第四十二話 大教会へ
チュンチュン、チュンチュン。
「うーん、うん? ここは……」
僕は、窓から差し込む陽射しと小鳥の声で目を覚ました。
周囲を見回すと、見慣れない大きなベッドで寝ていたのだ。
えーっと、ここは確か……
コンコン。
「ケン様、起きる時間ですよ」
ドアの外から、ハンナおばさんの声が聞こえてきた。
そっか、新しい屋敷に住み始めたんだっけ。
昨日は、パレードみたいな歓迎から大変な謁見もあって、屋敷に移動して母方の祖父母と会った。
本当に目まぐるしい一日だったね。
スラちゃんも枕元でスヤスヤと寝ているけど、そろそろ起こしてあげないと。
僕は、うーんと伸びをしてからベッドから降りたのだった。
「じゃあ、いってきまーす!」
「「「気をつけて行ってらっしゃいませ」」」
使用人の見送りを受けながら、僕とスラちゃんは馬車に乗って屋敷から大教会に向かった。
大教会は今まで一度も行った事がないから、どんな場所なのかとても興味があった。
そして、段々と目的地である大教会に近づいてきた。
「凄い、これが大教会なんだ……」
想像していた何倍も凄い建物が、目の前にドーンとそびえていた。
僕の屋敷なんで、十個以上入りそうな大きさだった。
馬車置き場で馬車から降り、僕とスラちゃんは大教会の中に入った。
因みに、今日はそんなに時間が掛からない予定なので、馬車は待っていてくれるという。
「うわあ、凄い……まるで絵画のようです……」
大教会内も、とても荘厳な作りだった。
社会や世界史の授業で各地の教会の写真を見たが、実際に壁や天井に描かれた絵やステンドグラスから漏れる光はかなり荘厳だった。
そして、祭壇の前でフリージアお祖母様と一人の少女が祈りを捧げていた。
僕とスラちゃんも、祭壇の前へと歩いていった。
「フリージアお祖母様、お待たせしました」
「あら、ケン君も着いたのね」
ちょうど祈りが終わったフリージアお祖母様が、ニコリと微笑みながら僕に返事をしてくれた。
そして、一緒にいる少女が僕のことを興味津々で見ていた。
髪の毛は僕やエレンお祖父様と同じ濃い青色のセミロングで、見た感じ中学生くらいだった。
すると、少女はニコッと満面の笑みで僕の手を取ったのだ。
「わあ、君がケンね。私はシンシア、ケンのお母さんの妹ね!」
かなり明るく元気いっぱいで、僕に会うのがとても楽しみだったようだ。
えっと、どうすれば良いかな?
「はじめまして、僕はケン・アスターです。宜しくお願いします、シンシアお姉様?」
「ふふふ、シンシアお姉ちゃんでもいいのよ。私末っ子だったから、弟ができたみたいだわ」
僕がペコリと頭を下げても、シンシアお姉様は上機嫌で僕の手を握っていた。
フリージアお祖母様も僕とシンシアお姉様のやり取りを微笑ましく見ていて、スラちゃんはいつの間にかフリージアお祖母様の肩に避難していた。
すると、僕たちの背後から声をかけて来る人たちが。
「ふふふ、仲良くやっているわね」
「ええ、本当に良い光景ですわ」
王太后様と王妃様は、僕とシンシアお姉様のやり取りを微笑ましい光景だとにこやかに見つめていた。
シンシアお姉様は「この人たちは一体誰?」状態だったので、急いで教えて頭を下げた。
「ケン君は家族に恵まれなかったのは知っていると思うけど、出来るだけ気にしてあげてね」
「は、はい!」
王太后様に声をかけられ、シンシアお姉様はかなり緊張していた。
その間に、多くの聖職者が王太后様と王妃様のところにやってきた。
「王太后様、王妃様、わざわざ教会に足を運んで頂き感謝申し上げます」
「多くの方の協力を得て、無事に戦争を終わらせることができました。神に御礼を申し上げに参りました」
王太后様は、聖職者の中でも特に上位のものと思われる人とにこやかに話をしていた。
教会のシスターさんも、その殆どがにこやかに僕たちを見つめていた。
しかし、僕は全然別のことが気になった。
中年のシスターと思われる数名が、僕を見て青ざめているのだ。
しかも、少し父親と似た気配を感じてしまった。
