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毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます  作者: 藤なごみ


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第三十話 停戦協議開始、のはず……

 五日後、帝国との停戦協定をするために僕たちは帝国軍陣地へと徒歩で向かった。

 王国の前線基地から徒歩でも十分もかからずに到着するのだが、途中で見てしまった光景に改めてビックリしてしまった。


「うわあ、僕の背丈よりも大きな穴が空いています……」

「改めて見ると、こりゃスゲーな。それだけ、ケンの魔法が凄いって事だ。人に当たったら、何も残らず消し飛ぶな」


 帝国軍陣地前には、前に僕とスラちゃんが放った魔法でポッカリと空いた大穴があった。

 オーフレア様は機嫌よく笑っているし、ヘルナンデス様とルーカス様もニコリとしているだけだ。

 僕とスラちゃんはというと、改めて「やっちゃった……」とあんぐりとしてしまった。


「「「お疲れ様です」」」

「うむ、ご苦労」


 帝国軍陣地の警備をしている王国兵に出迎えられ、僕たちはヘルナンデス様を先頭に中に入った。

 帝国軍陣地の中はとても綺麗に清掃されており、特に破損箇所などもなかった。

 僕たちは、直ぐに応接室に案内された。


「今しばらくお待ち下さい。帝国軍は、もうそろそろ来るということです」

「分かった」


 ルーカス様は女性兵に声をかけ、そして書類に目を通した。

 既に部下を通して下交渉を行っており、素案は決定していた。

 しかし、ヘルナンデス様とルーカス様曰く絶対に譲れないことがあるという。

 僕、スラちゃん、オーフレア様も事前に話を聞いていて、納得というか絶対だと思っていた。


 コンコン。


「失礼します、帝国軍がやってきました」

「そうか、分かった」


 重苦しい空気が応接室を包み込む中、王国兵が来訪を告げた。

 返事をしたヘルナンデス様に続いて、僕たちも席から立ち上がった。

 そして、程なくして帝国軍幹部と思われる面々が応接室に入ってきた。

 すると、何故か全員がヘルナンデス様の姿を見て目をまん丸にする程驚愕の表情をしていたのだ。


「王国軍、ニース公爵だ」

「こ、これはニース将軍、お元気だったのですか……」

「一時期死にかけたが、優秀な治癒師のおかげでこのようにピンピンしておるわ。戦争開始直後から、こうして国境に来ているぞ」


 ヘルナンデス様は、ニヤリとしながら帝国軍幹部と握手をしていた。

 一方、ヘルナンデス様と握手をした帝国軍幹部は汗ダラダラで顔面蒼白だ。

 まるで、死人が生きていたって状態だ。

 そういえば、ヘルナンデス様は帝国によるテロで瀕死の重傷だったはず。

 僕とスラちゃんの初めての大治療で回復したのもあるし、何よりも今までの経緯を全部知っている。

 帝国軍にとって、ヘルナンデス様が生きてる事はかなり不利なことなのだろう。

 更に、ルーカス様、オーフレア様も自己紹介をすると、帝国軍幹部の顔色は更に悪くなった。

 王国軍が王子を交渉に出してくるということは、それだけ王国軍が本気だということの表れだった。


「はじめまして、ギャイン騎士爵家のケンです。スライムのスラちゃんです、宜しくお願いします」


 最後に僕が挨拶をすると、張り詰めていた空気が若干和らいだ。

 帝国軍幹部の若者は、なんで子どもの僕がいるのかという疑問の表情をしていた。

 そして、全員が席についてお茶を出したところで、早速停戦協議開始となる……


 ダッ。


「まだだ、帝国軍は負けていない。まだ負けていないんだ!」

「おい、何を言っている!?」

「まだ、負けていないんだ!」


 突然、帝国軍幹部の若者が血相を変えながら立ち上がって大声で叫んだ。

 他の幹部が何とか若者を抑えようとするが、残念ながら若者の叫びが止まることはなかった。

 一方、僕たちは驚くことなくただ若者を見ているだけだった。

 ヘルナンデス様からも、こうなるのではと事前に聞いていたのだ。

 そこで、僕は敢えて子どもらしくあることを聞いてみた。


「お兄さん、なんで帝国軍は負けてないの?」

「ああ!? 国境の軍が負けただけで、帝国軍が全滅していないからだろうが。応援が来れば、王国軍なんて簡単に倒すに決まっている!」


 ふむふむ、なるほどね。

 でも、その肝心の帝国軍本部から部隊撤収命令が出ているのを、僕たちはちゃんと掴んでいる。

 では、更に質問をしてみましょう。


「じゃあ、帝国軍が負けるとお兄さんに不都合なことがあるの?」

「王国から賠償金取らなければ、我が家は大損だ! ったく、あの馬鹿野郎、王国を奇襲すれば絶対に大丈夫だと言いやがって。支援した我が家のことまで考えろってことだ!」


 ふーん、良いこと聞いちゃった。

 つまり、この若者は今回の奇襲の関係者だったんだ。

 といっても、ヘルナンデス様とルーカス様は既にこの情報を掴んでいた。

 一方、帝国軍幹部はもはや顔面蒼白だ。


「ふむ、中々面白いことを言っているな。さて、この後どうすればよいか分かっているな」

「はっ、はい……」


 ヘルナンデス様は、真顔で帝国軍幹部に促した。

 帝国軍幹部はハンカチで額の大汗を拭い、そして立ち上がった。


「このものを捕縛し、武装解除の上で厳しく尋問せよ」

「「「はっ」」」

「おい、何をする? おい、おい!」


 帝国軍の若者は、帝国兵に両脇を抱えられて強制退場させられた。

 そして、ようやく応接室に静寂が戻った。


「に、ニース将軍、誠に申し訳ない。この通り、謝罪する」

「先ずは、謝罪を受け入れよう。ただ、あの様な血気盛んな若者をこの様な場に連れてくるとどうなるか、貴殿なら分かるはずだ」


 ヘルナンデス様は、尚も真顔で帝国軍幹部に話していた。

 汗が止まらない帝国軍幹部は、様々な理由で一気に老けた気がしたのだった。

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