9話
「……ローストビーフ丼とオムライスです」
キッチンの制服に身を包んだめぐるは、キリッとした眉を更に釣り上げてオレを睨みつけている。
多分めちゃくちゃ怒られるんだと思う。でも不可抗力だから仕方ないよな? それに、職場を言わなかっためぐるにも非はあると思う。つか、キッチン担当とかド嘘じゃねぇか!
めぐるは扉をピシャリと閉めてから真くんに視線を向けた。
「メガネくん。君なんでこいつと一緒にいるんですか」
「この間の『特異』でばったり出会って、病院でまたばったり出会ったからっス」
それは言わないで! 隠していたんだから!
真くんはそんなこと知らないから仕方ないのだけれど、めぐるの心配性がどう転ぶか予測ができないのでオレはただひたすらに冷や汗をかくしかない。
もはやめぐるの顔も見れずにただ俯いて前髪で顔を隠すことしか出来なかった。
「は? 『特異』で? なんで?」
「普通に、『特異』に巻き込まれたんじゃないっスかね」
「ごめん真くん。黙っててくれん?」
なにかマズイこと言っちゃいました? とでも言いたげな真くん。いいや、君は悪くないよ。きっと誰も悪くはないんだ。悪いのは『特異』とかいうものを作った神なのだろう。
恨む。クソが。
めぐるはため息を深く吐いてから「わかりました」と答えた。
何かよくない状況だと察したらしい真くんは、口の端を引き攣らせて何も言えずにいる。
めぐるが口を開く前に先手を打った。
「お前の能力ってなんだよ」
確かにオレも隠し事をしていたが、それよりももっと前からめぐるは隠し事をオレにしていたのだ。その件に関して怒られる筋合いはない。はずだ。
もう能力とかとりあえずどうでもよかったけど、オレはめぐるに怒られたくはないのだ。
めぐるは眉間に皺を寄せて答える。
「え……お前信じなかったからヤダ」
オレは信じなかったらしい。そして、めぐるは隠し事をしていなかったらしい。
もう口からは「ごめんなさい」としか出てこなかった。哀れな生き物を見つめる真くんの黒い瞳がとてつもなく突き刺さる。痛い。
「俺別に怒ってないけど」
「はい……。ごめんなさい」
「怒ってないって」
「ちょ、もう、関係ないんだよ。この罪悪感は怒られない方がよっぽど苦しい」
「めんどくせぇなぁ」
腕を組み、真くんにアイコンタクトを送るめぐるだが、真くんは手を挙げて首を横に振るばかり。どうしようもないっスね。と言っているのだとわかる。
困ったように口を尖らせためぐるは、またため息を吐いてからオレを見た。
「『虹星』と『特異』に関わった以上仕方ないことだから別に気にしなくていい。ただ気をつけろとしか言えない」
「還さんの能力ならどうせそのうち分かりますよ。割とチートだし、便利だからよく使ってますし」
10年以上交流のあった幼なじみの能力を一度も見た事がないので、オレは静かに傷ついた。多分関わらせたくなかっただけなんだろうが、それでももうちょいオレに心寄せてくれてもさあ。よくない?
拗ねた顔を見せると二人は先程のようにアイコンタクトを交わした。除け者にしやがって。ズルい!
むくれていると、またガラリと扉が開く。ちょこんと立っていたのは海くんで、相変わらずの無表情だった。
「ねえちょっと、とんでもない落し物拾ってくれてるじゃん」
海くんは右手に持ったUSBメモリを真くんに手渡してこう続けた。
「食事は後にして、すぐに部屋まで来て。ここでも事務所でも話しづらいから」
「飯今来たばっかなんだよ」
「なら全部持ってきな堅物頑固赤マフラー眼鏡。緊急だって言ってんだよこっちは。重大な案件をぽんと持ってきて馬鹿言ってんじゃないよ馬鹿野郎」
無表情のままに捲し立てる海くんに対し、真くんはしゅんとした表情を見せる。
これがさっき言ってた怒った時の海くんか、無表情で面と向かってこれを言われたらさすがに凹んでしまうな。
「月出さんの能力も借りたいから一緒に来て、そこのアンタも関わってる?」
「え、うん。一応オレが拾ったやつ」
「ならアンタも関係者ね。はい、グズグズしない」
テキパキ動く海くんに面食らいつつもすぐに個室を後にする。
中学生のように見えてちゃんと年相応にしっかりしている子だったらしい。勘違いしていましたなんて暴露した日には何を言われてしまうか、墓場まで持って行くことを決意した瞬間だった。




