第十一話 国境へ出発
こうして、三日間はとにかく治療施設での治療で忙しく過ごした。
多くの人を治療し、僕もスラちゃんもとても良い経験になった。
多数の負傷兵が前線に復帰できると、ルーカス様もヘルナンデス様もとても喜んでいた。
元気になった兵も、これで帝国と戦えると気合が入っていた。
いよいよ帝国に出発する日になった。
僕は朝早くに起きて、身支度を整えた。
ベッドも綺麗に整えて、生活魔法で綺麗にした。
側にいた使用人に、「綺麗にしすぎてます」と苦笑された。
食堂に行って朝食を食べると、いよいよ準備完了だ。
廊下に移動すると、王家の方々が僕とルーカス様の見送りに来てくれた。
「ルーカス、ケン君、道中気をつけて。必ず帰ってくるように」
最初に、アーサー様がルーカス様と僕に握手をしてくれた。
「必ず帰ってくるように」という言葉に、僕たちのことをとても心配してくれていると感じた。
僕の頭の上に乗っているスラちゃんにも、わざわざ握手をしてくれた。
「二人とも、怪我をしないで本当に気をつけてね」
王妃様は、ルーカス様と僕をギュッと抱き締めてくれた。
もちろん僕も心配してくれているが、やはり息子が戦場に行く不安はとても大きいのだろう。
「ルーカス、ケン君、体に気をつけてね。ケン君には、治療のお礼にこれをあげるわ」
王太后様は、わざわざ膝をついて自らの手で僕の腰に魔法袋をつけてくれた。
これは物を収納できる魔法使い用の魔法袋で、魔力を魔法使いから使うため汎用よりも安いという。
汎用の魔法袋は、収納力が付属する魔石に充填された魔力に依存するらしい。
僕は、改めて王太后とハグをした。
「余は、軍に訓示を行わないとならない。さあ、行くぞ」
「「はい!」」
陛下が颯爽と先頭を歩き、ルーカス様、僕は、その後に続いた。
魔導昇降機に乗り、改めて王家の方々に手を振った。
玄関で豪華な馬車に乗り込むと、ここで改めて陛下が僕に話し始めた。
「ケンには感謝しなければならない。母上やヘルナンデスだけでなく、多くの兵を治療した。体の傷だけでなく、心まで癒やした。様々な痛みを知っている、ケンならではだろう」
前世の記憶も含め、僕は自分が痛い思いをした。
だからなのか、痛い思いをしていた人が笑顔になって本当に良かったと思った。
人に喜んでもらった経験が少なかったのもあり、余計に心の中に残ったのかもしれない。
そして、程なくして僕たちを乗せた馬車は軍の基地に到着した。
既に積み込み作業は進んでおり、後は出発するだけだった。
すると、ルーカス様がこんなことを僕に指示した。
「ケン君、食料が道中傷まないように魔法袋に入れてくれ」
今は夏に向かう季節で、とても暑い日もあった。
肉も野菜も、駄目になっては食中毒の危険性もある。
僕は、野菜が積んである馬車のところに向かった。
シュッ。
「「「「「おおー!」」」」」
僕が大量の食料を魔法袋にしまうと、周囲にいた兵から大きな歓声が上がった。
空いたスペースには、兵が飼い葉などを載せていた。
改めて準備が整ったところで、見送りの兵も含めて陛下からの訓示を聞くことに。
一番前に、部隊指揮を執るヘルナンデス様とルーカス様が立った。
僕は、ちょこちょこと兵の陰に隠れていた。
「ケン、何をしている。こっちに来る様に」
ところが、陛下から僕も一番前に来いと手招きされてしまった。
うぅ、目立つつもりはなかったんですけど……
僕は、少しガックリとしながらルーカス様の隣に並んだ。
「王国の勇猛果敢な諸君に、敢えて現状を細かく伝える必要はないだろう。大切な人を守るためにも、君たちの力が必要だ。残念ながら、こうした小さな力も必要としている状況だ。帝国の侵略を食い止め、無事に王都に帰ってくることを願う」
「「「「「はっ!」」」」」
陛下の言葉に、僕も含めて全員が頭を下げた。
そして、さっそく馬車に乗って出発することに。
「ヘルナンデス、ルーカス、ケン、頼んだぞ」
「「「はい!」」」
陛下は、ヘルナンデス様、ルーカス様、僕とスラちゃんとガッチリと握手をした。
なんと、陛下は出発する兵全員ともガッチリと握手したのだ。
これには、兵も大感激していた。
「兄上は、こういう演出がとても上手い。軍人だけでなく、人の心に入り込むのが得意だ」
ヘルナンデス様も、上機嫌で陛下の対応を見ていた。
国王陛下にこれだけの対応をされたら、兵もやる気が出るでしょう。
そして、陛下は残存部隊に別の指示を出していた。
「シーリア、ケンが戦地に行ったと噂を流しておけ」
「なるほど、ギャイン騎士爵を含む贅沢派への牽制ですね。さっそく伝えておきます」
陛下は、見送りに来ていたシーリアさんだけでなく数人に同じ指示を出した。
既に多くの兵が見送りに来ていたし、ルーカス様曰くシーリアさんは顔が広いから直ぐに噂が広まるという。
「それでは、兄上行ってまいります」
「うむ、良い報告を待っている」
ヘルナンデス様は、馬車の窓から陛下と改めて話をした。
「出発!」
そして、ヘルナンデス様の声で僕たちを乗せた軍勢は進み始めた。
総勢五百人を超える、大部隊だ。
僕とスラちゃんは、馬車の窓から見送りに来てくれた人々に手を振った。
よく見ると、治療施設の調理場のおばちゃんたちの姿もあった。
多くの人の見送りを受け出発した馬車から見える軍の施設は段々と小さくなり、やがて見えなくなったのだった。
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