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第7話 エドワードとダニエル

1話あたりの文字数が多すぎたので、9話まで分割して再投稿しています。

 自室に連行されたジョージは誰が見ても放心状態だった。──考えが甘かった。貴族に手を出して許される立場に、ジョージはいなかった。

 うなだれる弟子を見て、エドワードはため息を吐く。憐れみか、同情か、それとも呆れか。いずれにしても、今のジョージにはどうでも良かった。


「小父上……」


 心の声が現実世界に漏れだす。この数ヶ月、良好な関係を築けていたと思っていたのに、ひとつの判断ミスで全てが崩れ去った。──全て。

 心にぽっかり空いた記憶の大穴だけでなく、養父という依存先を失ったジョージは、その思考の負の連鎖を止められない。死すら脳裏をよぎったその時、エドワードの呼び掛けでこの思考の悪循環にストップがかけられた。


「おい。おい、ジョージ。聞いとるのか?」


「……はい……師匠」


 思考が現実に引き戻されたジョージは、絞り出すような返事をしたが、エドワードに届いたか分からない。エドワードも返事の内容は期待していなかったようで、またため息を吐きながら、暖炉脇に避けられていた椅子を2脚引っ張ってきて片方を渡してきた。


「とりあえず座れ」


 言われるがまま座ったジョージに、エドワードは驚くべきことを言い放つ。


「お前、死ぬんじゃないぞ」


「っ!?」


 心を見透かされたような師の発言にジョージは思わず顔を上げる。その少年の視線の先には、訓練の時とは違った真剣な面持ちのエドワードがいた。口を固く結び、三白眼の瞳には純粋に心配する気持ちが浮かんでいて、冗談や当てずっぽうで言った言葉ではないことを、ジョージは瞬時に理解した。


「……何で、僕が死にたいって思ったのが分かったんですか?」


 恐る恐る理由を聞くと、エドワードは目をそらさずに淡々と語る。


「長く生きていると、色々と経験を積むものでな……お前の置かれた状況を鑑みて、もしやと思ったが……。案の定じゃったか」


 過去の記憶を思い出したのか、かすかに顔をしかめた。多くの騎士を輩出した生きる伝説のエドワード隊長もこんな一面を見せるのかと、ジョージが若干驚きを隠せないでいると、老騎士がぐっと顔を近づけて告げた。


「お前は、わしの弟子が遺した子じゃ。ダニエルが命を賭けて守ったお前が、死を選ぼうとしておるのであれば、わしは見過ごす気はない。トーマス閣下から見捨てられたとしても、わしがお前の後見人となろう」


「……父上……が、師匠の弟子……?」


 突然、師と父の繋がりを明かされ、自身の後見人になるという鬼気迫るエドワードの発言に気圧されたジョージは、養父から扶養解消を突き付けられたことを上回る興味をそそられた。湧き出る好奇心は負の感情を押しのけ、ジョージの顔に明るさが取り戻される。


「あのっ!ち、父上はどんな人でしたか?小父上に聞いても“勇敢な騎士だった”、“誇りを持った武人”としか教えてくれなくて!それに、師匠もどうして今まで黙っていたんですか!?」


 矢継ぎ早に飛び出す質問にエドワードは少し怯んだが、両手でジョージを静止して落ち着かせる。


「ダニエルがどういう男だったかを話す前に、わしとトーマス閣下が、なぜお前に父の情報を教えなかったかを伝える必要がある」


 息を整えながら、ジョージは早く続きをと言わんばかりに目で訴える。一方で、エドワードはジョージが落ち着くのを待って、ゆっくり丸椅子に座り直してから語りだした。


「まず、お前に父母の情報を伝えなかった理由だが……もし、お前が父母の詳細な証言を聞き、記憶を取り戻した場合、再度家族の死という絶望を味わうかもしれんと懸念したからじゃ」


「家族の死……」


 記憶に存在しない父母の死を、うまく想像できない今のジョージにとってはピンとこない話だが、エドワードの複雑そうな表情を見せられると、ジョージは少しだけ理解出来たような気がした。


「お前は、お前の家族が死んだ状態で記憶を失って保護された。これが意味するのは、激しい精神的なショックを受けて、脳みそが記憶を強制的に封じ込めた可能性が高いっちゅうことじゃ。……戦場で親兄弟、戦友を失った兵や、お前のように戦争に巻き込まれて家族を亡くした平民たちが耐え難い苦痛から記憶喪失になってしまう事は、わしも何度も見てきたからの……。あれは他人事と割り切らんとしんどいものじゃ……」


 先ほどの苦々しい顔をした時にエドワードが思い出した記憶の一部だろうか、生々しい話にジョージの熱量も徐々に冷めていく。そんなジョージの様子を見たからか、エドワードは気を遣ってダニエルの話は止めようと言い出した。


「わしらがお前に情報を与えなかったのはこういうわけじゃ。他人の例を聞くだけでも辛いというのに……お前は、お前の家族の話を聞きたいかの?」


 ジョージは迷った。今まで隠されてきた父の話に興味が湧いたのは事実だ。

 反対に、怖くもあった。エドワードが言うように、話を聞いているうちに記憶が蘇って、もう一度絶望を味わうことになる可能性も否定できない。百戦錬磨の師が弱音を吐くほどの失意の奈落をまた覗いてしまうのか──

 ……いや、知りたい。自身の父がどんな男だったのかをどうしても知っておきたい。知らずに目を背け続ければ、死んだ父に申し訳が立たないとジョージは考えた。悩み込むうちに下がった顔を上げ、決意の眼差しをエドワードに向ける。


「教えてください。僕の父、ダニエル・ウェブスターのことを」

登場人物

・ジョージ・ウェブスター……革新派の襲撃を受け、記憶と両親を失った。

・エドワード隊長……オルグレン辺境伯軍の隊の1つを預かる老将。

・ダニエル・ウェブスター……クラガン村を治めていた騎士。革新派の襲撃に善戦するも、息子を残して戦死した。

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