表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第一章:【灰色の男】
3/82

第2話:「義眼の起動」

 アッシュがアーク・ヴァルスに包囲された瞬間、AIが起動し、視界にスリット状のインターフェースが現れる。


『オウルアイ起動。

 周囲150メートルの敵状況把握完了。

 射撃ライン確保』


 義手が機械音と共に反応し、銃身にエネルギーが流れ込む。左の義眼にターゲットのコアがデジタル表示され、即座に狙撃。


 AIのサポートを最大限に活かし、銃撃の精度が次々と上がっていく。

 

 しかし——ヴァルスの数は減らない。

 むしろ、次第に増えていく。


「少し無理しすぎか…?」


 苦笑いを浮かべつつ、さらに撃ち続ける。


 その時——アリアの声が頭の中で響いた。


『あんた、無茶しすぎよ。

 どうせ撃つんなら、もっと効率的にやらなきゃ』


「うるせぇな、アリア」


 肩をすくめながら言い放つ。

 しかし、放射線エネルギーの逆流が、じわじわと身体に影響を与えていた。


 ——視界が、一瞬揺れる。


「……ちっ」


 足元がふわりと浮くように感じる。

 頭がくらくらとし、義手の動作が一瞬遅れる。

 目の前にヴァルスの群れが迫る。


 ……視界が(かす)んでいく。


 右手は銃を握りしめているが——指の動きが鈍い。


「……さて、そろそろ退散だな」


 隙間を突いて瓦礫(がれき)を跳び越え、地下へと突入する。


 * * *


 ダクトに身を滑り込ませたアッシュは、()びた鉄骨の(はり)を飛び越え、狭い通路を走り抜ける。

 ――だが背後では、金属の足音と駆動音が増え続けていた。


 アーク・ヴァルスの群れが、容赦なく迫ってくる。


『敵の進行ルート予測完了。

 最短逃走経路を提示するわ。

 1.8秒後、左壁を蹴って上へ跳躍。

 その先、空調ダクトをくぐって抜け道に接続可能』


「また人間の可動域ぶっちぎったルートかよ……!」


 息を呑む暇もなく、足場の崩れた鉄骨を飛び移る。

 左壁を蹴り、勢いを殺さず跳ね上がる。


 天井の梁をかすめ、パイプの隙間を滑り込むようにくぐり抜ける。

 指先ひとつ分の幅も狂えば、即座に身体をぶつけるような隘路(あいろ)


 しかし、アッシュの動きは止まらない。


『ほら、できるじゃない。

 文句言うだけ無駄だったでしょ?』


「……はいはい、ありがとよ」


 瓦礫を蹴り、崩れかけの金属板を踏みつけて加速。

 AIの指示は精密すぎて、反論の余地もない。


 だが、生身にとってどれほどの負担かなど、アリアは気にも留めない。


「道はあるが……時間がねぇ」


 背後の駆動音が一段と高まり、金属の(うごめ)きが空気を振るわせる。

 ヴァルスの群れが、まるで未来を読んだかのように後方から襲いかかってくる。


 アッシュは歯を噛み、叫ぶ。


「こいつらは、どうして俺だけを狙ってくるんだ!

 クソッ!……アリア、出力最大だ!」


『了解……レディエントマグナム、臨界モード。

 発射準備完了』


 右腕の義手が深紅に輝き、(てのひら)から銃のグリップへと走る光が伝い、銃身にエネルギーが注ぎ込まれる。高熱が吹き出し、空気が歪む。



 引き金を絞った瞬間——



 世界が閃光に包まれた。


 白黒に反転する視界。

 破壊的なエネルギーが地下通路全体を焼き払い、ヴァルスの群れを一掃する。


 爆風が背後を吹き飛ばし、構造体がきしみを上げて崩れる。


 アッシュは一度だけ振り返り、そして迷いなく更に奥へと走った。





――See you in the ashes...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
文明が崩壊したサイバーパンクの世界。 その退廃的な空気を上手く描写出来てますね。 昔はこういう設定のラノベが結構ありましたが、 最近のなろうでは少し珍しいので、今後の展開に期待です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