第百一話 婚約決定
僕たちを乗せた馬車が王城に到着すると、直ぐに王城の使用人が僕たちを出迎えてくれた。
応接室に案内されると、そこには予想外の人たちがいたのです。
「「「失礼します」」」
「ふふ、待っていたわ」
「あれ? ケン君だ」
応接室で僕たち三人を出迎えたのは、王妃様、クリスちゃんを始めとするダイナー男爵家の方々、そしてエレンお祖父様だった。
何となくどんな話か分かったが、先ずは席に着こう。
すると、開口一番王妃様からこんな話が飛び出した。
「本当は、来年辺りから話を進めようとしたのよ。でも、最近しつこい馬鹿が現れたから、ケン君とクリスちゃんの婚約を進めることにしたのよ」
「わあ!」
王妃様の話を聞いた途端、クリスちゃんは手を合わせながら満面の笑みだった。
というか、とても優しい王妃様が「馬鹿」という程の貴族が現れたんだ。
他の人たちもとても嬉しそうな表情だったのだが、冷静な態度を崩さない僕を王妃様はちょっと不思議そうな表情で見ていた。
「実は、ちょうど屋敷でフリージアお祖母様とシンシアお姉様と一緒に僕の婚姻関係のことで話をしていました。その、僕に無理に求婚してくる貴族のことも含めてです」
「それは、タイミングが良いわね。実は、まさに今お義母様のところにケン君へ婚姻を勧める貴族が来ているのよ」
王妃様は、もう呆れた感じで話してくれた。
実に五回目の来訪らしく、温厚な王太后様もブチギレ寸前だという。
ここで、僕はあることが気になったのだ。
「あの、クリスちゃんのお兄さんのナッシュさんよりも早く婚約を結んでも良いんですか?」
ダイナー男爵家の嫡男よりも、少し年の離れた妹の方が先に婚約してもいいのかが気になった。
「それは問題ない。ナッシュは今地方の守備隊にいるが、予定では来年王都に戻ってくる。その際に、とある貴族令嬢とお見合いをする予定だ」
「お兄様もよく知っている人だよ!」
クリスちゃんも補足してくれたが、エレンお祖父様も問題ないと言ってくれた。
兄弟の中で婚約する順番が前後するのは、実はよくあることだという。
それなら、僕もホッと安心だ。
「この後行われる帝国との軍事衝突に対応したものへの慰労会の際に、ケン君とクリスちゃんの婚約を発表しましょう。主だった貴族などは集まるし、婚約発表の良い機会でしょう」
王妃様も、色々と手続きを始めると言った。
そして、ケーラさんはクリスちゃんに対してこんなことを言ってきた。
「クリスは、週の半分はケン君の屋敷で過ごすようにしましょう。ケン君はたった一人で屋敷を運営しているし、クリスもサポートするようにね」
「はい!」
クリスちゃんは、やる気満々の声でケーラさんに返事をしていた。
元々クリスちゃんは僕の屋敷によく遊びに来ていたし、ハンナおばさんたちともとても仲が良かった。
僕の隣の部屋を使うそうなので、屋敷に帰ったら綺麗にしてもらおう。
すると、ここで王妃様のとある提案に僕とクリスちゃんは固まってしまった。
「それと、二人ともお互いの呼び方を変えないとね。君やちゃんではなく、結婚までは呼び捨てにしてもいいわね」
「「えっ!?」」
話を振った王妃様だけでなく、ケーラさん、フリージアお祖母様、シンシアお姉様までがニヤリとしながら僕とクリスちゃんを見ていた。
対して、ビーズリーさんとエレンお祖父様は、もうニマニマしている女性陣は止められないと判断して大人しくしていた。
「えっと、ケン?」
「く、クリス?」
「な、何だか急に恥ずかしいね」
クリスが顔を真っ赤にしながらもじもじとしていたが、きっと僕も顔を真っ赤にしているだろう。
そんな僕とクリスのことを、女性陣は思いっきりニヤけた表情で見ていたのだった。
「じゃあ、お義母様のところに向かいましょう。馬鹿のことをギャフンと言わせないといけないわ」
ということで、僕たちは物凄く良い表情をしている王妃様の後をついて、王太后様と問題を起こしている貴族当主のいる別の応接室に向かった。
