第三話 父と兄からの宣告
窓から見る景色で春から夏に季節が近づいたと分かったある日の早朝、僕は突然父親と兄に玄関に来るように言われた。
こんなことは初めてだと不思議に思いながら、僕は朝食も食べずにスラちゃんと共に玄関に向かった。
これから軍の施設に向かう軍服を着た父親と兄が、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべながら僕を待っていた。
そして、父親はいきなり僕にずんずんと歩み寄って一通の手紙を渡してきた。
「ハハハ、我が家のお荷物だったお前の有効活用がようやくできる。お前は、我が家からの軍事物資として国に供給することにした」
酒臭い息を吐きながら父親が上機嫌に笑っているが、僕とスラちゃんは何のことだかサッパリ分からなかった。
キョトンとしている僕に、今度は兄がニヤニヤと意地悪い笑みをしながら簡単に事情を説明した。
「王国と帝国が戦争を始め、貴族は義務として何らかの対応をしないとならない。そこで、お前を物資として国に出すことにした。お国のために死んでくることだな」
薄気味悪い兄の表情を察するに、僕のことを合法的に始末できると思っているみたいだ。
決して実の弟に向ける表情ではないが、それだけ僕のことを嫌っているのだと分かった。
そして、執事や使用人も一斉にニヤニヤと僕を見ていた。
邪魔者がいなくなって、せいせいしたという表情だ。
「光栄なことに、お前が脱走しないように軍の施設の前まで馬車で送ってやる。感謝することだな」
そして、父親のありがたくもない言葉を背に、僕は三年ぶりに屋敷の外に出た。
久々に見た屋敷の庭はこんな感じだっけと感傷に浸る間もなく、僕は馬車に乗せられて屋敷を出たのだった。
「着いたぞ、降りろ」
馬車の御者の乱暴な言葉に急かされて、僕は馬車を降りた。
そして、馬車はあっという間に軍の施設の前から立ち去った。
僕とスラちゃんは何が何だか分からずにいて、キョロキョロと周囲を見回した。
目の前は検問所みたいな所で、奥には沢山の建物が立ち並んでいた。
そして、検問所みたいな所にいる兵が不思議そうな表情をしながら僕のことを見ていた。
貴族の馬車から降りてきたのが、みすぼらしい服装の幼い男の子なのだから仕方ないだろう。
かくいう僕も、家のもの以外で初めて会う人なのでかなり緊張していた。
意を決して、僕は兵に手紙を差し出しながら近づいた。
「おはようございます、王国軍事貴族ギャイン騎士爵家次男のケンです。父親より、偉い人向けに手紙を預かっています」
「「「えっ、はぁ?」」」
緊張のあまり、僕はかなり固い口調になってしまった。
一方、三人の門兵は僕からの手紙を受け取るなり、かなり疑問の表情をしていた。
手紙の裏表を何回も確認したが、間違いなく父親からの手紙だった。
しかし、兵もどうすればいいか対応を決めかねていた。
いきなりこんな手紙を小さい子が運んで来たのだから、無理もないだろう。
「どうした、何かあったのか?」
「「「殿下!?」」」
このタイミングで、たまたまなのかかなり豪華な軍服を着た青年が、部下を引き連れながら検問所みたいなところに姿を現した。
金髪ショートヘアの超イケメンで、背も高く服の上からでも分かるくらい良い肉体だ。
でも、手紙を受け取った兵が、豪華な軍服を着た青年のことを殿下と言った気がする。
もしかしなくても、この人は滅茶苦茶偉い人なのかも知れない。
僕は、もう一回挨拶をすることにした。
「おはようございます、王国軍事貴族ギャイン騎士爵家次男のケンです。父親より、偉い人へと手紙を預かっています」
「うむ、小さいのに礼儀がなっている。とても感心だ」
僕とスラちゃんがペコリと頭を下げながら挨拶をすると、豪華な軍服を着た青年は満足そうに頷いた。
「相手が名乗ったのなら、私も名乗らないと礼儀に反する。私はルーカス・ホークスター、ホークスター王家第二王子だ」
ええー!
偉い人かもって思ったけど、とんでもないレベルの偉い人だった。
まさか、この国の王子様にいきなり会うなんて。
しかも、その偉い人が父親からの手紙を受け取ったのだ。
あわわ、いきなり話が大きくなってしまった。
「で、殿下、突然の来訪失礼しました!」
「ケン、なにも気にすることはない。それに、何やら重要な手紙みたいだな。私が確認しよう。ケンも、一緒についてくるように」
深々と頭を下げた僕のことを、ルーカス殿下はニコリとしながら撫でてくれた。
そういえば、誰かに頭を撫でられるのっていつ以来なのだろうか。
一瞬そんなことを思いつつ、僕は急いでルーカス殿下の後をついて行った。
ガチャ。
「さて、ここにしよう。ケンも座ってくれ」
ルーカス殿下と共に軍の施設に入り、応接室に通された。
僕はルーカス殿下の反対側に座り、不安な気持ちを落ち着かせるためにスラちゃんを抱いた。
ルーカス殿下は父親からの手紙を読み進め、その度に表情の険しさを増していった。
「直ぐに、ギャイン騎士爵と嫡男を調べるように。まさか、こんな馬鹿なことを考えるものが王国軍にいるとは。ふざけているにも程があるぞ!」
「「「はっ」」」
ルーカス殿下の命を受けた部下は、一礼して直ぐに動き出した。
そして、ルーカス殿下は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせてから僕に話しかけた。
「待たせてすまない、改めて話をしよう。君の名を教えて欲しい」
僕はスラちゃんを抱いたままソファーから立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「改めまして、ギャイン騎士爵家のケンといいます。父親は全く知りませんが、僕は回復魔法が使えます。スラちゃんも、回復魔法が使えます」
「なに? 回復魔法が使える、だと」
ルーカス殿下と部屋に残っている部下は、かなり驚いた表情で僕を見た。
そして、僕は今までの経緯を話し始めた。
幼い頃に母親が亡くなった事。
父親と兄だけでなく、使用人から虐待を受けていた事。
一人の使用人のおかげで生き延びた事。
スラちゃんと友達になった事。
書斎にずっといて魔法を覚えた事。
そして、今朝国のために死んでこいと言われた事も話した。
勿論、転生したことは話さなかった。
段々とポタポタと涙が止まらなくなり、僕はキチンと説明できているか分からなかった。
それでも、今まで溜まっていたものが溢れ出たかのように僕は話が止まらなかった。
そんな僕の話を、ルーカス殿下と部下は黙って聞いてくれた。
「こんな酷い話を、私は初めて聞いた。なんというか、どんな言葉をかけてやればいいか迷うくらいだ」
ルーカス殿下は、悲しそうな表情をしながら僕の隣に来てくれた。
そして、僕が泣き止むまでスラちゃんと共に僕の頭を撫でてくれたのだった。
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