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Ashpunk Blues−灰燼世界のマシンシティ−  作者: I∀
第三章:【機械少女】

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第24話:「ジン対ヴァルス」

 荒廃した地上四番街の外れ。

 割れた舗装、朽ちた標識、吹き抜ける冷たい風。

 夜明け前の鈍い空の下、ジンの足取りは重く、それでも止まることはなかった。


「確か……この辺で見たって言ってたよな」


 街の住人から聞き込んだ、“左耳が垂れた茶色い犬”の目撃情報。

 ジンはそれだけを頼りに、瓦礫だらけの荒地をさまよっていた。風が吹き抜け、ガラガラと空き缶が転がる。疲労は限界に近かったが、目の奥に宿る光だけは消えていなかった。


 ――そのとき。


 キィ……ギシッ……


 不気味な金属音が、荒野の奥から響き渡る。


「……来やがったか」


 瓦礫の影から現れたのは、一体のアーク・ヴァルス。アークシティで生まれ、地上に潜む“才”を狩るよう設計された機械の猟犬。


 ジンは一瞬身構えたが、すぐに違和感に気づく。


 ヴァルスの足元で何かが逃げ惑っていた。


「……あれは……!」


 左耳の垂れた、茶色い中型犬。

 ジンの目が一瞬だけ見開かれる。


「ルドルフ……! やっと見つけたぜ……!」


 だが、犬はヴァルスに執拗に追われていた。

 その挙動は明らかに、ターゲットを補足した狩猟機のそれだった。


「……あれ? 追われてんのか、あの犬?」


 ジンはゆっくりと腰のホルスターに手を伸ばす。

 そこに収まるのは、“コルトパイソン”、深いガンブルーに染まった六連発の大型リボルバー。


 ジンが長年愛用してきた、相棒と呼べる銃だった。


「ったく……俺の弾はタダじゃねえんだよな……」


 ジンは文句をこぼしながらも、ベルトポーチから弾丸を一発だけ取り出す。

 迷いなく、シリンダーのひとつにだけ弾を込めた。


 ――残りの五つは、空のまま。


 金属音が乾いた夜気に溶けて、妙に静かに響いた。

 パチン、とシリンダーを閉じ、手の中で一度だけ銃を回す。銃口は迷いなく、標的へと向けられていた。


「けどまあ……

 俺には一発ありゃあ十分なんだけどなぁ――!」


 バンッ!


 銃声が荒野に響き渡り、弾丸は装甲の薄いモノアイを正確に撃ち抜く。


 視界を潰されたヴァルスは、バランスを失いながら奇妙な挙動を見せ、そのまま遠くへと去っていった。


「アォーン!」


 犬が駆け寄り、嬉しそうにジンにじゃれつく。

 その瞳は、まるで礼を言っているかのようだった。


「よしよし……帰るぞ、ルドルフ。

 アッシュ、勝負は俺の勝ちだな!」


 * * *


 ローザの家。

 依頼人はソファに座り、満面の笑みで“ルドルフ”を抱きしめていた。


「見て、この子! 自分でちゃんと帰ってきたのよ!

 さすが、うちのルドルフ!

 あなたよりよっぽど賢いわね!」


 ジンは唖然としたまま、腕の中の犬を見下ろす。

 目の前の“本物のルドルフ”と、今連れてきた犬の特徴が……完全に一致している。


「俺は犬以下かよ……

 って!まさか……別の犬……だと……!?」


 その瞬間、ローザに抱かれていた本物のルドルフがジンに向かって突然吠え始めた。

 その声は、まるで「お前はポンコツだ」と断言しているかのように。


「……なるほどな。

 ルドルフの特徴は“ポンコツを見ると吠える”か……

 ……俺、めっちゃ吠えられてるな……」


 * * *


 疲れ果てて拠点に戻るジン。

 足元には、例の犬がちゃっかり着いてきていた。


「……お前、なんでついて来てんだ?

 ……まぁ、いいや。俺はもう寝る」


 ジンがソファに倒れ込むと、犬はその足元で静かに丸くなり、寝そべった。

 まるで、「ここが自分の居場所だ」と言いたげに。


 瓦礫の隙間から、朝の光が静かに差し込む。

 ひとつの誤解と、ひとつの出会いが、また物語を動かし始める――





――See you in the ashes...

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