「良い加減にして下さい。あなたの下心は見え見えです。そんなあなたのいる貴族家とケン君との婚約などあり得ません!」
すると、ドアを開ける前に王太后様の怒号が聞こえてきたのです。
温和な王太后様がここまで怒るなんてと、僕たちは思わず顔を見合わせてしまった。
これは良くないと、王妃様はいきなりドアを開けて応接室の中に入った。
ガチャ。
「失礼します。お義母様、ケン君とクリスちゃんの婚約が両家の家族の元で成立しました」
「はっ!? 婚約?」
僕たちも王妃様に続いて部屋の中に入ると、最初に目に入ったのは尻もちをついてぽかーんとしているかなり横に大きい豪華な貴族服を着たツルッパゲの中年男性だった。
そして、王太后様はというと、使用人から後ろから羽交い絞めみたいな感じで抱きかかえられる程だった。
とはいえ、王太后様は僕とクリスの様子を見ると直ぐに表情を崩した。
「あらあら、二人とも何だか初々しいわね」
「実は、呼び方を変えたんですよ。そうしたら、顔を真っ赤にする程恥ずかしがっちゃったのです」
「まあまあ、私もこんな馬鹿を相手にせずにそんな素晴らしい場面を見たかったわ」
王太后様は、王妃様の報告に目を輝かせながら返事をしていた。
あの、さっきの恥ずかしい場面はできればカットで。
「な、なな?」
そして、豪華な貴族服を着た貴族は尻もちをついたまま未だに状況を理解していなかった。
すると、ここで動いたのは意外にも財務官僚でもあるエレンお祖父様だった。
「これはこれは、オカネスキー伯爵様ではありませんか。本日は、この後脱税の件で軍と財務による聴取を受ける予定ではありませんか?」
「げっ……」
エレンお祖父様は、敢えてニコニコしながら豪華な貴族服を着た貴族に話した。
うん、目の前の貴族当主は顔面真っ青になって汗ダクダクになっている。
この時点で、既に脱税は間違いないと言っている様なものだった。
更に、この人の追撃が入った。
「私も、本件に携わっておりますので。確か、軍がオカネスキー伯爵様をお迎えに参るはずでした」
「あっ……」
ビーズリーさんも、敢えて恭しい言葉で話しかけた。
おお、わざわざ軍が屋敷に迎えに来るなんて、この貴族当主はとても凄い待遇なんだ。
当の本人は、完全に忘れていたという表情だけど。
ガチャ。
「失礼します。やっぱり、ここにいたのか。スラちゃん、念動でオカネスキー伯爵を運ぶのを手伝ってくれ」
トドメに現れたのは、軍の重鎮でもあるルーカス様だった。
どうやら、わざわざルーカス様が未だに尻もちをついている貴族を迎えに行ったみたいだ。
シュイン、ふわっ。
「なっ!?」
スラちゃんはルーカス様に綺麗な敬礼をした後、念動で貴族当主を宙に浮かべた。
貴族当主は驚きの声を出すが、腰が抜けて力が入らないのか手足を少しバタつかせるしかできなかった。
「少し早いですが、これよりオカネスキー伯爵への聴取を開始します」
「それでは、我々も行かないといけないですな」
「そうですな。オカネスキー伯爵様から、じっくりと話を聞かないといけないですな」
こうして、逃げることのできない貴族当主は、ルーカス様だけでなくやる気満々のエレンお祖父様とビーズリーさんと共に軍の施設へと向かったのだった。
残ったのは、僕以外全員女性ばかりだ。
「それでは、気を取り直してお茶にしましょう。せっかくだから、メアリーも呼びましょう」
「ええ、それが良いわね。ここからは、ストレスフリーだわ」
何というか、王妃様よりも王太后様が一番ホッとしていて一番キラキラしていた。
こうして、僕は昼食の前まで延々と女性陣に囲まれて話を聞かされていた。
既に結婚式がどうこうとか子どもは何人とかの話がでており、もう止めることは不可能だった。
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