第45話:「命知らず」
――地下・ネストシティ・核融合エネルギー施設。
リヴィアからの通信が、アッシュの脳内に響く。
《セヴェルは今、施設に向かったところよ。
……せいぜい死ぬ気でいきなさい》
アッシュは肩をすくめながら、足を踏み入れる。
「またずいぶんな送り出しだな……」
笑いながら煙草に火を点ける。
ネストのエネルギー中枢、核融合施設。
蒸気が絶え間なく噴き出し、絡み合うパイプが複雑な迷宮を形作っている。
アッシュは鋼鉄の床を踏みしめながら、歩を進めた。通路に横たわる警備員の死体。セヴェルが通った痕跡は、あまりに無慈悲で、異常だった。
天井には巨大な冷却装置が唸りを上げ、青白い光が揺らめいている。熱気が上昇し、空間全体が命を持っているかのようだった。
古びた計器が規則的に脈動し、この施設がまだ“生きている”ことを告げている。
施設の中心部、巨大タービンの前に、一人の男が立っていた。
「……来たか」
背を向けたまま、セヴェルが低く呟く。
「よぉ……お祭りに招待してくれてありがとよ」
アッシュは手をポケットに突っ込んだまま、のらりと歩く。
「“命知らず”だな。
地上でおとなしくしてればいいものを」
振り返るセヴェルの口元には、不気味な笑みが浮かんでいた。
「つまんねぇ正論なんざ意味ねぇだろ?
俺が踊りの相手をしてやるよ」
アッシュは咥えていた煙草を投げ捨てた。
「……あんたはな、俺に会った時点で“無敵の男”じゃいられなくなったんだよ」
「どういう意味だ?」
アッシュは口元だけ笑って、こう吐き捨てた。
「――勝つまで、諦めねぇからさ」
言葉の終わりと同時に、アッシュが跳んだ。
義手から伸びた鋼のブレードが、空気を切り裂く。
セヴェルはナイフを抜き、交差させて受け止めた。
金属がぶつかり合う甲高い音が、施設に響き渡る。
だがその瞬間——
アッシュの蹴りが脇腹を正確に捉えた。
セヴェルの身体が手すりに激しく叩きつけられる。
「……やるな、だが――」
セヴェルの声には、どこか狂気にも似た悦びが混じっていた。
アリアの声がアッシュの意識に割り込む。
『アッシュ、油断しないで——』
その忠告を遮るように、セヴェルが手にしていたナイフを放り捨てた。
カラン、カラン……と乾いた金属音が床に転がる。
「……どういうつもりだ?」
問いかけるアッシュに、セヴェルは悪魔のような笑みを浮かべる。
「これでは、前と同じだろう?
……つまらんからな」
そう言って、懐から黒い錠剤を取り出す。
「最初から、本気でいかせてもらう――」
迷いなく、それを口に含み、飲み下した。
次の瞬間、セヴェルに異変が起きた。
筋肉が膨れ上がり、血管が浮き出て、全身から灼熱の熱気が立ち上る。
刹那——セヴェルの姿がかき消えた。
ズガァン!──
突如視界に現れた影が、回転しながら強烈な回し蹴りを放つ。
アッシュのブレードが粉砕され、破片が火花を散らしながら床に跳ねた。
地下の暗闇で、制御を失った力と、折れぬ意志が激突する。
決戦の火蓋は、今まさに切って落とされた。
――See you in the ashes...




