第三十四話 捕虜になっていた負傷兵への治療
翌朝の訓練後、僕とスラちゃんは一緒に訓練をしていた面々と共に治療部屋に向かった。
多くの兵も一緒について来て、治療部屋は兵でぎゅうぎゅう詰めだ。
でも、それだけ捕虜になっていた兵が心配なのだろう。
「うん、ご飯を食べたのもあって体力も回復しています。それじゃあ、治療しますね」
「あ、ああ……」
捕虜になっていた兵は、治療するのが小さな僕とスライムで少し混乱していた。
恐らく、昨日治療した時の事を覚えていないのかもしれない。
シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!
「ふう、何とか手の再生ができました」
「えっ!? 一体どうなっているんだ?」
僕とスラちゃんの回復魔法で無事に左手の再生ができた負傷兵は、自身の手を見て何が何だか分からないでいた。
その間に、もう一人の負傷兵の腕の欠損を再生した。
「おお、説明していなかったな。ケンの回復魔法は、一日数人限定だが手や足の再生治療もできる。順番はあるが、全員五体満足になるぞ」
「「「「「そ、そんな……」」」」」
負傷兵はまだ現実を受け止められなかったが、中には涙を流しながら喜んでいた人もいた。
僕の魔法を説明した兵も、捕虜が元気になって思わず涙を流していた。
手や足の切断をしたということは、今後の生活はかなり大変なことになる。
生活に希望を持てるだけでも、精神面でかなり違うらしい。
「セレナ、ユリア、ケン君って一体何者なの?」
セレナさんとユリアさんの同期の負傷兵が質問してきたが、セレナさんとユリアさんはどう回答していいか迷っていた。
僕とスラちゃんは説明しても問題ないと思っていたら、この人が説明してくれた。
「ケン君は軍事貴族であるギャイン騎士爵家の子どもなのだが、三歳から六歳までほぼ屋敷で監禁された生活を送っていた。帝国軍との戦争が始まった途端、ギャイン騎士爵は合法的な処分方法が見つかったとケン君を物資として出してきた。国のために死んでこいと言われながらな」
「「「「「えっ……」」」」」
たまたまルーカス様が様子を見に来ていて、僕とスラちゃんが何で軍にいるのか説明してくれた。
捕虜になっていた兵は、思わず僕に驚きの視線を向けた。
「ケン君とスラちゃんは優秀な治癒師だが、ギャイン騎士爵はケン君が魔法使いだということすら知らない。ケン君が前線基地に来たのも、負傷兵が多くて治療の手が必要だという王国の苦渋の決断からだ」
ルーカス様の説明を、全員真剣に聞いていた。
僕もスラちゃんも最初はどうなるかと思ったが、治療施設に入院している負傷兵を頑張って治療した結果、ここまできた。
僕の一連の経緯は、前線基地にいる人なら全員知っている。
更に、王都では父親と兄が相変わらず馬鹿なことを言っていた。
それもあってか、軍は総じて僕に同情的だ。
確かに前線基地での治療はとても大変だったけど、軟禁状態だった頃と比べれば遥かに自由に動けた。
「ケン君のおかげで、戦死者は著しく減った。更に、絶望的な怪我すら治療した。これも、日々の治療や訓練で腕を上げたからだ。残念ながら、王国軍はこの小さな六歳の男の子の魔法に頼らざるを得なかったのだよ」
捕虜になっていた負傷兵も、心配で治療部屋に集まった兵も、黙って僕とスラちゃんを見ていた。
そして、セレナさんとユリアさんの同期が僕にある質問をしてきた。
「ケン君は、どうしてそこまで一生懸命に治療しているの?」
どうやら、僕はとても小さいのに何でと思っているみたいだ。
とはいえ、僕の答えは決まっていた。
「その、やっぱり戦争で死んじゃうのは嫌です。それに、叩かれたりするのは痛いってのもよく知っています」
「それって……」
どうやら、僕が軟禁状態だけでなく虐待されていたのにも気がついたようだ。
痛いのがよく分かるから、元気になってもらいたいと思うんだよね。
「ケン君の身は、今は私の配下にある。なので、仮に王都に戻ったとしても直ぐにギャイン騎士爵家に戻ることはない」
ルーカス様は、僕の「自由になりたい」という意思を尊重してくれた。
もし兵舎とかに住むことになっても、僕は全然満足だ。
でも、それは王都に戻ってから考えることにしよう。
後は僕の魔力の回復待ちなので、朝イチの治療はこれで終了。
僕とスラちゃんは、ルーカス様と治療部屋を出てこの後の捕虜引き渡しの準備に入った。
「このまま順調にいけば、年が明けるタイミングで王都に帰れるだろう。そのためにも、私たちは頑張らないといけない。地域安定のために、中途半端な状況にはできないのだ」
ルーカス様と共に合流したヘルナンデス様も、なによりも国の安全を優先としていた。
そのために、帝国との交渉で譲歩を見せたり厳しくしたりと硬軟を使い分けていた。
帝国軍幹部のレーベンス大将も話の分かる人だし、帝国側も現状を何とかしようと動いている。
完全な和平じゃないけど、それでも停戦協定の意味合いは大きいはずだ。
そう思いながら、僕とスラちゃんはヘルナンデス様とルーカス様と共に帝国軍陣地に向かったのだった。
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