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毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます  作者: 藤なごみ


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第百十一話 弟に圧倒された兄

 翌日、僕とクリスは新年最初の軍の訓練に参加していた。

 王都に戻された兄は、今頃王城に呼び出されてアーサー様から叱責と共に早期の対応を指示されているのかなと思った。

 でも、何となく上手くいかないのではと思ってしまった。


「まあ、ケンには悪いがお前の兄貴が自分の家のことを何にもしていないと、軍の上層部はみんな知っている。『父親のやった事の尻拭いを、何で俺がやらないといけないんだ』ってな」


 今日は剣の訓練だったのだが、一緒にいた軍の教官が裏話を教えてくれた。

 教官は兄を指導したこともあるそうで、本当に不満たらたらだという。

 肝心の軍の訓練にはついていけず、そのくせ威張ってばかりだという。


「正直なところ、ケンの兄貴の実力はその小さなスライムが瞬殺できるレベルだ。ケンは以前よりもかなり剣の実力が上がっているけど、兄貴は寧ろ前よりも実力が落ちているな」


 兄は不真面目な態度で散々懲罰を受けているのに、更に不真面目になっているらしい。

 教官だけでなく、他の兵もウンウンと頷いていた。

 スラちゃんなら、身体強化魔法抜きでも兄に勝てるレベルだという。

 軍人としてそれでいいのかと、かなり疑問になるレベルだった。

 すると、この人も訓練場に姿を現した。


「はあ、久々に疲れる処分の言い渡しだった。ケン君の兄は、話を理解できたのか甚だ疑問だ」

「何故罰金を払わないとならないのか、罰金を払わなかったらどうなるのかをもう一回説明した。文面でも再度示した。やるだけやったのだから、後は本人の対応次第だな」


 僕たちのところにやってきたルーカス様とヘルナンデス様は、かなり疲れた表情を見せていた。

 どうやら、王城で行なっていた兄への処分再通知は疲労を伴いながら終わったらしい。

 本当に、毎回ご迷惑をおかけします。

 すると、ルーカス様とヘルナンデス様がこんなことを言ってきたのだ。


「よし、ストレス発散も兼ねてケン君と手合わせをするか」

「では、私は嬢ちゃんと相手をするとしよう。二人とも、身体能力強化魔法は程々にな」

「はい!」


 元気よく返事をするクリスとスラちゃんたちとは違い、周りにいる兵は御愁傷様という表情で僕たちのことを見ていた。

 とはいえ、この状況で断るという選択肢は用意されていなかった。

 僕、クリス、スラちゃんは、暫くの間ルーカス様とヘルナンデス様の鬱憤晴らしの相手をしていたのだった。


「うん、二人とも順調に力を伸ばしているね。私も良い運動になった」

「スラちゃんも、とても良い動きだった。あのトリッキーな動きは、人にはない特別なものがある」


 一時間後、訓練場にはスッキリとしたルーカス様とヘルナンデス様の姿があった。

 僕とクリスも、やり過ぎないように頑張った。

 とても良い訓練になったのは間違いないが、何だかちょっと疲れてしまった。

 そして、スラちゃんの変則的な動きが新鮮だったと高評価だった。

 スラちゃんは体が小さいし、急加速などもとても得意だった。

 成り行きを見守っていた兵も、何とか無事に終わってホッと胸を撫で下ろしていた。

 ここまでは良い感じだったのに、まさかの人の登場により事態が一変してしまった。


「くそ! 何で、俺がクソ親父の尻拭いをしないといけないんだ! 誰か適当な奴でも捕まえて、憂さ晴らしを……」


 何と、今日は王城から屋敷に戻って罰金を払うために財産整理をしないといけないはずの兄が、何故か軍の訓練場前に悪態をつきながら現れたのだ。

 突然の兄の登場に、訓練場にいる僕たちは何をやっているのかと思わず固まってしまった。

 すると、兄は目ざとく僕のことを見つけたのだ。


「ケン、お前のせいで全てが台無しだ。死んで俺に詫びろ! お前の資産で罰金を払え!」


 兄は、怒りの表情で僕を指さしながら自分勝手なことをペラペラと話していた。

 でも、もう兄のこの姿には慣れたので、全くといっていいほど怖くなかった。

 クリスもスラちゃんも呆れてしまっていた中、この二人が僕の前に出た。


「はあ、全くお前という奴は懲りないな。あれだけ注意されたのに、何にも分かっていないな」

「兄上まで出てきて話をしたのに、もう忘れて勝手な行動をするとは。呆れてものが言えんな」

「ぐっ……」


 ルーカス様とヘルナンデス様の口調は呆れているが凄みのある迫力に、兄は思わず気圧されていた。

 というか、陛下にも色々と言われたのに速攻で破るとは、兄もある意味大物だ。

 そして、ヘルナンデス様がとんでもないことを兄に言ったのです。


