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第3話 これからのこと

1話あたりの文字数が多すぎたので、9話まで分割して再投稿しています。ややこしくしてすみません。

 ジョージは覚醒後のしばらくの間、微熱に見舞われた。医者の見立てによれば


「熱が長引いているのでしょう。ですが時期良くなります」


 とのことだったので、トーマスは胸をなでおろした。加えて、微熱が続いたと言っても四六時中ベッドに伏せねばならないほどの病状ではなかったので、養父となった辺境伯は毎日の執務の片手間にジョージの部屋を訪れて一緒に食事をとった。家臣の面々は良い顔をしなかったが、トーマスはそれらの諫言を押しのけて、食事を共にすることを選ぶ。一週間も経てばジョージの体調はみるみるうちに回復し、沈みがちだった表情にも、彼本来の明るさが現れるようになった。

 日々の生活にも慣れてきたある日の昼下がり、ジョージはいつもより長時間の執務を終えた養父と、食事をとっていた。今日の昼食には、ジョージの好物の蒸かした芋が出されたので、3個も平らげて満足げにナプキンで口元を拭っていると、斜め向かいに座るトーマスが、眉間に皺を寄せながらワインの香りを鼻にあてている。──また何か問題でも起きたのだろうか、養父の顔からは苦心の色が濃く映し出されていた。

 ジョージは以前からトーマスに伝えたいことがあったが、タイミングを掴めずにいた。なぜなら、今のようにトーマスは不機嫌に見えることが多かった。しかし、約2週間ほど養父の観察を続けたところ、これは単なる彼の思考する際のクセであって、怒っているわけではなかった。なので、ジョージは意を決して養父に話しかけてみることにした。


「小父上、お願いしたいことがあるのですが……」


 ジョージは栗色の髪を掻きながら、上目遣いで声を掛ける。トーマスはグラスを傾ける手を止めて、聞く姿勢をとった。顔に刻まれた皺は一瞬でほぐされ、返答の声色も柔らかい。


「おぉなんだ。元気になったから外に出たいか?」


「それもそうですが……僕、小父上のお役に立てることをしたいと思っているんです」


 甥のフランクなら絶対に言わないであろう台詞を言われたトーマスは、パチパチと目を瞬かせたが、すぐに笑いながら返事をした。


「ハハッ、良いとも!……と言いたいが、気持ちだけ受け取っておこう」


 良好な反応をもらえたのにもかかわらず、養父にやんわりと断られたことでジョージは視線をテーブルの下に落とす。──やはり自分の記憶がないことに気を遣われたのだろうか、とジョージは肩を落とした。他方、ジョージの一連の子供らしい仕草を見たトーマスは少し困った顔をしたが、咳払いをし、真面目な表情になって断った訳を説明し始めた。


「理由は2つある。1つはお前がまだ子供で経験が浅く、私の仕事の手伝いが出来ないからだ。そしてもう1つの理由は、お前の仕事がフランクの側近となることだからだ」


 きちんと理由を説明されたジョージは、目線をトーマスに戻したが、まだ不服の表情を崩さない。


「1つ目は分かります。僕はまだ10歳で小父上の直接的なお役には立てませんから。……でも、仕事がフランク様の側近と仰られましても僕はまだお会いしたことすらないんですよ」


 やや不貞腐れた声色でジョージは頬を膨らませる。これにはトーマスも腕を組んで顔をしかめた。ジョージがオルグレン城にやってきて2週間が過ぎようとしており、実際、トーマスは何度も甥のフランクに紹介しようと予定を組んでいたのだが、そのどれもがフランクの気まぐれで、尽くすっぽかされていた。


「ま、まぁフランクには今度こそ出席するように厳しく言いつけておくからな。あいつももう14歳になることだし、そろそろ跡継ぎとしての自覚を持ってもらわんと……」


 トーマスは言葉を濁し、ワインもほとんど口にしないまま執務室に戻っていった。残されたジョージも唇を尖らせながら席を立ち、食器の片付けをメイドたちに任せて食堂を後にする。最初は自分でやろうとして周りに止められたことに違和感があったが、今はもう慣れてしまった。──たとえ記憶を失っても僕は騎士の子なのだとジョージは胸の内で自身に言い聞かせる。トーマスからは、


「ウェブスター家は、お前の父ダニエルが私から騎士号を叙爵された家だ。縁故だと言う輩もいたが、ダニエルは今なお続く宗旨戦争の中で何度も武功を挙げて、出世した誉ある武人だった。お前もあいつが築いた家名を背負って生きなければならない。……記憶を忘れても誇りだけは忘れるな」


 と覚醒後、何度も口酸っぱく言われていた。家名の名誉と、トーマスの言葉を改めて胸に刻みながら、ジョージは自室へと向かう。家庭教師に夕方まで授業を受けなければならないからだ。──その背中を憎々しげに睨む視線があることに、ジョージはまだ気づいていない。

登場人物

・ジョージ・ウェブスター……革新派の襲撃を受け、記憶と両親を失った。トーマスの被保護者。

・トーマス・ヘンズリー……オルグレン辺境伯爵。魔法使用に制限を設けたい保守派有力貴族。

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