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星に祈る  作者: 酢酸カー民
閑話
8/12

8話

(しん)(にい)! お休みなのにどうしたの? 抜き打ち的な?」

「普通にご飯食べに来たんだよ。抜き打ちなんてしなくたって、誰かが問題を起こしたら佐藤(さとう)さんがなんとかするでしょ」


 あはは〜そっか〜! と(かな)ちゃんは笑う。笑顔も可愛らしく美しい子だ。ボブパーマのふわりとした茶髪もよく似合っているが、髪を伸ばせばさらに人を魅了する容姿だろう。

 うちの事務所に来てくれれば看板になるのも難しくはなさそうだ。それに、彼女の明るさもスタッフさんの心を掴みやすい。

 誘ったら来てくれないかな。なんて考えていると、愛ちゃんはこちらを見て微笑む。


「ごめんなさい! こっちだけで盛り上がっちゃいましたね。お席ご案内します」

「あ、愛。個室に案内してくれる?」

「お、了解! ではこちらへどうぞ!」


 愛ちゃんの案内でキッチン横の個室へと入る。防音とまでは行かないが、人から見えないのは少しだけ安心感があった。

 夜には居酒屋をしていると言っていたし、個室があるのもその為なのだろう。開業から半年ほどでここまで盛況とは、凄いお店だ。

 個室の提案をしてくれたことへの礼を真くんに伝えれば、微笑んで返答してくれる。

 この子はかなり気遣いが出来る子なのだろう。既にオレの中ではとても信頼出来る子になっている。


 帽子と上着を脱いで後ろにあるハンガーに掛けておく。メニューは店員さんが水と一緒に持ってきてくれるそうだ。


「今日は平日だし昼間は大して忙しくないですよ。花金なんで、夜が大変でしょうね」

「花金って死語じゃない?」

「えっ……」


 真くんはショックを受けたように固まる。

 咳払いをしてから視線を逸らして別の話題を上げた。


「愛と、(はら)さんも日辻(ひつじ)さんのファンなんスよ。バレても大騒ぎするような人達じゃないんですけど」

「真くんの知り合いならきっと大丈夫でしょ。あの愛ちゃんって子、芸能界とか興味ないかな」

「あの子ああ見えてお嬢様なんスよ」


 どうやら金城(きんじょう)という由緒正しいお家柄で、人形店を営んでいるそうだ。

 お姉さんである地田(ちだ)ちゃんとは後継者関係で別の苗字らしい。多分難しいお話なのでとりあえず納得だけしておいた。

 ちなみに地田家は呉服屋らしく、こちらも由緒正しいお家柄なのだと言う。お嬢様姉妹とは……凡人のオレには想像も出来ない世界だ。


 ガラリと横開きの扉が開かれ、水を持った鈴木(すずき)さんが間延びした様子でゆったりと入ってきた。

 水をテーブルに置く際に、オレの顔を見て少し考える素振りを見せる。

 すぐに何か思い付いたような顔を見せた。


「あ〜、人気俳優だ」


 だから個室なのかと納得だけして帰っていく鈴木さん。このやり取りだけでとてもマイペースな人だということがよくわかる。


「言いふらすのも面倒くさがる人なんで、大丈夫ですよ」

「ありがたいけど、すげぇ興味なさそうだったのちょっとフクザツ」


 中々見ない類の方だった。きっとまたホールの隅っこでボーッとしているのだろう。

 オレは真くんに笑われながらタブレットとにらめっこをする。どれもとても美味しそうで中々選べない。

 あまり食べ過ぎるとめぐるから健康についてのお叱りを受けてしまうので、いくつかに絞らなくては……。


「割引あるんでいくつでもいいですよ」

「そっか! オレが奢るしいっか!」

「え、それマジなんスか?」


 注文も決まったのでタブレットの注文ボタンを押して待つ。

 

「ローストビーフ丼とオムライスとステーキランチとコンソメスープとチョコレートとフルーツのジャンボパフェ……流石に食いすぎじゃないスか」

「え、だ、ダメだった?」

「いや、失礼ながらそんな食うように見えなかったんで……」


 食べきれないなら食べますよと真くんは提案してくれたが、舐めてもらっては困る。

 大食い企画で10人前を食べ切り不正なしの堂々一位を勝ち取り、その後に夕食を平らげ後日番組を見ためぐるにバチくそ怒られたオレなのだ。これくらいなんてことはない。

 ちなみにその番組からあだ名に「ブラックホール」が加わった。


 注文した商品を待つ間、真くんと談笑をする。真くんは身内に芸能人がいるのもあってか対応の仕方を理解しているので、気を揉むこともない。

 真くんから今日いる主な従業員の名前や特徴を教えてもらった。


 探偵事務所のリーダーである(さとる)くんは真くんと同じ19歳の青年らしい。くせっ毛の茶髪と黒いタレ目が特徴と教えてくれた。いつも笑っていて焦ったところなどは見たことがないという。

