第五十九話 夜会でまさかの乱入者が
王太后様と王妃様と一緒に行っていた挨拶対応も、夕方前にようやく終わった。
そのまま会場となる大部屋に移動し、スラちゃんと共に他の人たちが来るのをまった。
すると、最初にこの人たちが僕に挨拶してきたのです。
「ケン君、こんばんは」
「こんばんはー!」
品の良いドレス姿のケーラさんと一緒に現れたのは、髪色と同じ真っ赤なドレスを着たクリスちゃんだった。
クリスちゃんもすっかり怪我が治って、こうして元気な姿を見せられるようになったんだ。
ギュッ。
「ケン君、この前治療ありがとうね。凄い魔法だったよ!」
クリスちゃんは、満面の笑みで僕の手を握ってお礼を言ってきた。
クリスちゃんの後ろでケーラさんがニコリとしているが、どうやら僕に会ったらお礼を言いなさいと言ったのでしょうね。
「どういたしまして。それに、スラちゃんも治療を頑張ってくれたんだよ」
「そうだったね。スラちゃんも、ありがとうね」
僕の頭の上にいるスラちゃんも、クリスちゃんにフリフリと触手を振っていた。
すると、僕の背後から声を掛ける人がいたのです。
「あら、ケンのお友達かしら。仲良さそうね」
「うん?」
声をかけてきたのは、水色のドレスを着たシンシアお姉様だった。
髪の毛もセットしていて、まさに貴族令嬢って感じだ。
すると、クリスちゃんは「この人誰?」って表情をしていたのだ。
「クリスちゃん、この人は僕の母方の実家のシンシアお姉様だよ」
「わあ、そうなんだ。ケン君と髪の毛の色が一緒だね」
クリスちゃんは、僕とシンシアお姉様を交互に見て直ぐに納得していた。
特徴的な髪色だから、直ぐに分かったのだろう。
「あっ、そっか。例の事故に遭った子ね。ケンの回復魔法は凄いし、こうやって元気になったんだね」
「うん、元気になったんだよ!」
シンシアお姉様とクリスちゃんは直ぐに仲良くなり、にこやかに話し始めた。
エレンお祖父様やフリージアお祖母様も側にやってきて、更に知り合いの貴族なども僕に話しかけてきた。
とはいえ、治療や軍で会った人なので僕も安心して話していた。
「うむ、ケン君の側にはいつも人が集まっているな」
ヘルナンデス様は、かなり満足そうに僕の周囲にいる人々を見ていた。
なお、信頼できる貴族が僕の周りにいるので、下心を持って僕に接しようとする貴族は近寄ることすらできなかった。
「うう……何で私には良い人が……」
僕とニコニコなクリスちゃんを見てローリー様が崩れ落ちているが、今は下手に声をかけない方が良いと思った。
「はあ、ローリーは本当に成長しねーな」
「また、おねーちゃんがくずれおちてるー」
オーフレア様親子が、何気に酷いなとちょっぴり思ってしまった。
にこやかな時間が過ぎていき、あと少しで王族が入場するタイミングでとんでもない事件が起きてしまった。
ダッダッダッ。
「ケン、貴様何をしている!」
「「「「「うん?」」」」」
何といきなり警備兵が大部屋に姿を現し、僕に向かって怒鳴りつけてきたのだ。
突然のことに多くの人が戸惑っているが、あれって僕の兄ではないかな。
そういえば、年明けから特別訓練から通常訓練に戻る予定だった。
でも、王城の警備をしていたはずなのに、何で夜会が行われる大部屋に入ってきたのだろうか。
何でだろうかと思っている間に、この人が動いていた。
「兵よ、許可なく配置を離れた警備兵を取り押さえよ」
「「「「「はっ」」」」」
「な、何だ何だ!」
ヘルナンデス様の指示を受けた兵が、あっという間に兄を取り押さえた。
しかし、尚も兄は僕のことを睨みつけていた。
「おい、ケン! 何で、俺ではなくお前がちやほやされているんだ。死んで詫び……」
「黙れ!」
