第20話:「スクラップガール」
荒れた地表に、アッシュのブーツがザクザクと足跡を刻む。
四番街の外れ。赤茶けた鉄骨が夕陽に焼かれ、その影を地に引きずっていた。
その中を、彼は前方を見据えて歩き続ける。
「犬っころ……お前、どこ行った」
耳元で風が鳴き、そこに重なるようにアリアの声が脳内に響く。
『……これ以上行くと、四番街の外よ。
放射線濃度が急激に上がる区域、危険だわ』
「多少外れても問題ねぇよ。
俺とジンのDNAは、放射線耐性が異常に高い。
この街で俺らに敵うやつはいねぇさ」
静寂が戻る。
風の中に、かすかな金属の軋みが混じった。
アッシュは足を止め、視線を鋭くする。
数秒後、赤錆に覆われたトラックの影から、ギラリと光る三対の目。
「……ヴァルス、か」
三体の大型機械兵が姿を現す。
重い足取りに合わせて地面が微かに揺れ、背中のパイロンからは火花が散る。奴らの補助アームが、獣のように地を這っていた。
アリアが思わず声を上げる。
『本来こいつらはアークシティの警備兵のはずでしょ! どうして地上の放射線地帯に、こんなにたくさんいるのよ!?』
アッシュは呟くように返す。
「以前リヴィアから聞いた話なんだけどな――」
——“濃度が高い区域には、大量のヴァルスが配置されている理由……
人類史上いちばんの天才がいるんじゃないかしら?
そう……姿を消したあの男の秘密基地が地上に存在してるって噂。
きっと血眼になって探してるんでしょうね”——
『なるほど……じゃあ、こいつらはさしずめ猟犬ってわけかしら』
「その通りだ」
アッシュはゆっくりと腰のホルスターに手をやり、レディエント・マグナムを構えた。
青白い符文が一瞬、静かに光を放つ。
「三発で済ませる」
次の瞬間、空気を裂く三発の雷鳴。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
轟音とともに、二体のヴァルスが崩れ落ちる。
だが――
「ちっ……一発外したか!」
残る一体がブレードを振りかざし、アッシュに迫る。アッシュは地を蹴り、廃墟の柱を利用して飛び上がる。壁を蹴って反転し、狭い通路を縫うように駆ける。
柱が抉られ、火花が飛び散る。
「遅ぇんだよ!」
すれ違いざま、アッシュは背後へと回り込み、瓦礫の足場を駆け上がる。
振り返ったヴァルスの肩関節が展開され、網のようにレーザーが発射される。
アッシュは空中で身をひねり、義手の右手を前に突き出す。
鋼のブレードが義手からスナップし、光線の狭間を正確に抜けて――
「そこだっ!」
ヴァルスのカメラアイを一直線に貫く。
刹那、轟音と共に爆発。
――破片が宙を舞い、アッシュは着地と同時に息をついた。
「ふぅ……さて、エネルギーをチャージしとくか。」
(……助ケテ)
アリアに、かすかな声が届く。
ノイズ混じりの、だが確かに“誰か”の悲痛な思念だった。
『アッシュ、今の……聞こえなかった?』
「は? 何も聞こえねぇが……」
『あそこ! あの影!』
アッシュはチャージしたマグナムを仕舞う。
そして、アリアの声に導かれるよう視線を向ける。
瓦礫の山、その一角。
赤錆に埋もれた鉄屑の中に、少女のような人型機械が倒れていた。
絡まり合ったコード、剥き出しの胸部ユニット。
しかし、それでもなお、眠る人間の少女にしか見えなかった。
――透き通るような淡青のショートカット、雪のように白い肌。
アッシュは静かに近づく。
「こいつ……ヴァルスじゃねぇか……?」
右手が、少女の胸元に触れようとしたその瞬間――
(……助ケテ)
――See you in the ashes...