第19話聖夜に二人で(3)
ゲームで嫌というほど打ちのめされた後、気がつけば夕飯の時間になっていたので、俺達はそのまま準備を始めた。
「じゃあ亮太は野菜を切って。私はフライパンで焼くから」
「はいよ」
作業をお互いに分担しながら、料理を作っていく。
グラタンやビーフシチュー、それにサラダ
二人分作っているので時間は掛かるが、こうして一緒に料理している時間も“らしさ”を感じるので、決して苦ではなかった。
「亮太、ビーフシチューの味見して?」
華はスプーンでビーフシチューを掬うと、それを俺の口に運んだ。
「ちゃんと味も通っていて、美味しいな」
「私も一口......美味しくできた」
そのスプーンで華も味見して、満足そうな顔をしている。
(華はそんなつもりじゃなかっただろうけど、間接キスだよなこれ)
今までも何回かあったけど、今日はこんな小さな事でも俺は意識してしまう。
(そういえば俺達、付き合い始めたのにキスもしたことなかったな)
思わず彼女の唇を見つめてしまう。意識しだしたら、華とキスがしたい衝動に駆られてしまいそうになる。
(悲しき男の運命だな、これは)
自分で言っていて悲しくなりそうだ。
「ビーフシチューはこれであと少し煮詰めれば完成だし、サラダも完成している。あとはグラタンだけ......どうしたの? 亮太」
俺がずっと見つめていることに気がついた華が、不思議そうにこちらを見つめている。
俺は慌てて視線を逸らしながら、オーブンに入っているグラタンを見た。
「ぐ、グラタンも焼き加減は問題なさそうだな。買ってきたケーキは最後のデザートだし、これで準備は完了でいいと思う」
「なら私お皿用意しておくから、亮太は盛り付けとかお願いしていい?」
「分かった」
何とか俺は誤魔化したが、気持ちがザワついて変に華を意識してしまう。さっきまで忘れていた気持ち。高校生の男女が同じ屋根の下で一晩一緒に過ごす。
この言葉の重みが今になってプレッシャーとして掛かってきた。
「痛っ」
そんなことを考えていたせいで油断していた俺は、指を切ってしまう。
「どうしたの亮太」
「指を少し切っただけだから心配するな」
「血、出てる」
「いや、こんなのへい」
「あむっ」
俺の怪我を見るなり、華は何の躊躇いもなく俺の指をくわえ込んできた。
「ちょっ、いきなり何をして」
「しけふだけど?(止血だけど)」
「そ、そんなのは分かっているんだけど。よ、よくそんな躊躇せずに」
「っはぁ......血は止まったみたい」
数秒して華の唇が俺の指から離れる。確かに血は止まっているけど、それ以上のことが起きて俺は自分の頭が沸騰しそうなのを何とか我慢していた。
「今度は顔が赤くなっているけど、熱でもあるの?」
「これは違うから!」
今日の俺は本当におかしくなってしまいそうだ。
2
色々あったものの、無事食事は完成し、俺と華は向き合う形で手を合わせた。
「「いただきます」」
そして声を合わせた後、二人で作った料理を食べ始めた。
俺はビーフシチューを、
華はグラタンを。
まずは一口食べた。
「美味しい」
「ああ、美味しいな」
料理人が作ったわけでもないし、特別な食材を使ったわけでもない。でも二人で作ったという特別なスパイスは、どんな料理よりも逸品に仕上げた。
「カレーの時もそうだったけど、亮太が作る料理美味しい」
「それを言うなら華の料理も一緒だよ。いや、それ以上だな」
「亮太のこそ」
「華こそ」
お互いに譲らないこのやり取りも、新鮮に感じる。けど少しずつ恥ずかしさも自分の中から消え始めているし(さっきのは例外だが)、これがカップルらしさなのかもしれない。
「何を笑っているの?」
「いや? なんか俺達って本当に付き合っているんだなって改めて思ってさ」
「今更? デートだってしているのに」
「ああ、今更かもな。でもそういうのも悪くないだろ?」
「それはそう、かも」
その後はお互いに黙々と料理を食べる。時にはあーんとかしたりしたが、そこに以前のような恥ずかしさはなかった。
「「ごちそうさまでした」」
そして無事に完食。
「やっぱり量が多かった」
「そうだな。でも残った分は冷蔵庫に入れたじゃ、また後で食べられるよ」
量が量なだけに、二人では全部食べきれなかったので残りは明日に回し、それでも残ったら親に食べてもらうことにした。
食後はさっきみたいに何か特別なことをするわけでもなく、テレビを付けながらお互いの時間を過ごしていた。
(クリスマスだからもっと特別なことをしたいって思ったけど、いつも通りになったな)
二人がけのソファの隣に座って、テレビを見ている華を見て俺は考える。一年に一度の特別な夜ではあるのだけど、家にいると結局いつも通りの俺達になってしまう。
少しだけ寂しい気もするけど、無理に何かする必要もないし、華もそんなこと考えていないだろう。
(恋人同士なんだから、俺も勇気を出して少しでも踏み込みたいんだけど)
そこから先に進むことがどうしても怖くなってしまう。
「ねえ亮太」
不意にテレビを消した華が、こちらを向いてきて思わずドキッとしてしまう。隣に座って居ることもあって、顔がかなり近い距離でお互いを見つめ合う。
「な、何だよ」
「私、亮太とならいいよ?」
「い、いいって何が?」
「亮太となら、恋人らしいこと、してもいいよ?」
静かになった家に、華の物静かだけど甘い誘惑の言葉が響いた。




