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Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第三章:【機械少女】

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第26話:「焔の脱出」

 甲高い警報が倉庫内を切り裂く。

 鉄梁に共鳴し、赤い警告灯が断続的に明滅する。


「ちっ……逃げるぞ!」


 駆け出した瞬間、複数の人型ヴァルスがアッシュを包囲する。

 金属の足音が重く床を打ち、逃走の隙を与えまいと迫ってくる。


「……数が多すぎるな」


 アッシュは素早くコアを懐に押し込み、鋭い目で周囲を見渡した。


『アッシュ、敵多数を確認。戦闘は非推奨よ!』


 アリアの声が脳内に響く。


「分かってる……アリア、脱出ルートは!?」


『解析中。左の通路に可能性あり――

 でも追っ手がすぐそこ! 急いで!』


 アッシュは即座に動いた。

 ヴァルスの攻撃を紙一重でかわし、鋭く身を(ひるがえ)す。

 一機が間合いを詰め、両腕から鉤爪型ブレードを展開。斬撃が迫る。


 義手の右腕から鋼のブレードがスナップ展開され、正面から弾き返す。

 火花が弾け、甲高い金属音が倉庫内に響き渡る。


「遅ぇよ!」


 だが、数の差は圧倒的だった。

 次々と押し寄せる追撃に、アッシュは構造物を蹴って跳躍し、高所の(はり)へ飛び乗る。

 壁を駆け、まるで空間を滑るように進んだ。


 義眼(オウルアイ)がヴァルスの影を捉える。

 その動きをリアルタイムで解析し、最適な脱出ルートを導き出していく。


「アリア、ルートを更新しろ。時間がない!」


『右の壁を登って、換気口へ。距離15メートル。

 だけど……追いつかれる確率、80パーセントよ!』


 アッシュは躊躇なく壁を駆け上がり、換気口に滑り込んだ。


 直後、ヴァルスのブレードが空気を切る音が背後を掠める。


 ギリギリの間合い。

 出口は目前だが、最後の一機が進路を塞ぐ。


「ははっ……ここで終わりかね?」


『アッシュ、アレしかないんじゃないの!?』


「……ああ、分かってるよ」


 アッシュは目を閉じ、呼吸を整える。


「――|神経解放《Neural Breaker》」


 ニューロブースターが作動し、左眼が金色に輝く。

 生理的リミッターが解除され、世界の速度が変わった。

 視界は鋭く、音は低く、時間はスローモーションのように流れていく。


 認知速度、反応速度、身体能力――

 すべてが極限を超える。


 一歩。


 それだけで十分だった。


 アッシュは一気に間合いを詰め、最後のヴァルスにブレードを突き立てる。


 一閃。


 閃光のような斬撃が、敵を沈めた。





 ――が、止まらない。



 さらに二機、三機と背後から群がる。

 怒涛の刃がアッシュを貫こうと迫る中、回避と同時に反撃を繰り出し、まるで舞うように次々と撃破。


 金色の視界が、戦場を支配していた。


 そのまま、アッシュは敵の包囲を突き破るように――脱出口へ飛び込んだ。





 ――しかし!


 突如、アッシュの脳内に鈍い痛みが走る。


 それは、肉体が悲鳴を上げるような感覚で――

 アッシュは一瞬、意識が遠のきそうになるのを必死でこらえた。


「クソッ……長く使いすぎたか!」


 左眼の輝きが、金から赤へと変わる。

 限界が、すぐそこまで来ていた。

 後方にヴァルスの群れが迫ってくる。



「――灰の中で、踊ってな。アリア……やれ」



 アッシュは、マグナムを構え振り返る。


 その刹那、鋭い金属の足音が空間を震わせるように響き渡り、ヴァルスの影が一気に視界に現れた。


 迫る気配、視界に広がる敵の群れ――

 アッシュは冷徹に狙いを絞る。


『了解! レディエント・マグナム、最大出力放射。

 発射まで――三秒』


 銃身が深紅に染まり、灼熱の波動が周囲の空間を歪ませる。

 その波動が、アッシュの周りを包み込み、時間の流れを一瞬遅らせたような錯覚を与えるが、ヴァルスはその中をどんどんアッシュに向けて進んでいく。


 周囲の空気が歪む中、ヴァルスたちはその異常な速度で迫ってくる。

 音もなく、ただ金属の足音が一歩一歩、アッシュに近づいてくる。


『……二……一……』


 近づくヴァルスのブレードが、アッシュの鼻先をかすめるほどの距離で振り下ろされる。


 刃が視界に焼き付くその瞬間――





「――じゃあな」

『発射!』


 アッシュは、軽く笑って引き金を絞った。


 瞬間、銃口から解き放たれた紅蓮の閃光が、ヴァルスの胴体を貫く。


 咆哮のような爆音が施設内を揺るがし、灼熱の波動がヴァルスの群れと施設の中心部を直撃する。


 その衝撃波は凄まじく、鉄柱を粉砕し、瓦礫が宙を舞う。


 ――吹き飛ばされたヴァルスの残骸が、熱と衝撃の奔流の中で溶け、形を失っていく。


 その破壊的なエネルギーは、施設全体を覆い、離れた場所にあった複数のヴァルスまでも巻き込み、溶解の奔流に変えていった。


 建物は赤黒く燃え上がり、一瞬のうちに天井から廊下までが崩壊し、時間すらも歪めたかのような衝撃が全てを呑み込んだ。


 アッシュは瓦礫の隙間を飛び越え、迫る爆風の中――闇の奥へと身を投じた。


 背後で、工房が(うめ)くような音を上げながら瓦解していく。


 轟音と火花の残響を背に、アッシュは息をつく。


 コアを懐から取り出し、掌の中で確かめるように見つめた。


「ったく……今回は流石に疲れたぜ」


 だがその眼は、すでに“次”を見ていた。





――See you in the ashes...

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