「そこまでケン君を毛嫌いするのなら、実力で勝てばいい。俺は凄いのだと、弟にその実力を示せ」

「くそ、やってやる!」


 兄は、髪をかきあげて苛つきながら訓練場に歩いてきた。

 周りの人も、こりゃどうしようもないとお手上げ状態だ。


「ケン、頑張ってね!」


 クリスとスラちゃんたちはというと、既にルーカス様と共に訓練場から離れて僕に声援を送っていた。

 因みに、審判はヘルナンデス様がしてくれることになった。


「勝負を公平にするために、ケン君は魔法を使わずに手合わせするように。多少の怪我なら直ぐに治療できるものがいる、存分にやるといい」

「やってやる、やってやるぞ!」


 兄はというと、ヘルナンデス様の注意を聞かずに僕を睨みつけていた。

 気合だけは鎖を外される前の獣状態だが、果たしてどうか。

 僕も、呼吸を整えながら木剣を構えた。


「始め!」

「おららら!」


 ブオン、ブオン!


 兄は、ヘルナンデス様の試合開始の合図と共に僕に向かって走ってきた。

 うん、遅い、遅すぎる。

 胸当てなどを装備しているとはいえ、兄の足はとても遅かった。

 更に木剣も怒りに任せて大振りしていたため、僕も簡単に避けることが出来た。


 ブオン、ブオン。


「くそ、くそ! 何で当たらない、あたれー!」


 最初は兄も威勢良く木剣を振っていたが、段々と全く当たらないことに苛ついてきた。

 当然剣の軌道も更に雑になり、僕も簡単に避けたり受け止められた。


 ダッ。


「はあはあ、くそ!」


 僅か数分動いただけで、兄は肩で息をしていた。

 まだ冬なのに大汗をかいており、体力消耗は目に見えていた。

 そして、兄の醜い姿にギャラリーから溜息が漏れていた。

 というか、いつの間にか訓練場周辺には多数の人が集まっていた。

 良く見ると、治療施設の調理室のおばちゃんたちの姿もあった。

 ある意味、ちょっとしたイベントになっているぞ。


「ケン、余所見するな!」


 ブオン、ガキン。


 ギャラリーを見回していた僕のことが気に食わなかったのか、兄は上段から思いっきり木剣を振り下ろした。

 しかし、僕は兄の剣筋を見切っていたので、難なく木剣を受け止めた。

 もうそろそろいいかな?

 ヘルナンデス様も、もうやれと僕に指示を出した。


 シュッ、シュッ、シュッ。


「ぐっ!? ケンのくせに、ケンのくせに!」


 兄がギリギリ受け止められるであろう強さで、僕は木剣を連続で振るった。

 ところが、疲労困憊の兄にはかなりキツい攻撃だったようで、ズルズルと後ろに下がった。

 うん、もう終わりにしよう。


 シュッ、バキッ!


「ぐふっ……」


 僕は、一瞬の隙をついて兄の脇腹に手加減しながら木剣を叩き込んだ。

 兄は苦痛からか思わず膝をついたが、それでも僕のことを睨んでいた。


「どうした? 戦場は、命のやり取りだぞ。この程度で膝を着くな!」

「ぐっ、くそ!」


 ヘルナンデス様の叱咤激励に兄は何とか立ち上がったが、もう足が震えていた。

 もう、誰の目から見ても勝負はついていた。


「ちきしょう!」


 ブオン、ダッ!


 すると、兄は突然僕に木剣を投げつけてきたのだ。

 相手に剣を投げて怯んだ隙に攻撃するのもあるが、残念ながら兄が投げつけてきた木剣は力ないものだった。


 ガキン。


「ケン、死ねー!」


 ブオン。


 どうやら兄は僕が投げつけられた木剣に怯むと思ったらしいが、僕は何かすると予測していたため問題なく木剣を弾き返した。

 兄が鬼の形相で僕に拳を振り下ろしたが、全て見えていた。


 ガシッ、ブンッ。


「えい!」


 ドシーン!


「ぐはっ……」


 僕は兄が殴りつけてきた腕を掴み、一本背負いみたいに思いっきり投げつけた。

 兄は背中を強く打ち付け、直ぐに気絶したのだった。


「わぁ!」

「「「「「うおー!」」」」」


 手合わせが決着すると、クリスとスラちゃんたちは直ぐに僕たちの所に来て、僕の勝利を喜んでいた。

 訓練場周囲に集まっていた人たちも大きな歓声をあげたが、直ぐにヘルナンデス様が兵にある指示をした。


「懲罰房に連行しろ。後で、適当にポーションでも飲ませておけ」

「「「「「はっ」」」」」


 気絶している兄は、兵によって担架に乗せられて連行された。

 連行される兄のことを、多くの人が軽蔑の目で見ていた。

 しかし、ヘルナンデス様は更に兵に命令を続けた。


「陛下からの命令違反に伴う、ギャイン騎士爵家への強制捜査を実施する。本日巡回担当の兵は、直ぐに準備をするように」

「「「「「はっ」」」」」


 兵は、ヘルナンデス様に敬礼して直ぐに行動に移った。

 陛下直々の命令を速攻で破ったので、もはや国としても何も遠慮することはなかった。

 僕はというと、兄の残念な行動に溜息をつくばかりだった。

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