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Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第四章:【Desperado】
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第39話:「地下に響く決意」

「……待てッ……!!」


 叫びが虚空に吸い込まれていく。


 黒いコートを翻し、セヴェルの姿が割れた天窓の奥へと消えた。埃の匂いと血の鉄臭さが充満した室内に、静寂が戻る。


 ボロボロのベッドの上に横たわり、アッシュは荒く息を吐いた。肋骨が軋み、口の端から血がにじむ。


 そのとき――


《……アッシュ、聴こえるか?》


 低く落ち着いた声が、脳内に直接響いた。ジンからの通信だった。


「……ああ。聴こえる」


 アッシュは身を起こし、埃だらけの周囲を見下ろす。セヴェルの異常な動きと力を思い返しながら、呟くように続けた。


「そっちはどうだ?

 狙撃ポイントにスナイパー見つけたのか?」


《あぁ……来てみたが、既に逃げられたみてぇだ。

 もぬけの殻だ》


「……そうか」


 アッシュは血をぬぐい、顔をしかめる。


「さっきの話――俺を通じて、聴こえたか? 」


 一瞬の間のあと、ジンの声が低くなる。


《ああ……“奴等”ってことは、セヴェルに協力者がいる。そしてそいつは――ケインが有力だろうな。スナイパーも恐らく……》


 その瞬間、通信に割り込むように、ノイズ混じりの声が飛び込んできた。


《……アッシュ》


 女の声。冷静で、どこか感情を押し殺しているような響き――リヴィアだった。


《通信は聴かせてもらったわ》


「はっ……

 痛覚が無いってことくらい、教えとけよな」


 アッシュは皮肉を含んだ声で言いながら、壁に寄りかかる。


《私も知らなかったのよ。ただ……その副作用のおかげで、私の支配から逃れることができた――ってことかしらね?》


「……お前から盗んだ“サイバーウイルス”ってのは何だ? 中枢制御核に仕込むと、どうなる?」


 一拍の沈黙。リヴィアは、ため息交じりに答えた。


《そうね。アークとネスト――両都市の地下にある核融合エネルギー施設にそれを仕込んだ場合……制御不能なエネルギー暴走が起きる。つまり、地下で“核爆発”。この地下世界は崩壊することになるわ》


 アッシュの喉が鳴る。


「……とんでもねぇウイルス作りやがって」


《しょうがないじゃない、元々は違う目的で作ってたウイルスなのよ》


「チッ……」


 アッシュは床に落ちたドライバーを見下ろした。あの一撃すら、効いていなかった。


《今回は相手が悪かったわね、アッシュ。セヴェルは私が手掛けた最初の“ヴァイロン”。

 その遺伝子強化に施したウイルスの量も、他より数段多い……セヴェルの件は、うちの組織で処理するわ。貴方たちは――地上に戻りなさいな》


 通信が切れようとした瞬間、アッシュは笑うように言った。


「だとよ。……ジン、聴いたか?」


 ジンは即答した。


《ああ……》


 そして、アッシュとジンの二人の声が自然に揃う。



《「お断りだ――!」》



 静かに響く、アリアのため息。


『……はぁ……いつもの男の意地ってやつね』


 その直後――通信越しに、リヴィアの声が少しだけ柔らかくなった。


《……ふふっ。私も協力してあげるわ。アッシュ》


 アッシュは天窓を見上げた。闇の向こうには、まだ戦いの予感が満ちていた。





――See you in the ashes...

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