第十三話 ダッシュ伯爵領へ到着
僕たちの部隊は、夕方前に最初の補給を行う交易都市ダッシュ伯爵領に到着した。
このダッシュ伯爵領都郊外には周辺地域一体を管轄する大きな軍事基地があり、僕たちの部隊もその軍事基地に入った。
馬車から馬を切り離したり、それぞれ荷物を降ろしたりして、準備が整ったところで全員集合した。
「それでは、私、ルーカス、ケン君でダッシュ伯爵に挨拶に行く。他の者は、順次作業を進める様に」
「「「「「はっ」」」」」
えっ、僕もヘルナンデス様とルーカス様と共にダッシュ伯爵に挨拶に行くの?
僕もスラちゃんも、他の兵と共にお手伝いをする方がいいのですけど。
「この部隊で、貴族の子弟は私たちだけだ。残念ながら、貴族としての義務もある。更に、この軍事基地は設備も整っていて井戸もある。つまり、ケン君とスラちゃんの仕事はない」
ヘルナンデス様の至極当然の説明に、兵もウンウンと頷いていた。
というか、兵も貴族社会の面倒くさい対応はしたくないという良い表情だった。
しかも、よりによって今日は兵も馬も元気いっぱいで治療の必要がなかった。
僕とスラちゃんは、思わずガックリとしながらヘルナンデス様とルーカス様と共に馬車に乗り込んだのだった。
「街道を歩いている人の数が凄いです。しかも、どの商店にもたくさんの品物があります」
「ダッシュ伯爵領は、辺境伯領と別の領地を結ぶ街道が交わる交通の要所だ。各地から交易品が並ぶ交易都市だ」
ルーカス様の説明を受けながら、僕とスラちゃんは馬車の窓から食い入るように外の景色を眺めていた。
もう夕方なのに人出も多く、町は活気に溢れていた。
そんな町並みを横目に、僕たちを乗せた馬車はダッシュ伯爵家の屋敷に到着した。
直ぐに応接室に案内され、当主であるダッシュ伯爵様が僕たちを出迎えてくれた。
「ようこそ、ダッシュ伯爵領へ。皆様、おかけ下さい」
ダッシュ伯爵様は、子どもの僕が一緒に部屋に入ってきてもニコニコとしながら出迎えてくれた。
茶髪をオールバックにビシッと決めた、少しぽっちゃりの商人みたいな貴族当主だった。
ダッシュ伯爵様はヘルナンデス様とルーカス様とは顔見知りらしいので、ここはしっかりと挨拶をしないと。
「ダッシュ伯爵様、はじめまして。ギャイン騎士爵家のケンです。一緒にいるのは、スライムのスラちゃんです。宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げると、ダッシュ伯爵様はとてもいいものを見たという表情をしていた。
応接室にいる使用人も微笑ましいという表情をしているけど、ここは気にしないようにしよう。
「相手が名乗ったなら、こちらも名乗らないといけないな。ダッシュ伯爵家当主のロバートだ。流石はイリス様の息子だ、髪色も同じでとても優しげな男の子だ」
えぇー!?
ここで、まさかの僕の母親の名前が出ていたよ。
これには、僕もスラちゃんもとてもびっくりした。
「驚いているようだね。実はまだ爵位を継いでいない時に王都で勉強していた時があり、教会で奉仕活動をするイリス様によく会っていたのだ。殿下より、そのイリス様の息子が来ると連絡を受け、私はとても楽しみにしていたのだよ」
おお、まさかロバート様と母親とそんな繋がりがあったとは。
というか、母親の交友関係が広すぎな気がする。
そして、ロバート様はヘルナンデス様にあることを依頼した。
「ヘルナンデス様にお願いがございます。物資補給中の短い時間で宜しいですので、ケン君に民の治療をして頂きたいのです」
「もちろん、引き受けよう。戦争のために、民にも苦労をかけている。出来る限りのことをしよう」
「私のようなものの願いを聞いて頂き、本当にありがとうございます」
戦争優先で物資の確保などが進んでいるので、確かに色々な人に迷惑をかけているのは事実だ。
もちろん、僕もスラちゃんもやる気満々だ。
お昼前にダッシュ伯爵領を出発するため、それまでの間町の教会で治療をすることになった。
こうして無事に挨拶は終わり、明日はロバート様も教会に少し顔を出してくれる事になった。
そして、軍事基地に戻って明日の予定を伝えると、何故か僕の護衛を誰がやるかで熱いじゃんけん大会が開かれた。
残念ながら、ヘルナンデス様とルーカス様は出発準備と会議のために不参加が決定した。
そして、じゃんけん大会を終えた兵から、何と護衛が十人になると教えてもらった。
何でそんなに人数が必要って思ったら、ルーカス様がこんなことを言ってきた。
「領主直々の依頼だし、何よりもケン君の身の安全を確保しないとならない。このくらいの護衛は当たり前だ」
それこそ、こんなところで僕が死んでしまうと父親の思う壺にもなるという。
兵は全員僕の境遇を知っているので、余計に気合が入っているそうだ。
「それに、物資補給の力仕事よりも護衛の方が楽だと思っているものもいるみたいだがな」
「「「「「ぎくっ」」」」」
ルーカス様の呟きに、即座に反応した人もいた。
きっと、護衛も大変だと思うよ。
僕とスラちゃんは、頑張って町の人を治療するだけだね。
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