡があるドレッサーの前に座らされた。
更に、使用人によって手早くマントみたいなものも付けさせられた。
「ふふ、先ずは髪の毛をスッキリとさせちゃいましょう。息子の小さい頃は、よく私が髪を切っていたのよ」
そして、王妃様は髪切りバサミと櫛を手にして僕の髪の毛をジョキジョキと切り始めた。
とっても良い笑顔で髪の毛を切っているので、僕は王妃様に遠慮することはできなかった。
因みに、切った髪の毛はスラちゃんが吸収してくれた。
「ふふ、とても良い出来だわ。可愛らしくなったわけ」
僅か十分で、王妃様は僕の髪の毛を切り終えた。
使用人が持っている手鏡で後ろの髪も見ると、綺麗なショートヘアになっていた。
王妃様凄いと、思わず感動してしまったのだ。
しかし、これで話は終わらなかった。
「じゃあ、今度はこの子ども用の軍服に着替えましょう。いま着ている服を脱がないとね」
「わあっ!?」
僕は、使用人によってあっという間に服を脱がされてしまった。
王妃様が手にしていた軍服は、何だかとてもいいものな気がした。
でも、下手に聞くことはやめておこう。
あっ、そうだ。
「その、その服はボロボロだけど捨てないで下さい。ハンナおばさんが、ずっと直してくれたので」
「ケン君にとって、思い出のある服なのね。大丈夫よ、綺麗に洗って補修しておくわ」
王妃様も使用人も、僕の話を聞いてまたニコリとしてくれた。
その間に、僕は小さな軍服に袖を通した。
そして、王妃様は寝る時用の服なども含めて複数の服を用意してくれた。
「うん、随分と見違えたわ。じゃあ、少し私とお話しましょう」
王妃様は、衣装部屋にある応接セットに僕を案内してくれた。
衣装部屋にこんなスペースがあるなんて、流石王城だと感じた。
甘いお菓子とかも用意してくれたのだが、ここで王妃様がとってもビックリすることを話してきた。
「ケン君、実は私はあなたのお母様であるイリスさんと教会の奉仕活動でよく一緒だったのよ」
「えっ、僕のお母様とですか?」
「そうよ。イリスさんと私は歳も近く、立場関係なくお互いに良くしていたのよ。ケン君がイリスさんのお腹にいる時、イリスさんはどんな赤ちゃんが産まれてくるかとても楽しみにしていたの。そして、いま私の目の前には髪色も含めてイリスさんそっくりの心の優しい男の子がいるわ」
王妃様は、昔を懐かしむように僕のことを見ていた。
僕も、まさかこんなところで母親の話を聞くとは思わなかった。
だから、王妃様は僕の自己紹介を見てとてもニコニコとしていたんだ。
その後も、王妃様は生前の母親の話をしてくれた。
母親はとても敬虔な人で、幼い頃から教会の奉仕活動をしていたという。
そのため、教会関係者に知り合いも多いそうだ。
「こうして、イリスさんの命が繋がって目の前にいるのが、私はとても嬉しいのよ。しかも、とても困難な状況にあったのにとても優しい心を持っている。きっと、イリスさんがケン君のことを見守ってくれたのよ」
僕は母親の死をきっかけに前世の記憶が蘇ったので、正直なところ母親の記憶は全くなかった。
そもそも、まだ生後一年の赤ん坊だったし。
でも、こうして王妃様から母親の話を聞くと、僕の中に母親の記憶が蘇りそうな、そんな気がしたのだった。
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