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星に祈る  作者: 酢酸カー民
閑話
5/12

5話

 嫌々ながらも付き合うめぐるをショッピングに連れ回し、自分が表紙を飾った雑誌も手に入れ、クソダサいめぐるの服を全て買い換えてから新しく出来たカフェでまったりと過ごす。最高の誕生日だ。

 めぐる自身はカジュアルな服装を好む様だが、思った通り彼のクールな面立ちと長身にはシックな服装が良く似合う。

 オシャレに伊達メガネでも掛けさせてやれば知的でクールなイケメンの出来上がりだ!

 本当はハットも被せたかったが、帽子は蒸れると文句を言われてしまったので渋々断念した。


 それにしても、カジュアルな服装を好むのはいいが何故そこが繋がっているのかと疑問に思う緑のシャツや、今どき小学生でも着ていないくすんだ青のパーカーはどこで買ったものなのだろうか。

 オマケに茶色のカーゴパンツ。組み合わせ次第でオシャレになるだろうにどうしてこうなったのだろう。

 せっかく元はいいのにあまりにも無頓着な幼なじみに、どうしても勿体ないという思いが出てきてしまう。

 まあ、めぐるがそれでいいならいいけど、やっぱりオレの親友はかっこいいってところを見て欲しい気持ちもあることは否定できなかった。


 家路に着く頃には既に太陽も夜を引連れていた。雪でも降りそうなほど低い気温に、マフラーを買っておけばよかったとめぐるは後悔している。

 夕食を作るから手を洗って待っていろと言われ、ソファに腰かけた。

 一日中遊んで忘れかけていたが、不思議な世界で出会った探偵くんたちのことが気になりネットで探偵事務所虹星(ななほし)について検索をかけてみると、すぐに最近立ち上がったばかりの話題の探偵事務所であることが分かる。

 どうやら表向きの業務も評価は高いらしい。代表取締役である人物は26歳という若さでこの事務所を経営しているそうだ。世の中優秀な人間は年齢も関係ないんだな。


「なあ、めぐるー」

「何。今手離せないんだけど」


 オレの誕生日祝いのためにたくさんの料理を作っているめぐるは、不機嫌そうな困った声で返答する。


「探偵事務所虹星って知ってる?」


 最近話題らしいんだよねと付け足すと、皿にチャーハンを盛り付け終えためぐるが眉間に皺を寄せて皿を机に置いた。


「探偵事務所? なんで?」

「ちょっとお世話になった……んだけど……。別に、なにか事件があったとか、そういうんじゃなくてね?」


 聞いてから焦って言い訳を取り繕う。冷たい態度がデフォなので忘れがちだが、めぐるはとことん心配性なのだ。

 学生の頃、小さなきっかけでいじめられてしまった時、めぐるにバレてとんでもない報復事件が起きたのは今でもトラウマだ。

 探偵に世話になったなんて、まして異世界で不思議な体験をしましたなんて話説明のしようもないので、この話題は確実に振るべきではなかった。


「お前、ご両親のことまだ諦めてないの?」


 今度こそめぐるは不機嫌な声を出す。

 12年前、突然姿を消したオレの両親の行方は今もわかっていない。

 生きているのか、もう既に他界してしまっているのか……。小さな頃は、いつかすぐに帰ってくると信じていたが、今はもう期待もしていない。

 しかしめぐるは、行方不明のオレの両親を、探偵に依頼しようとしていると思ったらしい。

 不機嫌なめぐるにつられてつい同じような態度をとってしまう。


「別にそういうのじゃねーよ。もう十年も前の話だし、一人息子をほっぽって連絡のひとつも寄越しやしない親だぜ?」

「……まあ、お前がそれでいいならいいけど」


 席に着いてサラダを取り分けてからめぐるはオレをじっと見つめる。先程の質問に答えるということなのだろう。


「探偵事務所は知らない。普通に生きてて、そんなものに関わるわけないからな」


 だからお前も関わるなとまでは言わず、手を合わせてからサラダを口に放った。この話は終いらしい。

 まあ、めぐるの態度がこうなのはいつもの事だし、探偵とは無縁だろうとはわかっていたし、別にいいけど。勝手に話を終わらせる悪癖が治らないのも今に始まったことじゃないし。

 チャーハンもハンバーグもとんかつもオムライスも美味しいので、今回はチャラにしてやろう。


 ホッケの塩焼きを食べ終えためぐるはいつものようにオレが食事している所をじっと眺めている。何が楽しいのか、彼は昔からこうやって人の食事を眺めているのだ。

 そして、必ずこう聞いてくる。


「美味い?」

「もいひい」


 答えればめぐるは満足そうに笑うので、多分聞きたいだけなのだろう。

 ふと、めぐるは思い出したかのように口を開いた。


「お前予約取ったか?」

「よやく? なにが?」

「病院。健康診断」


 その言葉を聞いたその瞬間、オレの意識は目の前の美味しいご飯の数々から逸れてしまう。

 病院。健康診断。ああ、どちらも嫌いな言葉だ。ワースト上位に組み込むだろう。

 考えていることが顔に出ていたのか、めぐるは呆れた声を出した。


「まさか、まだ取ってないのか?」

「取った! 取ったよちゃんと! えっと、確か予定日が……」


 携帯でカレンダーを開いて確認をする。今週末の午前11時に健康診断と記載があることを伝えれば、安心したようなため息を吐いた。

 昔、頑なに病院を拒んだらめぐるの両親とめぐるに騙されて連れていかれたことを思い出した。この手の話題に限っては彼らへの信用はない。おそらく、向こうも同じだろう。

 もう子どもじゃないのに、忘れずに行けよとめぐるは釘を刺す。社会人なんだから、そんなことあるわけないだろ。


「場所は?」

「一人で行ける! ったく、お前はオレのお兄ちゃんかよ」


 スープを飲み終えてから手を合わせると、それまで眺める姿勢を取っていためぐるが皿をシンクへ運んだ。そのついでにケーキを取りだして切り分けてくれる。


「食べれるだろ?」

「もちろん! 甘いものは別腹♪」

「相変わらず恐ろしい食べっぷりだな」


 少食なめぐるは、朝食のようなメニューで満足してしまったらしい。

 今年の誕生日ケーキはどうやらイチゴタルトのケーキのようだ。艶のある大粒のイチゴが零れ落ちてしまいそうなほどたっぷり並んでいる。


「これお前の職場のケーキ?」


 Happy birthdayと書かれたチョコプレートをオレのケーキに刺してからめぐるは頷く。

 めぐるの職場は飲食店らしく、彼はキッチン担当らしい。場所を教えてくれないのでどこで働いているのかは知らないが、それなりの有名店で働いているそうなので知らない間に自分の舌も肥えてしまっているかもしれない。


 閑話休題。

 病院の場所を調べていなかったことを思い出してマップを開く。メールに送られてきた住所を検索で打ち込めばすぐに病院名が出てくる。火野(ひの)医院という病院らしい。

 火野……。つい最近聞いた苗字だ。

 単なる偶然だろうが、もしあの火野くんのお家ならちょっとだけ気まずいな。

 とはいえ、彼の連絡先を知る訳でもないし、こちらの世界で彼と顔を合わせたこともないし、特段気にする必要もないのだが。


「明日は? 仕事?」

「ないよー。ドラマクランクアップです!」


 打ち上げがあるから明後日はご飯いらない。と伝えればめぐるはこちらを見もせず了承した。

 出来れば食べたいが、早朝からCM撮影、その後舞台挨拶とかなり詰め込んだスケジュールになっているので、残念ながらめぐるのご飯を食べる時間はないだろう。

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