第三十二話 停戦交渉の再開
昼食を食べて準備を整えたら、再びヘルナンデス様たちと共に帝国軍陣地に向かった。
今度は、僕たちを守る護衛も増員した。
僕たちが、更に本気だということを示す目的もあった。
そして、先に応接室に入りこの後のことを話すことにした。
「今回も、基本的には私が話す。皆が話すことはないだろう。なお、ケン君は疑問におもったら遠慮なく質問してよい」
どうやら、僕はツッコミ役みたいだ。
そういうことなら、頑張って指摘するよ。
帝国兵の態度が分かりやすくて、ツッコミ放題なんだけどね。
スラちゃんも、頑張るぞと張り切っていた。
コンコン。
「失礼します。間もなく、帝国軍の方がおみえになります」
「そうか。到着次第、応接室に通してくれ」
「畏まりました」
ヘルナンデス様の返事を聞いて、僕は改めて姿勢を正した。
そんな中、オーフレア様とルーカス様が何やらヒソヒソと話をしているのに気がついた。
二人がどんなことを話していたのか、この後直ぐに分かることになる。
コンコン、ガチャ。
「失礼しま……」
ガタガタ、シャキッ。
「う、動くな、動くな!」
帝国軍幹部が応接室に入り王国兵が席に案内すると、何と先程ヘルナンデス様と話をしていた帝国軍幹部は案内役の王国兵に刃物を突きつけて脅してきたのです。
帝国軍幹部は目が血走っていて、完全に正常な状況ではなかった。
「おい、何をしているのか。やめろ!」
「聞けー! 俺の要求を飲めー!」
午前中はいなかった帝国軍幹部が制止しようとするが、暴走している帝国軍幹部は刃物を振りかざしながら大興奮していた。
とはいえ、僕とスラちゃんは現時点では動かなかった。
「ふう、レディへのマナーがなっていませんね」
「へっ?」
ブオン、ドスッ!
「グハッ……」
暴走した帝国軍幹部は、案内役の王国兵に思いっきり投げ飛ばされた。
帝国軍幹部は、うめき声を上げたかと思ったらそのまま気絶してしまった。
それもそのはず、案内役の王国兵は何とローリー様だった。
実は、ルーカス様とオーフレア様は万が一帝国軍幹部が暴れた際どうするかを話し合っていたのだ。
「この馬鹿者をひっ捕らえよ! 直ぐに武装解除して、牢屋にぶち込むのだ!」
「「「はっ」」」
直ぐに帝国軍幹部が帝国兵に指示を出し、気絶している帝国軍幹部を拘束して運んでいった。
直ぐ様、帝国軍幹部はヘルナンデス様に謝罪した。
「うちの馬鹿者が申し訳ない。そこの女性兵も申し訳ない」
「対応は、帝国軍に一任する」
「私もお気になさらずに」
ヘルナンデス様もローリー様も、特に気にしていなかった。
どちらかというと、帝国軍幹部が勝手に自爆しただけとも言える。
「しかし、帝国軍の大幹部殿がやってくるとは。これは、驚きですな」
「ニース将軍、それにルーカス殿下も来ているのだ。それなりのものがいなければ話にならない」
先程からあれこれ指示を出していた帝国軍幹部は、どうもヘルナンデス様と知り合いのようだ。
それもあってか、かなり話がスムーズに進んでいた。
午前中の殺伐とした雰囲気と、今はまるで違っていた。
あっ、自己紹介しないと。
「はじめまして、ギャイン騎士爵家のケンです。スライムのスラちゃんです、宜しくお願いします」
「うむ、小さいのにしっかりとした挨拶だ。帝国軍大将、レーベンスだ」
茶髪を短くして、口髭のある威厳な感じの人だった。
ヘルナンデス様曰く、帝国軍でもかなり格上の人だという。
「どうやら、馬鹿な連中は私が到着するまでにある程度話をまとめてしまおうと安易に考えていた。ところが、ニース将軍に先手を打たれて、何もできなかったようだ」
レーベンス大将は、溜息をつきながら経緯を説明してくれた。
レーベンス大将の指摘を受けた帝国軍幹部は、思わず顔を下に向けていた。
しかし、レーベンス大将の指摘はまだ続いていた。
「そもそも、お前らは勝手に国境の軍を動かした馬鹿者ではないか。更に、決定権もないのに勝手に停戦協議を進めようとした。これは明らかな軍規違反だ。兵よ、この者どもを武装解除して帝都に送るように」
「「「はっ」」」
項垂れていた四人の帝国軍幹部は、無抵抗で項垂れたまま帝国兵に連行された。
これで、元からいた帝国軍幹部はたった一人になってしまった。
そして、新たに三人の帝国軍幹部が入室した。
「しかし、警備を一段階強化するとは流石はニース将軍だ。あの馬鹿どもは、兵を率いてこの陣地を取り戻そうとしていた。もちろん、一喝して抑え込んだがな」
「あらゆる可能性を考慮し、現状は警備を強化した方がいいという判断をしたまでだ」
「その方が良かろう。陣地明渡しまで、警備強化した方が無難だ」
レーベンス大将とヘルナンデス様の意見の一致もあり、ここまでの話はとてもスムーズだった。
そして、ここからが話の本題だった。
「帝国軍の馬鹿どもが暴走し、王国に大きな損害を与えた。深く謝罪する。捕虜を過酷な環境下に置いたのは、さっき案内役の王国兵に狼藉を働いた者の指示だった」
レーベンス大将は、深く頭を下げながら謝罪してきた。
まさか、捕虜虐待の経緯にそんな裏話があったとは。
多分ヘルナンデス様は経緯を知っていて、敢えてあの帝国軍幹部に圧をかける様な話し方をしたんだ。
だから、捕まった帝国軍幹部はかなり焦っていたんだ。
「関係者の処罰をするとともに、早期に生存している捕虜の返還を行いたい。この後でも可能だ」
「先ずは、レーベンス大将の提案を受け入れましょう。この後、兵の手配をしましょう」
「ご配慮頂き助かる。現在、亡くなった王国兵の遺品があるか確認している。明日朝には回答できるだろう」
午前中のグタグタが嘘のように、とてもスムーズに話が進んでいった。
現在生存している王国兵は四十名で、全員重傷だという。
ここは、僕とスラちゃんで何とか治療を進めないといけない。
「王国側も、帝国側の返答関係なく明日朝幹部以外の帝国兵と戦死した者の荷物をお渡ししましょう」
「捕虜の数が多いので、そうして頂けるととても助かる。幹部は、陣地明渡しの際でも構わない」
色々なことが矢継ぎ早に決まっていき、両国の兵がメモを取っていた。
そして、明日朝改めて話し合いをすることになった。
やはり、決定権があるものが話すととてもスムーズだ。
帝国側も、勿論王国側も、色々決まってホッと安堵したのだった。
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