第22話ソフィーヤさん
「すごい熱だけど、多分疲れからきたものだと思うわ」
俺からの連絡を受けてから十分後。家にやって来たソフィーヤさんが華の様子を見ながらそう言った。
「わざわざ来てもらって、すいません。俺一人だとどうしてもできないこともあって」
「いいわよ。その為のお隣さんなんだから」
「本当にすいません......」
まさかこんなことになるとは思っていなかった俺は、ただ謝ることしかできない。
「どうして謝るのかしら。別に亮太君は何も悪くないんでしょ?」
「それは、そうなんですけど」
ソフィーヤさんは別に俺に怒っているわけでもなく、優しく話しかけてくれる。華もソフィーヤさんには許可を得ていたという話だったので、許されているんだけれど果たして相手が違ったらこうなっていたのだろうか。
「華に泊まっていってほしいって言い出したのは俺なんです。こんなことになる可能性だって考えられるはずなのに、それすらも考えていなくてただ華と一緒に過ごしたいって思ったから」
何度も俺は頭を下げる。それに対してソフィーヤさんは、俺の頭を優しく撫でてくれた。
「華のことをそこまでするくらい好きなんでしょ? だったら何も悪くない。親としては娘が幸せになれる相手がいるってだけで充分嬉しいものよ」
「ソフィーヤさん......」
「貴方たちはまだ高校生だから、できることできないことが沢山あるかもしれない。けれど今できることは今しかできない。だから私は貴方たちには今ある時間を楽しんでもらいたいわ」
ソフィーヤさんとこうして会話するのは久しぶりだったけど、相変わらず俺にも優しくしてくれる人で安心した。
(この人には昔から本当に敵わないよな)
二年前の一件の時も、ソフィーヤさんは俺を怒るどころか今みたいに優しく包み込んでくれた。そのお陰で立ち直れたと言っても過言ではない。
「それでどこまで行ったのかしら?」
「え? ど、どこまでというのは?」
「キスは勿論したのでしょう? その先にも行ったのかしら」
「そ、ソフィーヤさん?」
「あ、本当はもっと前からしていて、今日はもっとはげし......」
「それ以上は言わせませんからね!」
こういうところも、ソフィーヤさんらしい......のか?
2
華が落ち着いたのを見計らって、ソフィーヤさんは一度帰宅。帰り際に「もしまた何かあったらいつでも連絡してね」と言ってくれて頼もしかったのだが、あれ以上根掘り葉掘り聞かれても困るのでもう呼ぶことはないだろう。
「......あれ? 私いつのまに寝て......」
お昼過ぎ。
ずっと眠っていた華が目を覚ましたので、予め作っておいたお粥を彼女に食べさせてあげた。
「お母さん、来てくれたんだ」
「頼れる人が他にいなくてさ。ほら、着替えとかは俺がするわけにもいかないだろ?」
「今更そんなこと言うの? 昨日はあんなに」
「やめてくれ、今日はもうその話はしないでくれ」
「なんで?」
ソフィーヤさんの尋問がトラウマになっているとは言えないので、俺は適当に誤魔化して食べ終わったお粥を片付ける。
「外、雪が積もっていたんだね」
「ソフィーヤさんも言っていたけど、結構積もっているみたいだな」
「こんな事にならなかったら、雪遊びしたかった」
「小学生かよ。でも俺も少し遊びたいって思ったな」
「ふふっ、一緒ね」
熱はある程度下がっているからか、華の声に少しだけ覇気が戻っていて安心する。
「それでこれからどうする? 一応ソフィーヤさんには回復するまで家に居ていいって言っていたけど、まだすぐに身体は動かせそうにないよな?」
「うん。身体はまだ動かないかも」
「なら母さんに言って、今日までは泊まってもらった方がいいかもな。今下手に動くと、お隣さんとは言え何があるか分からないし」
「もう一泊させてもらって......いいの?」
「いいよ。父さんも母さんも分かってくれるだろうし、俺だって華に無理をさせたくない」
「ありがとう」
この後俺は母親に連絡を取り、事情を説明したところ、「構わないけど、ちゃんと面倒を見なさいよ」と了承を得た。
(面倒を見るって、ペットじゃないんだから)
そう思いながら華の所に戻ると、まだ体力が戻っていないからか眠っていた。
(色々慌てたけど、落ち着いてくれてよかった......)
ソフィーヤさんが居なければきっとこうやって落ち着くことはなかっただろうし、華がもっと苦しんでいたのかもしれない。
(疲れたな。俺も少しだけ眠るか)
華の様子を見て一安心したのか、急に眠気がやって来る。特に今日は何もやることはないので、俺は睡魔に身を任せて一眠りすることにした。
(娘が幸せならそれでいい、か......)
眠りに落ちる直前に思い出したさっきのソフィーヤさんの言葉。それがきっかけになむたのか分からないが、俺はこの日ずっと閉じ込めていた記憶の扉を開くことになる。
ー始まりは二年前、いやそれはもっと前から始まっていた。
「りょうた、いっしょに帰ろう」
多分小学生の高学年の頃からそうだったんだと思う。
「いやだよ。華と帰るとみんなにいじめられるんだ。だから一人で帰る」
「そんな待ってよ!」
華という存在が、心が成長し始めた俺にとって煩わしく感じるようになったのは。




