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Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第一章:【灰色の男】
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第5話:「影の狩人」

 ネストシティの裏手にある、アークシティへの隠し通路。()びた鉄骨と断末魔のような風が鳴る空間を抜けた先にある。


 ――ここは、アークシティ外縁部。


 コンクリートの狭間から微かに見える遠くの高層群は、まるで別の世界だった。ネオンの光が、蜃気楼のように揺れている。


 煌びやかな中心部――富裕層が支配する楽園は、同じ世界でも、地上とはまるで別の惑星のようだった。


「行くか」


 アッシュは低く呟き、狭い裂け目のような道に身を投じる。


 アークシティ――地下のさらに奥に広がる、富裕層が支配する未来都市。


 薄暗い通路を駆け抜けるアッシュの耳に、微かな足音が届く。 ターゲットは、この先にいる。


 アークシティの外れ、薄汚れた路地裏。

 そこに、息を潜めていた男。


 ——ラズを視界に捉える。


 ラズは後ろを気にする様子もなく、のんびりと歩いていた。だが、その肩はわずかに震え、足取りもどこか不安定。


 額から頬へと伝う汗が、彼の焦りを物語っていた。


 時折立ち止まり、辺りを気にする素振りを見せるが、すぐに再び歩き出す。

 ……その眼差しは、何かを恐れている。


 アッシュは足を止め、影の中に身を沈める。

 慎重に距離を詰めた。


「てめぇがラズか?」


 低い声が路地に響いた。


 ラズが一瞬振り返る。

 目が合った瞬間、顔を強張らせる。

 だが、すぐに顔を逸らし、焦ったように走り出す。


「待てっ……」


 その刹那——


 チィィン……

 という金属の軋みが、静かに死を告げた。


 アーク・ヴァルス。

 壁の中から、(うごめ)くように異形が現れる。


 冷酷な機械の眼がアッシュを捕捉した。


 その瞬間、ラズは混乱に乗じて姿を消す。


「……どこ行った!?」


 アッシュはマグナムをヴァルスに対し構える。


『馬鹿、ここ地下よ! チャージできないってば!』


 アリアの冷静な声が響く。


『さっき最大出力で、三発分一気に撃ったでしょ!

 ……ったく、忘れたの?』


 アッシュは舌打ちし、銃を腰のホルスターへ戻す。


「クソッ!」


 ヴァルスの眼が赤く明滅する。

 その瞬間、殺意が空気ごと突き刺さってきた。


 そして……地面を蹴った。


 ――逃げる。


 足音ひとつさえ、敵を誘導する刃と化す。

 アッシュは重力を逆手に取り、床を蹴って横へ滑り、崩れたパイプに手をかける。

 壁に右足を叩きつけ、次の跳躍へと転じる。


 空中で身体をひねり、手すりを掴む。

 そのままスライドしながら階下へ滑り込む。


 金属の悲鳴のような足音が、背後に迫る。

 触手が空を裂き、数センチ先の空間をえぐる。


「だからなんで、こいつらは俺だけを……!」


 アッシュは吐き捨てる。


 だが足は止まらない。

 障害物の間を縫い、一歩のブレもなく狭い空間の中を駆け抜ける。

 迷宮に適応した獣のように。


『考える暇があったら走りなさいよ!!』


 アリアの声が、風のように後押しする。


 敵の追跡はまだ止まない。

 だがアッシュは、すでにその先に“終点”を見据えていた。



 ──そして。



 * * *


「ここまでくれば……もう大丈夫だ……」


 そう呟くラズの姿が、ふと視界の先に現れる。


 背中を向け、安堵(あんど)の息を漏らしている。

 だが、足取りは重い。

 その顔には、呼吸を整えようと必死な様子が浮かんでいた。


 アッシュは無言で接近し、その呼吸すら読んでいるかのように間合いを詰める。

 瞬きひとつの間に、背後へと回り込む。


「俺の目から逃げられると思うな」


 ラズが振り返るよりも早く、アッシュはその襟首を掴み、容赦なく地面に叩き伏せる。


 ラズの体はひどく震えていた。

 額からは冷や汗が滴り、唇が微かに震える。


 逃げようとするが、アッシュの力に抗えず、足元が絡み、地面に倒れ込む。


『ドSだねぇ、ほんと』


 アリアが乾いた笑いを漏らす。


 アッシュは表情を崩さず、逃げる間も与えず、ラズを引きずり上げる。

 背後では、なおもアーク・ヴァルスたちの不穏な気配が、壁の向こうから漏れていた。


「さて――帰るか」


 ラズの首根っこを掴んだまま、アッシュは再び闇の中へと消えていった。





――See you in the ashes...

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― 新着の感想 ―
昭和生まれの私には今この作品を読みながらコ@ラの主題歌が流れています。 ぶっきらぼうなアッシュ、有能な相棒AIアリス、この荒廃した世界で彼らの求めるものは何なのか。テンポよく進むのでサクサク読めますね…
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