第40話:「交錯する運命」
――地下・ネストシティ・旧市場。
薄暗い通路を、錆びた鉄骨だけが囲んでいる。
無機質な照明が天井に並び、チカチカと明滅しながら埃を照らしている。
足音。鉄板を踏みしめる重い響きとともに、ジンが姿を現す。血と焼けた金属の匂いが充満する中、彼はアッシュの姿を見つけ、思わず声を上げた。
「アッシュ……ひでぇな」
「へっ……大したことねぇよ。見た目より元気さ」
ジンは、アッシュの義手に視線を落とす。
ブレードの砕けた根元だけが、虚しく突き出ていた。
「……見事にバラバラだな。
まぁ死んでない分マシかもな」
『無茶しちゃって……』
アリアが呆れたように呟く。
アッシュはふっと笑い、ジンに向き直る。
「ジン、地上に戻れ。リルと組んでアークに行け。
あっちに、お前の“知り合い”がいるはずだぜ」
「……あぁ」
短く頷いたジンの瞳にも、決意の光が宿っていた。
「俺は一旦、リヴィアのとこへ顔を出す。
ちょっと面倒を頼まなきゃな」
軽く拳を突き合わせると、二人は言葉なく背を向け、それぞれの戦場へと歩き出した。
* * *
――地下・ネストシティ・リヴィアのアジト。
錆とオイルの匂いが立ちこめる薄暗いラボ。その奥で、リヴィアは端末を操作していた。
「アッシュ、ボロボロね。少し修理してあげるわ」
「あぁ、頼んだ……セヴェルは二日後、ネストのエネルギー施設を狙ってる。
あんたなら、あいつの動きは掴んでるだろ?」
「ええ、セヴェルの居場所はわかってる。
この街の動きは、全部私の手の内よ。
でも、協力者の動きはまだ不明。
それに――アークの中はさすがに手が届かない。
どの施設を狙ってるのかなんて、読み切れないわ」
「……ちっ」
アッシュが舌打ちする。
リヴィアは肩をすくめた。
「ネストの爆破を止められたとしても、アークのどれか一つでもやられれば……地下地盤が崩れる。
結局、こっちもタダじゃ済まないわ」
アッシュは、義手の接合部を自分で軽く叩きながら、笑う。
「ははっ……賑やかなパーティーになりそうだぜ」
* * *
――地上・第四番街・拠点。
砂埃を巻き上げて、ジンのホバーバイクが拠点前に停まる。扉が開き、リルが慌てて飛び出してきた。
「ジン! 大丈夫デシタ?」
「ああ。……リル、悪いが一緒に来てくれ。
理由は後で話す。急いでる」
ジンはエンジンをかけ直す。
その目には決意の火が灯っていた。
「アークへ向かう。ケイン……
スナイパーはお前だったんだろ。必ず見つけ出す」
「ハ、ハイ……! アシェン、留守番、ヨロシクネ!」
バイクの後部に飛び乗ったリルが、ジンの背にしがみつく。
「ワンッ!」
アシェンが短く吠え、少し寂しそうな瞳で二人を見送る。
「リル、アークの通路に着いたらハッキング頼む。
通れるようにしてくれ」
「任セテ下サイ!」
加速レバーを握ると、ホバーバイクは夜の街へ轟音を残して飛び出した。
ジンの背に、確かな覚悟が宿っていた。
――崩壊へと向かう世界の中、希望が静かに動き出した。
――See you in the ashes...




