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クールな幼馴染みとの甘い秘密  作者: りょう
第1部クールな幼馴染みと偽装カップル
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第4話偽装カップル学校へ

 教室へ入ると、案の定というべきかクラスメイトが一気にザワついた


 当然と言えば当然。あの“氷華”が誰かと手を繋いで教室に入ってきたのだ。ザワつかないわけがない。


「ちょっとあれ、どういうこと」


「確か隣にいるのって天野君だよね? 普段仲良しにはみえなかったけど」


「天野に先を越されたぁ」


 クラス中から阿鼻叫喚の声が響き渡る。


「じゃあ亮太、お昼に」


 そんな彼らを無視して、華はそう囁いてくる。俺は無言で頷き、ようやくいつもの俺達に戻った。


「おい天野、今のどういうことだよ!」


「お前抜け駆けなんて聞いてないぞ!」


「いつからなんだ!」


 自分の席に座ると、俺は早速質問責めに合う。


「成り行きで色々あったんだよ。付き合いだしたのは昨日から。それ以外は答えられることはないからな」


 俺は予め考えておいたセリフで、それらを受け流す。というかそれが全てなのだから、答えられることは何もなかった。


(華は......あっちもいつも通りか)


 華の方を見てみるが、日頃の態度のそれを現すように誰も彼女に詰め寄るような人間はいない。華もそれを気にした様子もなく、いつも通りの澄まし顔で朝のホームルームが始まるのを待っていた。


(あれだけ見たら、俺が嘘をついているようにしか思えないけど、手を繋いでるところ見せつけちゃったからな)


 果たしてこれがストーカーに届くのかは分からない。むしろ届いてもらわないと困るのだが、


(そういえばストーカーがどういう人間なのか聞いてなかったな)


 今更ながら俺はそれに気がついたのだった。


 ーお昼休み


「というわけで、俺はほぼ質問責めが続いたんだが」


「苦労してたわね」


「他人事みたいに言うなよ。自分は何もなかったからって」


 俺と華は二人だけの時間を過ごすために、学校の屋上にやって来ていた。

 12月も近いのであまり外では食べたくないのだが、なるべく二人きりで過ごしたいという華の意向で屋上で昼食を食べることになった。


「そういえば昨日は聞きそびれたことがあったんだけど聞いていいか?」


「聞きたいこと?」


「華が言っているストーカーってどういう人間なんだ?」


「そういえば話をしていなかったわね。告白してきたって話はしたわよね?」


「ああ。だから今、二人きりでいるからな」


「相手は私達の一つ上の先輩で、私の部活の先輩でもあるの」


「華の部活の先輩って、バドミントン部の先輩? でも三年生だから今年の秋で引退したはずだよな?」


「実は部活にいたころから言い寄られていたの。しつこいくらいに。でも部活も辞めたらきっぱり諦めてくれると思っていたんだけど、逆だった」


「むしろ時間が空いたから、つきまとう時間が増えたって訳か」


「私が部活しているときも体育館の外から覗いているのも分かっているし、顧問の先生に何度も相談しているんだけど、何も解決しなかった。だから最終手段として亮太の力を借りた、というわけ」


「俺はあくまで最終手段だったのかよ」


 俺は購買部で買ってきたメロンパンを食べながら、少し不服そうな顔をする。逆に華は自分で作ってきたと思われる弁当を食べながら、ため息をついた。


「正直偽装カップルなんてリスクが高いことくらいは理解していたの。でもそうでもしないと絶対に解決しないって分かったから、亮太を巻き込んだ。それだけは申し訳ないって思っている」


「別に怒っていないからいいけどさ」


「本当に?」


「ああ、本当だよ」


 怒っているどころか喜んでいる自分がいるなんて、口が裂けても言えないがそれは間違いなく本心だ。


「ありがとう、そう言ってくれて。嬉しい」


 華は少しだけ嬉しそうに俺にお礼を言ってきた。こういう可愛いところを俺が独占できるのだから、本当に彼女の頼みを受けてよかったって思える。


「とにかくその先輩のことは、俺も警戒はしておくよ。絶対に護ってあげるからな華」


「頼りにしているよ、亮太」


 話が丁度終わったところで、お昼休み終了十分前の予鈴が鳴った。


「今度は放課後だな」


「うん。でも私は今日部活があるから」


「分かっている。教室で適当に待っているから」


 次こうして会えるのは先になってしまいそうだが、またこうして話せるならいくらでも待てるって思いながら俺達はお昼休みを終えた。


 ー放課後


 俺は約束通り学校の教室で勉強をしながら華の部活終わりを待っていた。


(こういう時だけ帰宅部でよかったって思えるよな)


