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Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第一章:【灰色の男】
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第3話:「ネストの地下迷宮」

 轟音と閃光の余韻が残る中、崩落寸前の地下通路を抜けたアッシュは、しばし足を止めた。


『ふぅ……で?

 あれだけヴァルス薙ぎ払っといて、戻るって選択肢はないの?』


 アリアの声が皮肉っぽく響く。


「入口近くにまだうじゃうじゃいただろ。

 こっちが正解に決まってる」


 静かに息を吐き、視線を前に向ける。


「それに……

 あの女のもとへ顔を出しておきたいからな」


 地下施設の隠された区域を抜けると、広がるのは“ネストシティ”の迷宮都市。

 高層構造物が地盤の奥深くまで続き、人工の神経網のように路地が入り組んでいる。


「この街、どこもかしこも同じだ」


 アッシュは呟き、しばらく立ち尽くす。


 ネストシティは、まるで巨大な蜘蛛の巣。

 薄暗く湿った空気、金属と錆の匂い。

 ――遠くで(きし)む機械の音。


 道端で物売りの声が飛び交い、子どものはしゃぎ声も響く。狭い路地の隅に積まれたゴミが腐った臭いを放ち、空気を重くしている。


 時折、無愛想な顔をした住民たちが、無理矢理隙間を縫って通り過ぎる。 その合間を縫って、ダストシップの車輪が軋みながら進んでいく。


 この街の底に眠るものは、そう単純じゃない。


『でも、ここが一番使い勝手いいんでしょ?』


 アリアが冷静に言う。


「その通りだ。

 逃げ道も、情報も、この街には詰まってる」


 足元の鉄板を踏むたび、鈍い音が響く。

 オウルアイが起動し、視界の隅に地図情報が浮かび上がった。


「ここは……相変わらず広すぎるぜ。

 その全ては……リヴィアの手の中か」


 リヴィアの名を口にした瞬間、アッシュの眉がわずかに動いた。


『あぁ、あの冷血女ね』


 アリアの口調がわずかに刺を帯びる。


「まぁそういうな。

 あれで悪くない奴だ、俺にとっては……だけどな」


『そういう女だから、今もこの街が形を保ってるってことね』


 アッシュは無言で歩みを進める。

 歪な都市構造に押し込められた貧困層の争いが、この地下通路の壁に刻まれている。

 酸と油の臭いが、それを物語っていた。


『やっぱり臭いし、暗いし、最悪』


「ははっ……お前AIだから、関係ねぇだろ……

 この街、毎度毎度変わらないな。

 最悪だけど、慣れてきた」


 鼻をつまみつつ、路地を抜ける。

 道の端では、誰とも分からぬ人影が、廃材に身を潜めてこちらを窺っていた。


 やがて、巨大な鉄の扉の前で足を止める。

 それはネストシティの“女帝”の居城――リヴィアのアジトに繋がる入口だった。


「ここだったか……」


『またこの場所ね。

 どうせまた、あの女に振り回されるだけよ』


 アッシュは何も言わず、扉を押し開く。

 冷たい金属のきしむ音とともに、異質な空間がゆっくりと姿を現す。


 迷宮のように入り組んだ道も、アッシュにとっては見慣れたものだった。

 分かれ道を迷うことなく進みながら――


「この街は最高で……最悪だね」


『なのに来る。ほんと、変わってないわね』


 ――数分後。


 リヴィアのアジト前。

 堅牢な扉が、ゆっくりと開いていく。


 無音の奥から現れるのは、冷徹な女帝の影。





――See you in the ashes...

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― 新着の感想 ―
重厚な雰囲気が醸し出す世界観がすごく好きですね♪ この先の展開がどうなるのかワクワクする感じがたまらないです! ☆とブクマも入れさせていただきました(忘れないうちに) 引き続き世界に浸りながら読み進め…
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