第2話:「義眼の起動」
アッシュがアーク・ヴァルスに包囲された瞬間、AIが起動し、視界にスリット状のインターフェースが現れる。
『オウルアイ起動。
周囲150メートルの敵状況把握完了。
射撃ライン確保』
義手が機械音と共に反応し、銃身にエネルギーが流れ込む。左の義眼にターゲットのコアがデジタル表示され、即座に狙撃。
AIのサポートを最大限に活かし、銃撃の精度が次々と上がっていく。
しかし——ヴァルスの数は減らない。
むしろ、次第に増えていく。
「少し無理しすぎか…?」
苦笑いを浮かべつつ、さらに撃ち続ける。
その時——アリアの声が頭の中で響いた。
『あんた、無茶しすぎよ。
どうせ撃つんなら、もっと効率的にやらなきゃ』
「うるせぇな、アリア」
肩をすくめながら言い放つ。
しかし、放射線エネルギーの逆流が、じわじわと身体に影響を与えていた。
——視界が、一瞬揺れる。
「……ちっ」
足元がふわりと浮くように感じる。
頭がくらくらとし、義手の動作が一瞬遅れる。
目の前にヴァルスの群れが迫る。
……視界が霞んでいく。
右手は銃を握りしめているが——指の動きが鈍い。
「……さて、そろそろ退散だな」
隙間を突いて瓦礫を跳び越え、地下へと突入する。
* * *
ダクトに身を滑り込ませたアッシュは、錆びた鉄骨の梁を飛び越え、狭い通路を走り抜ける。
――だが背後では、金属の足音と駆動音が増え続けていた。
アーク・ヴァルスの群れが、容赦なく迫ってくる。
『敵の進行ルート予測完了。
最短逃走経路を提示するわ。
1.8秒後、左壁を蹴って上へ跳躍。
その先、空調ダクトをくぐって抜け道に接続可能』
「また人間の可動域ぶっちぎったルートかよ……!」
息を呑む暇もなく、足場の崩れた鉄骨を飛び移る。
左壁を蹴り、勢いを殺さず跳ね上がる。
天井の梁をかすめ、パイプの隙間を滑り込むようにくぐり抜ける。
指先ひとつ分の幅も狂えば、即座に身体をぶつけるような隘路。
しかし、アッシュの動きは止まらない。
『ほら、できるじゃない。
文句言うだけ無駄だったでしょ?』
「……はいはい、ありがとよ」
瓦礫を蹴り、崩れかけの金属板を踏みつけて加速。
AIの指示は精密すぎて、反論の余地もない。
だが、生身にとってどれほどの負担かなど、アリアは気にも留めない。
「道はあるが……時間がねぇ」
背後の駆動音が一段と高まり、金属の蠢きが空気を振るわせる。
ヴァルスの群れが、まるで未来を読んだかのように後方から襲いかかってくる。
アッシュは歯を噛み、叫ぶ。
「こいつらは、どうして俺だけを狙ってくるんだ!
クソッ!……アリア、出力最大だ!」
『了解……レディエントマグナム、臨界モード。
発射準備完了』
右腕の義手が深紅に輝き、掌から銃のグリップへと走る光が伝い、銃身にエネルギーが注ぎ込まれる。高熱が吹き出し、空気が歪む。
引き金を絞った瞬間——
世界が閃光に包まれた。
白黒に反転する視界。
破壊的なエネルギーが地下通路全体を焼き払い、ヴァルスの群れを一掃する。
爆風が背後を吹き飛ばし、構造体がきしみを上げて崩れる。
アッシュは一度だけ振り返り、そして迷いなく更に奥へと走った。
――See you in the ashes...