第三十一話 停戦交渉は一旦休会です
ヘルナンデス様は帝国軍幹部の気持ちが落ち着くのを待ち、その間に僕に話しかけてきた。
「ケン君、中々良い質問だった。しかも、誘導尋問でもなんでもないものだ」
「偉そうな人だったので、子どもっぽく質問してみました」
「ふふ、中々やるな。ケン君は幼いのに策士だ」
僕とヘルナンデス様のニコニコ顔でのやり取りを見て、帝国軍幹部はぽかーんとしてしまった。
僕とスラちゃんは、敢えて帝国軍幹部にニコリとした。
僕が若者にわざと質問したのだと気づくと、帝国軍幹部はハッとした表情に変わったのだった。
「さて、改めて話を始めるとしよう。下交渉で大体の要求を伝えているが、王国には帝国への領土要求は一切ない。捕虜交換を行い、戦争前の状況に戻すだけだ。この帝国軍陣地も、捕虜返還後に帝国軍へ返還する」
「は、はい。その……」
帝国軍幹部は、ヘルナンデス様の話を聞くやいなやかなり渋い表情に変わった。
王国から帝国へ金銭的要求は一切なく、王国は帝国に対してかなり譲歩しているのが伺えた。
「うん? どうした、何かあったのか? ああ、帝国側の捕虜のことなら心配ない。全員治療し、寧ろ元気いっぱいだ。帝国軍で戦死したものも、装備などを全て保管している。捕虜と共に丁重に渡そう。王国軍とて、そして人として節度はわきまえている」
「えーっと、その……」
ヘルナンデス様は、敢えて帝国軍幹部を気遣うように話していた。
もう、役者が違うって感じだ。
一方、帝国軍幹部は全員脱水症状になるのではというぐらい大汗をかいていた。
どうしてここまで大汗をかいて返事を渋っているのか、帝国軍幹部は出されているお茶を一気に飲み干してから重い口を開いた。
「その、捕虜なのですが、半数以上が亡くなっており……」
「うむ。それで?」
「えっ!?」
帝国軍幹部は、ヘルナンデス様が真顔で聞き返すとは思ってなかったようだ。
自身が思っていたのと違う想定外の返しに、思わずポカーンとしてしまったのだ。
「戦争中に捕虜が亡くなることはある。だが、通常の戦争時の捕虜収容よりも遥かに高い。ハッキリ言って異常だ。ここでは、死亡率の高さの原因の報告と、捕虜交換などをどの様に行うのかを提示するのが筋だ。というか、当たり前だろう」
「うっ……」
帝国軍幹部は、ヘルナンデス様の追及に閉口してしまった。
というか、このくらいの質問をされることを事前に予想しなかったのだろうか。
ルーカス様とオーフレア様も、段々と表情が険しくなってきた。
「では、先に王国側の状況をお伝えしよう。帝国兵の捕虜は、一般兵は明日にでも引き渡し可能で、幹部はその後に引き渡し可能だ。戦死したものの荷物は、今日にでも引き渡し可能となる。つまり、二日間あれば全て対応できるだろう」
「ぐっ……」
ヘルナンデス様の理路整然とした説明に、帝国軍幹部はどうしようかと悩んでしまっている。
いや、悩むことはないと思うんだけど。
「ふむ、どうやら帝国側は直ぐに決められないようだ。これ以上話をしても無駄ですな。一度上のものに確認し、午後出直すことにしよう。誠実な回答を期待する」
こう言い残し、ヘルナンデス様はスッと席を立った。
僕たちもヘルナンデス様の後に続いたが、帝国軍幹部は苦虫を噛み潰したような表情をして座ったままだった。
圧倒的に帝国側が不利な状況で、何かしらの回答を用意しないといけない。
それに、停戦協議の場での帝国軍幹部の若者の発言と醜態もあった。
僕たちは、一旦前線基地に戻ることになった。
「何となく予想はついたが、帝国軍は碌な対策もせずなあなあでやってきた。こちら側の態度も分かったことだろうし、何かしらの対応をしてくるだろう」
「かなり譲歩する姿勢を最初から見せたが、帝国軍が何もしてこなければそれまでですな。まあ、何かのアクションはしてくるはずです」
歩きながら、ヘルナンデス様とルーカス様はお互いに意見を交わしていた。
因みに、帝国軍幹部はそこまで上位のものではなく、判断できる立場のものではないらしい。
王国側が本気だという態度を示したのは大きなことで、王国側は更に本気の態度を示すこともできる。
この辺のことを含めて、ゴードン様や他の人たちと交渉をどう進めるか話をするという。
「そうそう、帝国軍陣地の警備を三倍に増員する。帝国軍は、絶対に何かしてくるのは間違いない」
「間違いないですな」
王国側の前線基地に到着後、ヘルナンデス様は直ぐに出迎えてくれたゴードン様に指示を出した。
折角戦闘が落ち着いたのに、停戦協定で揉めることになるとは。
色々な人の思いが交錯していて、本当に難しい事になっていた。
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