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木枯らしは恋の始まり?〜頭上から図鑑が落ちてきた!メガネは失いましたが、代わりに王子様をゲットしました〜

作者: 藤 野乃

 ゴン!!


 鈍い音と共に視界に星が飛んで、私は床に倒れ込んだ。


「え、あ、おい……大丈夫か」


 慌てふためく声が聞こえ、ゆっくり世界が戻ってくる。

 古書独特の匂い、微かな埃の匂い。

 そして、痛いくらいシンとした静けさ。


「えっと、大丈夫です……?」


 一体何が起きたのだろう。

 私は混乱したまま、声のした方向を見上げた。

 金色の髪、背の高い男性……。

 目の色や表情はぼやけていて、よくわからない。


「メガネ……」

 

 私は少し慌てて、吹っ飛んだメガネに手を伸ばした。


 (ああ、割れちゃってる……)


「怪我は……」


 大きな手が、私の地味な茶色の髪に触れる。


「うん、出血は無いようだが──頭だからな。救護室に行かないと」


 立ち上がりかけた私の身体が、フワリと宙に浮く。


 (えっ? 待って待って、お姫様抱っことか聞いてない!)


 驚きのあまり固まる私は、何も言えないまま救護室に連れて行かれた。

 頬に一瞬触れた彼の服は厚手の生地のようで、堅かった。

 木の香りのような、落ち着いたいい香りが鼻腔をくすぐる。


 (秋の香りがする……今は冬だけど)


 救護室で問題がないと診断され、そのまま置きっぱなしだった荷物を取りに図書室へ。

 

 困った大型犬のように男性がエスコートしてくれたが──私の内心は戦々恐々。


 (第三皇子殿下じゃないの! しがない子爵家の末っ子が話していい相手じゃない!)


 その日から、私の頭に図鑑を落とした第三皇子殿下の猛攻が始まった。


「俺の借りた本、すべての貸し出しリストに君の名前があった」

「絶対話が合うと思う」

「可愛い」


 私の手を取り、リップ音を響かせ指先に口付け。

 菓子を手に取り、口に押し込んでくる。

 顔と顔の距離が近い。


 (近い近い近い! 悪い気はしないけど、しないんだけどぉー!)


 大人気の第三皇子殿下だよ?

 嬉しいけど、周囲の目が怖い!

 

 毎日赤いバラを一本。

 OKの場合は白いバラと──お互いのイニシャルを刺繍したハンカチ。

 この国の風習だ。


「心配? 大丈夫、ちゃんと守るよ」


 低く甘い声が私を口説き続ける。


「王位継承権は放棄済み、騎士団長として収入も安定。優良物件だと思わない?」


「ひゃい! 確かにそうなんですけどぉ……」


「なら問題はないよね。俺は君が好き、君も嫌がってない」


「…………」


 家に帰り、顔を赤くしながら私は明日の準備をした。

 アイロンもかけたし、汚れもほつれもしっかりチェックしてある。


 木枯らしの風が窓を鳴らす。

私は刺繍を施したハンカチを、そっと鞄に入れて微笑んだ。

 


 

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