「そして、国を救いし【蒼の治癒師】様ですな。あのイリスさんの血が、こうしてしっかりと受け継がれているのを見るととても嬉しく思いますぞ」
おっと、年配の高位聖職者がニコリと僕に話しかけてきた。
今は、目の前のことに集中しないと。
「はじめまして、ケン・アスターです。男爵を拝命しています。宜しくお願いします」
「おお、小さい子どもとは思えぬ丁寧な挨拶じゃ。儂は、サイオン枢機卿じゃ。トゥール子爵家当主もしておる」
確か、枢機卿って聖職者の中でもかなり高位なはず。
王太后様と王妃様を出迎えるのだから、確かにこのくらいの職位の方ではないと駄目かもしれない。
でも、母親のことも知っているし、僕ともにこやかに握手をしてくれた。
すると、サイオン枢機卿様はそっと僕に顔を寄せた。
「あの者共も含めて、後でお話ししよう。先ずは神へ祈るとする」
どうやら、サイオン枢機卿様はシスターの顔が真っ青な理由を知っているようだ。
先ずはということで、僕たちは祭壇の前で膝をついて祈り始めた。
えーっと……
「無事に帝国との戦争が終わりました。ありがとうございます」
こんな感じかな?
ザワザワザワ。
うん?
何だか、僕たちの周りにいる人たちが騒がしい。
何があったのだろうか。
目を開けて周囲を振り返ると、たまたま僕のところにステンドグラスからの光が良い感じに差し込んでいた。
「うむ、国を守るために最前線で活躍した【蒼の治癒師】様に、神が祝福をしているだけじゃ。そこまで気にすることは無い」
いやいや、サイオン枢機卿様の言い方は誤解を招くと思いますよ。
王太后様と王妃様は満足そうにしていたが、顔色が真っ青だったシスターたちは今度は顔面蒼白になってしまった。
どうしようかなと思ったら、ここでトラブルが発生した。
「あの、どなたか息子を治療してくれませんか? ベッドから落ちてしまったのです!」
「うぎゃー」
若い母親が、まだ赤ちゃんの息子を抱きながら慌てて大教会に駆け込んできた。
激しく泣き叫ぶ赤ちゃんの右腕は、痛々しく腫れ上がっていた。
直ぐに治療しないとって思い、僕とスラちゃんは若い母親の側に駆け寄った。
「直ぐに治療します!」
「えっ?」
若い母親は、いきなり目の前に現れた小さな男の子とスライムにキョトンとしてしまった。
でも、僕の意識は既に泣き叫ぶ赤ちゃんに向いていた。
シュイン、シュイン、ぴかー!
「あう?」
「な、何が起きたの……」
赤ちゃんは、腕が痛くなくなってキョトンとしていた。
若い母親も、何が何だか分からないでいた。
でも、もうこれで大丈夫。
「赤ちゃんの骨折だけでなく、お母さんのお腹の調子も悪かったので一緒に治療しましたよ。これで大丈夫です」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます!」
若い母親はようやく状況を理解したらしく、赤ちゃんを抱きしめながら何度も頭を下げた。
うん、元気になって本当に良かったね。
「あうー」
「バイバイ。今度はベッドから落ちちゃ駄目だよ」
赤ちゃんに手を伸ばすと指を掴んできたので、そのままフリフリとしてあげた。
若い母親は、何度もお礼を言って大教会を後にした。
「流石は、【蒼の治癒師】様じゃ。怪我をした赤子だけでなく、母親まで治療するとは」
サイオン枢機卿様が、ニコニコしながら僕に話しかけてきた。
たまたまいた町の人も、凄いことを見たと驚いていた。
「あの、勝手に治療しちゃってごめんなさい」
「何も気にすることはない。それに、そなたの母親も怪我人を見ると真っ先に駆け寄っておった。やはり、【蒼の治癒師】様は【蒼の令嬢】の息子だと実感したぞ」
サイオン枢機卿様は、満面の笑みで僕の頭を撫でていた。
そんな僕たちのやり取りを、王太后様、王妃様、フリージアお祖母様、シンシアお姉様だけでなく、町の人々もにこやかに見つめていたのだった。
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