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第8話 父のこと

1話あたりの文字数が多すぎたので、9話まで分割して再投稿しています。

 ジョージの覚悟にエドワードは腕を組んで唸る。


「そこまで知りたいかの……」


「父上のことを何も知らずに生きていくのは、何というか……その、嫌なんです。上手く言えないですけど、自分の命を代償にしたのに、肝心の息子に忘れられているのはあまりにも残酷じゃありませんか?」


「うーむ……」


 エドワードはジョージの考えに一定の理解は示しつつも、中々首を縦に振らなかった。しかし、この話題を言い出した手前引くに引けなくなった師はようやく諦念に至った。


「ダニエルは15年ほど前に弟子にした男でな。奴はただの雑兵で、15になったばかりの若造じゃったが、戦場での活躍は見事なもんじゃった。とはいえ、まだまだ粗い所も多かったのでな。わしが雇う形で弟子にしたんじゃ」


 ジョージに刺激を与えすぎないように配慮してか、エドワードは顔色を逐一、窺うような様子で語り続ける。


「奴は素直で、礼儀正しい性格をしていた。言われたことはキチンとこなす。目上の者への敬意を払う。当たり前のことじゃが、平民出身にしては割とすぐに城の連中の輪に溶け込んでいった。……弟子にして3年目。奴は騎士に取り立てられた。──クロムウェル城の戦いは知っておるか?」


「一応……確か、ここ30年ほどの中では一番大きな戦いですよね」


「そうじゃ。それまで烏合の衆じゃった保守・革新の両派が、初めて統一の指揮官を擁して戦った戦でもある。……激戦じゃった。保守派のクロムウェル城を囲む革新派軍の背後を突いて始まったこの戦は、当初は保守派軍の圧倒的優勢にあった。しかし、革新派軍の中から魔法が放たれたあの瞬間から、両軍入り乱れる大乱戦になった。わしとダニエルは共に先代のゴードン閣下の下で戦っていたのじゃが、敵の魔法攻撃が本陣付近に落ちた時に離れ離れになった」


 エドワードは顔を紅潮させながらまくし立てる。戦争の記憶を思い出していくうちに、血が騒ぐのだろうか。


「わしは幸い、ゴードン閣下の側に残れた。……残ったからといって、閣下の御命を守れたわけではないがの。一方でダニエルは、本陣から離れた場所に吹き飛ばされたが無傷で済み、近くで戦っていたトーマス閣下に加勢したようじゃ」


 このクロムウェル城の戦いで、フランクの父、ゴードン・ヘンズリーは34歳で戦死している。弟のトーマスは当時28歳。ゴードンの本陣から少し離れた場所で指揮を執っていた。


「主人を守れず、ただ呆然とするしかなかったわしらと違い、ダニエルはトーマス閣下の下で戦闘を継続した。じゃが、ある魔法使いが閣下を狙い撃ちしようとしているのが視界に映ったらしい。奴は咄嗟にトーマス閣下を押し倒して窮地を救い、立ち上がるや否や全速力で魔法使いに向かって斬りかかった!繰り出される魔法を避け、手傷を負わせて撃退した」


「その手柄で騎士に取り立てられた、と……」


 エドワードは深々と頷く。


「戦は両軍痛み分けで終わり、トーマス閣下は先代の後を継いで辺境伯となった。そして、命を救われた感謝の印として、騎士に取り立て、側仕えにダニエルを抜擢したのじゃ」


 ここでジョージは違和感を覚えた。


「ちょっと待ってください。クロムウェル城の戦いって12年前の聖暦283年ですよね。ゴードン様の嫡子であるフランク様は2歳でお生まれになっているじゃありませんか。なんで小父上が摂政などに就かず、称号を継承出来たんですか?」


「……若が嫡子ではなかったからじゃ」


 言いにくそうな口調でボソッとエドワードは声を漏らした。


「ゴードン閣下は、正室との間に子を授かることがなかった。仲は正直良くはなかったが、特段悪かったとも言い難いな。運が無かったのじゃろう。当時、トーマス閣下にもキャサリン様しかお生まれでなかったからか、焦ったゴードン閣下は妾をつくり、子を設けた。それが若じゃ。……つまり、庶子じゃ」


 今日3度目の衝撃を受けたジョージは床を蹴って立ち上がってしまう。あれだけ貴族風を吹かせていた人間が、本物の貴族ではなかった。言葉には言い表せない感情に揺さぶられ、動揺を隠せないジョージを、エドワードは落ち着かせ、話を戻した。


「──オホン。とにかく、後を継いだトーマス閣下の側仕えとなったダニエルは、わしの部下ではなくなり、わしも城の部隊を率いる立場になった。それから2年経って、革新派が騒がしくなったことを受けて、信頼できる何名かの騎士が国境の村々に送られた。ダニエルもそのうちの1人じゃ。そうしてすぐに村娘と結婚し、子供が生まれたとトーマス閣下から聞かされた。誕生日は聖暦285年4月23日。……こうしてお前が生まれたんじゃよ、ジョージ」


 そう締めくくると、エドワードは夜も更けてきたからと言い、部屋から出ていった。ジョージも寝間着に着替え、ベッドに潜る。目を閉じると、今日起きた全ての出来事がフラッシュバックして中々寝つけそうにない。天蓋のレースカーテンに縫い付けられた家の紋章を見ながら、父のこと、自身のこと、トーマスのこと、フランクのこと、……これからのことに頭を使ったものの、ジョージの脳は既に処理能力の限界に達していた。

 悩みや不安は尽きないが、今の自分に出来ることは何もないと言い聞かせ、無事に寝られることを祈って再び目を瞑った。

登場人物

・ジョージ・ウェブスター……革新派の襲撃を受け、記憶と両親を失った。

・エドワード隊長……オルグレン辺境伯軍の隊の1つを預かる老将。

・ダニエル・ウェブスター……クラガン村を治めていた騎士。革新派の襲撃に善戦するも、息子を残して戦死した。

・ゴードン・ヘンズリー……前オルグレン辺境伯爵。聖暦283年のクロムウェル城の戦いで戦死した。

・フランク・ヘンズリー……前オルグレン辺境伯爵の遺児。

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