 能力までは教えて貰えなかったが、彼らの中では最強に近い能力なのだとか。それがなくとも聡明な子らしく、高校からの知り合いである真くんは勉強や言い合いで勝てたことがないらしい。

 真くんも勤勉そうなのに、哲くんは所謂(いわゆる)天才というやつなのだろうか。


 異世界で出会った水翔(みなと)くんは二人より1つ年下の18歳。サラリと(なび)くウルフカットの銀髪と色素の薄い水色の三白眼が思い出される。

 彼は人見知りなので接客などは向いていないが、慎重かつ素早く調査を進められる子なのだと教えてくれた。

 大人しそうに見えたが以外にも活発な性格らしく、音楽や競技などに明るいそうだ。それから少々いたずらっ子でもあるらしい。

 たまにホラを吹いては騙された反応を見て楽しみ、追いかけられればその早い足で逃げてしまうのだとか、あの異世界で見た彼を思い出してみてもそんなことをしそうにはない。

 多分、気の置けない友人だからこそなのだろう。


 そんな水翔くんの弟である(うみ)くんはなんと17歳。幼い顔立ちと身長から中学生と誤認していたが、人は見かけによらないとはこういう事だろう。

 髪の根元が黒くなっていたのであの金髪は脱色していたんだと思う。名前のように深い海を思わせる瞳と、絶対に崩れない無表情が記憶に残っている。

 しかし、そんな彼は真くん曰く誰よりも感情の起伏が激しいらしい。表情に出ないだけで、彼の喜怒哀楽は凄まじいものなのだそうだ。

 拗ねた時はそれはもう分かりやすく不貞腐れ、機嫌の悪さを嫌味と皮肉で表現するのだとか。

 まあ、きっと見た目に似合った様子なのだろう。


 今は哲くんと佐藤さんと水翔くんがキッチンで働いているそうだ。他にも複数人働いているそうで、その中でも『特異(とくい)』に干渉したことのあるメンバーを教えて貰う。


(あずま)さんと村瀬(むらせ)さんはお互いを補い合って働いてくれますね」


 東さんは肩までの長さの黒い髪をいつも左耳に掛けているらしい。一番のしっかり者でキビキビとよく働く人なのだとか。

 鈴木さんや原さんのように業務に支障をきたしてしまうスタッフがいた場合、彼女がピシャリと叱りつけるのだそうだ。

 厳しいように見えるが私語や多少のミスには寛容らしく、働く上での最低条件さえ守っていれば特に問題はないみたい。


 東さんと一番関係が良好なのが村瀬さん。彼は物静かで、細かなことに気を配れる人だと教えてくれた。

 傍目からでも東さんに気があることが分かるくらい嫉妬深い一面があるそう。もしオレが東さんと会話をしたらそれだけで恨み言を呟くくらいだというから、相当東さんのことが好きなんだろう。

 こんなことを聞いても良かったのかと疑問を投げかけたら「自衛は大事じゃないっスか」と笑われた。


「まあ二人とも癖のあるスタッフ達に比べれば本当によく働いてくれる人たちですよ。ただ、感情的になった時に能力が爆発するので、それが玉に瑕ですね」


 『特異』に干渉したことのあるメンバーの大半が能力持ちだと教えてくれた。もちろん、オレのように能力がなくとも『特異』に巻き込まれることはあるそうだが、対抗出来る人間は必ず持ち合わせているものなのだ。


 今回紹介してもらった人たちは、皆何かしらの能力を持っていて、それを上手くコントロールしている人も能力に悩まされた過去があるのだそうだ。

 真くんにもあるのかと尋ねれば笑って誤魔化されてしまった。

 きっと言いたくないのだろう。


「最後に。今日働いてる人の中で一番の働き者で、物凄く癖の強い人」

「東さんより?」

「面談も調査もアフターケアもホールもキッチンも、全部兼任しているオールマイティな人です。そんな事してるの(めぐる)さんだけですよ」


 真くんが最後に紹介してくれた人は、どうならとてもケチな性格らしい。

 クールな働き者で、しっかりしているそうなのだが、お金が絡むと利益の大きな方に飛びついてしまうらしい。

 どうしてかとても既視感がある。

 既視感があるどころか、名前からしてもう思い浮かぶ人物は一人しかいなかった。


月出(つきで)還……だったりする?」

「あれ? お知り合いですか?」


 真くんが目を丸くさせると、個室の扉がガラリと開いた。

 その人物はオレの顔を見るや否や、怒りを孕んだような緑の瞳で睨みつけてくる。


「め、めぐる……」


 幼なじみで同居人のめぐるはどうやら、特殊な探偵事務所で働いていたらしい。

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