自分勝手なことばかり言っていた兄も、ヘルナンデス様の一喝には敵わなかった。
というか、大部屋にいる全ての人が黙ってしまった。
兄は、今更になってヤバいと思い始めたのか、顔を真っ青にして汗を大量にかき始めた。
しかし、ヘルナンデス様の追及が止まることはなかった。
「何で貴様がこの場にいる。ギャイン騎士爵家のものは、王家や王国主催の催しへの参加禁止を言い渡されたはずだ」
この場にいる多くの人が、ヘルナンデス様と同じ疑問を持っていた。
もちろん、僕も同様だ。
謁見で通達され、更に書面で通告されている。
しかし、兄の口からとんでもない発言が飛び出したのだ。
「そ、その、家に処分が下ったので、対象は父だけかと……」
何と、兄は自分は処分対象ではないと思っていたのだ。
ギャイン騎士爵家全ての人が処分対象なのだから、もちろん兄も処分対象だ。
兄の発言に、この場にいる多くの者が思わず溜息をついてしまった。
一方、兄の馬鹿な発言はヘルナンデス様の怒りに更に燃料を投下してしまった。
「貴様は、廃嫡になったとはいえ、引き続きギャイン騎士爵家のものだろうが。よくも、そんなふざけたことを言えたな!」
「あっ、ぐっ……」
兄は、今更になって処分対象を理解した。
問題を起こしたのもようやく理解し、思わずヘルナンデス様から視線を外した。
「武装解除して、牢屋にぶち込め。無断で持ち場を離れたことも含め、厳しく尋問せよ」
「「「「「はっ」」」」」
「……」
兄は、下を向いて無言のまま兵に連行された。
その間も、大部屋は静まり返ったままだった。
そして、僕は無意識の内にヘルナンデス様の側に行って頭を下げていた。
「ヘルナンデス様、兄が問題を起こして本当にごめんなさい」
「私からも謝罪します。本当に申し訳なかった」
エレンお祖父様も、僕の側に来てヘルナンデス様に頭を下げた。
ヘルナンデス様は、一呼吸置いてから話し始めた。
「幾ら血の繋がった肉親の不祥事とはいえ、無関係のケン君とノーム準男爵が謝る必要はない。非難されるのは、ギャイン騎士爵と兄だけだ」
ヘルナンデス様は全く問題ないと言ってくれたが、僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それと同時に、何でこんな大騒動を起こすのだろうと不思議で仕方なかった。
「ケンは心の優しい少年で、ノーム準男爵は孫思いの優しい祖父だ。しかし、どんなに周囲が優れていても無能なものは現れる。人の痛みを分かることができない愚か者がな」
このタイミングで、いつの間にか入場していた陛下が集まっている人々に語りかけていた。
もちろん、この場にいる全ての人が陛下に注目していた。
「弟に軽々しく死ねというものが、兄であってはならない。命というのは、取り返すことのできない何よりも大切なものだ。昨年の新年の謁見で、余は皆にそういった。だからこそ、規模は違えど戦争も他人をかえりみないことは愚かなことなのだ」
僕は、父親と兄から常にいらないもの扱いを受けていた。
そして、戦地で死ねと言われた。
一年間顔を合わせずにいたが、やはり父親と兄は毒父であって毒兄だった。
「自分を愛し、他人を愛すること。これは、ケンの母親が言ったことだ。皆も、この言葉を忘れないように」
「「「「「はっ」」」」」
僕の記憶にない母親なんだけど、本当に多くの人に影響を与えていたんだ。
陛下に臣下の礼を取りつつ、改めて母親のことを思ったのだった。
何とか夜会は始まり、僕は改めて周囲の人に謝っていた。
周囲の人たちは僕のことを気遣ってくれ、愚かな兄と優秀な弟という対比図までできていたのだった。
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