眠らない冬の街
ゴウゴウと唸る重低音が、二階で眠るハナンを起こした。何事だろうと、ハナンは布団の中で耳を傾ける。
まだ夜が明けない時間帯に、地を揺らすような物音が響いている。それは紛れもなく外から聞こえてくるのだった。
そういえば、今夜は大雪になると、モニター越しの気象予報士が興奮した様子で話していた。嬉しいからではない。大雪は、ありとあらゆる交通機関を麻痺させる恐れがあるためだ。
ハナンも学校帰りに一度だけ、乗っていたスクールバスが立ち往生したことがある。道路には長い車輛の列ができ、ちっとも前に進まない。もさもさと降る雪が行く手を塞いでいるらしかった。
街路灯が灯る頃になって、父が雪を掻き分けてやってきた。窓を叩く父の手には、スコップが握られている。他にも、救助の人なのかボランティアの団体なのか、大勢の人たちが道路に溢れていた。
子どもたちは彼らによって、先に救助された。運転手には差し入れが配られる。
「すまないな。連日の大雪で除雪が間に合わないんだ。今、仲間が除雪車を動かしてはいるが……」
バスを降りたハナンに父が申し訳なさそうな顔をする。父の視線の先では、豪快に除雪するブルドーザーのライトが夜を照らしていた。
「僕は構わないよ。それより、早く皆を助けてあげて」
ハナンがそう伝えると、父はにっこり笑って前方へ歩いていく。その後ろ姿は頼もしく、街のヒーローを思わせた。
そうだ、除雪車が来たんだ。
ハナンは飛び起きて、カーテンを引いた。窓を覗くと、巨大な重機のシルエットが家々の向こうに見えている。窓を少しばかり開けると、冷たい空気が雪とともに部屋に吹きこんできた。その冷たさがなんだか心地好くて、ハナンは白い息を吐きながら、雪に覆われた街の光景に目を奪われた。
深夜多くの人が眠っている間に、除雪車はこうして動いている。朝起きて通学や通勤するとき、快適に道路を通行できるのは父たちのおかげだろう。
手前でも奥でも、除雪車のライトが夜を明るくしている。ハナンは仕事真っ只中の父に手を振った。街の生活を陰ながら支えていると思うと、自分の父がなんだか誇らしかった。
いい加減寒くなってきたので、ハナンはまた布団に戻った。すっかりかじかんだ手足を擦り合わせる。もしかしたら、朝には風邪っぽくなっているかもしれない。しかし、心はじんわりと温かかった。
翌朝、通学路を確認すると、雪が綺麗に路肩へ寄せられていた。朝陽を受けた路面の雪は、きらきらと滑らかに光を放っている。その目映い道を見慣れたバスが走ってきた。今日も平穏な一日が始まる。
ゴウゴウと振動する重低音。冬が終わるまで、ハナンは夜中に耳を澄ますことだろう。