 特にやりたい部活もなかったので、自然と帰宅部を俺は選んだのだが、どうやらその選択が今になって活きてきたらしい。別に待っていることに退屈も感じないし、華と帰れるなら我慢だってできる。


(こういうの性に合わないけど、悪くないな)


 今までの自分だったら授業が終わるとすぐに帰宅して、ゲームやアニメを見て時間を潰して、夜になったらご飯を買いに行くっていうくらいの自堕落な生活を送ってきたのだが、こういう時間があっても悪くないのかもしれない。


(今頃華は何を考えているんだろう)


 部活のことだと言われれば、当然と言えば当然だろう。けど少しでも俺のことを考えてくれていたりしたら、嬉しいなって思う。


(らしくないこと考えてるな俺)


 心躍るというのはこういうことを言うのだろうか。昨日は戸惑うことの方が多かったけれど、少しずつその実感も湧いてくる。


 ーそれがたとえ偽物だったとしても


 今俺は華の彼氏だ。護らない時は護らないと俺も男ではない。先輩が相手だとしてもだ。


(いつかみたいな後悔だけは、絶対にするもんか)


 俺は夕暮れに照らされながら黙々と勉強を続けた。


 2

 今日はどうしてか分からないけど、バトミントンの練習に集中できた。最近はストーカーの件もあって練習に力が入らない時間も多かっただけに、亮太が助けてくれるって考えただけで気持ちが軽かった。


「華先輩、今日は気合いが入っていますね」


 練習が一区切りして一息を付いていると、一つ下の後輩の野田榛名のだはるな が私にタオルを渡しながら話しかけてきた。


「私そんなに気合い入っていた?」


「はい! 特にスマッシュのキレがすごかったです」


 榛名は何故か私のことを入部当初から慕っていてくれていて、体格が小柄で人懐っこいこともあって、私も彼女のことを気に入っていた。


「それも彼氏ができたからですか?」


 そんな榛名から爆弾が落とされる。


「......もう榛名の学年まで噂が回っているんだ」


「当たり前じゃないですか。もう学校中で大騒ぎになっていますよ」


 予想通り、ではあるけれど本当に悪い意味で有名人な自分が悲しくもなる。


(ということはもう先輩の耳にも届いているって考えていいのかな)


 その先輩の気配は今日は感じられない。効果はちゃんとあった、と考えたら少しだけ安心はするけどまだ安全とは言い切れない辺り、この先が本当の戦いになるのは間違いなかった。


「榛名はどう思った? 私に彼氏にできたって噂を聞いて」


「勿論驚きましたよ。華先輩って彼氏は絶対に作れないと思っていましたから」


「さりげなく失礼なことを言うのね」


「でもほんとうのことじゃないですか? それに先輩のお相手の天野先輩って幼馴染みの方ですよね?」


「うん。亮太は幼稚園の頃からの幼馴染みよ」


「やっぱり幼馴染みだからお互いのことを沢山知っているんですよね? だから気持ちが通じ合ったとか?」


「そうなのかもね」


 全てが偽物の関係なので、嘘を本当のことのように話さなければならないのは難しい。一つ言葉を間違えればそこからボロも出てしまうし、最悪の結果だって招きかねない。


(私はいつも通りの私でいれば大丈夫。誰もそれに違和感を覚えることはないんだから)


「それにしてぉ先輩は、その幼馴染みさんのどこが好きになったんですか?」


「え? どこがって......」


 榛名から想定していない質問をされて、私は一瞬戸惑う。


(亮太のどこが好きかって、そんなこと言われても)


「まずは優しいところかな。昔から私のわがままをよく聞いてくれたり、私に何かあったらすぐに助けにきてくれたり。常に私のことを考えてくれているみたいですごく優しいの」


「あ、あの?」


「あとはやっぱり格好いいところも好き。見た目の好みは人それぞれかもしれないけど、私は亮太は格好いいと思っている。本人は恥ずかしがっているのかいつも否定しているけど」


「せ、先輩?」


「昔は確かに色々あって、亮太もそれに悩んでいるのも知っている。でも私はもう乗り越えているよって言ってあげたい。そういうのも全部含めて好きなんだって」


 これくらいしか言えることないし、それで榛名が納得してくれるのかな。


「これくらいしかないかな」


「お腹一杯です。もう充分なくらいに」


 あれ?

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