表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第四章:【Desperado】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/95

第47話:「戦いの輪舞曲」

――地下・ネストシティ・融合炉格納層。



 蒸気が立ち上る。

 無機質な鋼鉄の床で、二つの影が火花を散らしてぶつかり合う。


 轟音とともに、アッシュがセヴェルの渾身の拳を両腕で受け止めた。

 だがその一撃は、身体の芯を貫くような凄まじい質量を伴っていた。


「ッ……!」


 アッシュの体が弾かれ、背後の手すりごと壁に叩きつけられる。

 鉄骨が歪み、火花を散らして崩れ落ちる。


 彼は膝をつき、砕けたブレードを一瞥べつする。


「……直したばっかだってのによ」


 セヴェルがニヤリと唇を歪める。


「どうした? 俺に勝つんじゃなかったのか?」


 それに対し、アッシュもまた笑った。

 熱に浮かされたような、戦場に酔う者の笑みだった。


「アリア……やれ」


『了解。|神経解放《Neural Breaker》、制限解除』


 空気が凍りつくように張り詰めた。


 アッシュの左眼が金色に光を放つ――

 その瞬間、彼の姿が蒸気の向こうへ一閃、消えた。


 セヴェルの頬に、鋭い拳がめり込む。だが――


「効かねぇよ」


 反撃の蹴りが唸りを上げて振るわれ、アッシュの影をかすめる。風圧だけで、床の鉄板がめくれ上がる。


 だがアッシュはすでに別の角度から――


「はっ!」


 蹴撃(しゅうげき)がセヴェルの脇腹をとらえる。

 鋼のような肉体がわずかに軋んだ。


 セヴェルは回転しながら受け流し、拳を振る――


 ――ドォン!


 拳圧が空気を砕き、床が粉砕される。

 アッシュは紙一重でそれをかわし、逆に連打を叩き込む。


 一、二、三――視認できない速度のラッシュ。


 セヴェルの反撃は凶器そのものだった。

 だがアッシュは、ステップと義眼(オウルアイ)だけで全てを見切っていた。


「おせぇんだよ、あんたの拳は!」


 跳躍、回転、打撃――

 アッシュの拳が閃き、セヴェルの顔面を撃ち抜く。


「……やるな、サイボーグ」


 骨と骨がぶつかる音。

 互いに吹き飛び、鋼床に深いクレーターが刻まれた。



 再び、蒸気が立ち上る。

 沈黙の中に、二人の荒い息遣いだけが響いていた。



 アッシュが口を開く。


「はぁ……はぁ……“戦いは終わらねぇ”ってのは……どういう意味だ。何を知ってやがる」


 セヴェルは乾いた笑いを漏らす。


「……お前は、この薬を誰が完成させたと思う?」


「何……?」


「そいつはな……“この核戦争後の世界を作ったのは自分だ”って言ってたぜ。俺の相棒に『自分を殺したきゃ、地下ごと崩壊させろ』って焚き付けてた」


「誰だ!! そいつは……!」


「……俺以上に狂ってる。戦いは終わらないんだよ。

輪舞曲(ロンド)みたいにな」


 その瞬間――

 セヴェルの拳が、沈黙を裂いてアッシュの腹に突き刺さる。


「かはっ……!」


 アッシュの身体が吹き飛び、背後の配管に叩きつけられる。

 そのまま力なく座り込み、肩で息をしていた。


 セヴェルがポケットから端末を取り出し、無造作に構える。


「まぁ……仮に地下を壊そうが、輪舞曲(ロンド)が終わる気はしないがな」


 端末のボタンに、ゆっくりと指がかかる。


 アッシュは煙草を取り出し、火を点けた。


「やりたきゃやれよ。

 俺は……あんたと踊りに来ただけだ」


 セヴェルの目がわずかに細まる。


「俺が本当にやらないと思ってるのか?」


 アッシュは何も答えない。ただ、煙を吸い込み――

 静かに、くゆらせた。


 そしてセヴェルは、迷いなくボタンを押した。



 ――その瞬間。



 アッシュは、笑った。





――See you in the ashes...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