第百三話 ちょっと変わった日常
シュイン、カンカンカン!
「「えい、やあ!」」
慰労会の翌朝、僕の屋敷の庭には木剣を打ち合う音が響いていた。
もちろん僕とクリスが木剣を打ち合っていて、身体能力強化魔法を使った高速戦闘を行っていた。
因みに、木剣が耐えられないという理由で魔法剣は発動していなかった。
僕たちから少し離れたところにはスラちゃんたちがおり、僕たちの手合わせの成り行きを見守っていた。
ザッ、ジリッ、ジリッ。
「「……」」
打ち合いからお互いに距離を取り、木剣を構えて相手の動きを見計らっていた。
気配察知を忘れず、周囲の状況も感じながら相手の一挙手一投足を伺った。
「二人とも、時間よ」
「「ふぅ……」」
すると、スラちゃんたちの側にいたフリージアお祖母様が僕とクリスに声をかけた。
お互いに剣の構えを解き、警戒態勢からリラックスモードに切り替えた。
「クリスも、魔法の力だけじゃなくて剣の腕も上がっているね」
「ケンこそ、昔と比べると反則的にレベルが上がっているわ」
お互いにタオルで汗を拭きながら感想を言い、そして揃ってフリージアお祖母様のところに向かった。
「二人とも、本当に腕を上げたわね。とてもいい感じだったわ」
「「ありがとうございます」」
実はフリージアお祖母様は軍人貴族出身で、意外と剣に詳しかった。
ピンポイントで改善点を指摘してくれ、ある意味僕とクリスの剣の師匠となっていた。
スラちゃんたちもお互いに剣の稽古をしていたが、今日はこれで終わり。
僕たちは、屋敷に入って朝食を食べることに。
「クリスちゃんが屋敷に泊まるための荷物は、既に運び込んでいるわ。ケン君は分かっていると思うけど、一緒に寝るのは結婚してからよ」
「「はい!」」
フリージアお祖母様は、朝食を食べながら僕とクリスちゃんに貴族らしい注意をしていた。
クリスちゃんが僕の部屋に入るのは構わないので、そこまでの制限はない。
もちろん、お風呂とかも別々だ。
貴族としてのマナーだし、僕も破るつもりはなかった。
「それと、クリスちゃんは貴族夫人になるための勉強もするわよ。礼儀作法とかは問題ないけど、覚えることはたくさんあるわ。まだ結婚まで時間があるから、順に覚えて行きましょう」
「はい!」
フリージアお祖母様の今後の方針を聞き、クリスちゃんはとてもやる気満々だ。
クリスちゃんはとても頭も良く、読み書き計算は全く問題ない。
きっと、色々な知識も直ぐに覚えられると思っていた。
「とはいえ、クリスちゃんがこの屋敷の使用人と良好な関係なのはとても良いことなのよ。屋敷によっては、使用人による嫁イビリもあるのよ」
元々僕の屋敷に遊びに来たり訓練を行っていたため、屋敷の使用人とも顔見知りで良好な関係だ。
まだ貴族家として歴史が短いのもあるからこそ、使用人も歴史に縛られないのもあるかもしれない。
これが歴史のある貴族家だと、しきたりなどで揉める可能性があるだろう。
「じゃあ、この後は教会での奉仕活動ね。気をつけて行ってくるのよ」
「「はい!」」
僕とクリスは、フリージアお祖母様に元気よく返事をした。
以前大教会でのトラブルからスラム街での奉仕活動を始めて以降、僕は王都内にある教会を順に回って奉仕活動をしていた。
スラム街などの危険な場所以外は、クリスやシンシアお姉様も奉仕活動を手伝ってくれた。
今日は普通に町中にある小さな教会で奉仕活動を行う予定で、以前にも行ったことがある場所だった。
僕たちは馬車に乗り込み、さっそく教会へと向かった。
シュイン、ぴかー!
「ふう、これで大丈夫です。でも、今日は人が沢山集まっていますね」
「【蒼の治癒師】様が治療をされておりますので、それだけ多くの人の噂になっております」
シスターさんもビックリするくらいの人が集まっているが、僕、シロちゃん、レモンちゃんがいるから治療の手は足りていた。
スラちゃんは相変わらず馬に乗って犯罪者を捕まえており、クリスはリーフちゃんとアクアちゃんが作ったスープを配っていた。
この辺りの役割分担は変わっておらず、軍も良い訓練になるといつも人員を出してくれた。
引き続き町の改善点も聞いており、知り合いの上級官僚なども頑張って改善方法を検討していた。
以前と比べて町の環境も少しずつ改善しており、僕たちに対する町の人々からの評価も良かった。
町の人々に喜んでもらおうと僕たちも頑張っていたのだが、そんな僕たちの奉仕活動が面白くない貴族もいた。
ザッ。
「おい、今すぐ奉仕活動を止めろ!」
「「うん?」」
この日も、僕たちの前で豪華な貴族服を着た横に大きい貴族が、口から唾を飛ばしながら叫んでいた。
人を指さしてだいぶ失礼だなと思いつつ、またかと思ってしまった。
「お前たちの活動のせいで、俺たちの悪評が広まっている。どうしてくれるんだ!」
僕は福祉に積極的なのだけど、父親を始めとする貴族主義勢力の中の、特に贅沢派は自分たちは選ばれた存在だと信じて贅沢をすることしか考えていなかった。
こういう贅沢派は噂話に敏感で、小さい僕が福祉作業に熱心なのに他の貴族は何をしているのだという声が聞かれたのだ。
因みに、普通の貴族は奉仕活動などの福祉活動を行っているので、批判などは何もなかった。
そして、こういう妨害行為が発生すると、僕は必ずあるものを見せた。
ごそごそ、サッ。
「国と教会からの依頼書になります。僕は、陛下からの依頼で教会と連携を取りながら奉仕活動をしています。僕ではなく、陛下と教会の偉い人に抗議をお願いします」
「ぐっ、くそ!」
脱兎の如く逃げていく貴族の背中を見て、僕は思わず溜息をついた。
贅沢派の特徴として弱いものには強気な態度を取るが、強いものには恭順な態度を取る。
そのため、正式な依頼書などがあれば逃げ帰ることが多かった。
何というか、権力ってのは難しい。
僕は、権力を求めてはいないけどね。
こうして奉仕活動を終え、クリスと一緒に屋敷に戻った。
「遂に、ケンの屋敷にお泊まりね。とても楽しみだわ」
屋敷に戻ると、クリスのワクワクは止まらなかった。
以前よりシンシアお姉様などと客室で泊まったりしたことはあったが、自分の部屋を持って寝るのが良いという。
使用人もかなり張り切って部屋を掃除していて、いつでもクリスが屋敷に泊まっても大丈夫だと言っていた。
クリスは、間違いなく夕食などもワクワクしているはずだね。
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