第14話本当の初デート 中編
ローラースケートでお腹も空いた俺達は、一度外に出て近くの公園で昼食を取ることにした。
「天気は晴れてくれてよかったけど」
「流石に寒いわね」
間もなく年の瀬ということもあり、外の空気は冷たかった。
「外でいいのか?」
「静かな場所で二人きりで食べたいから
」
そう言うと華は公演の中にあった芝生にレジャーシートを敷き、そこに弁当箱を広げ始める。
「それにこれはこの前の約束でもあるから。今日は味噌汁も作ってきたから、身体も温かくなると思う」
弁当の隣に水筒を置いたので何かと思ったが、中身は味噌汁らしい。俺はこの前と同じように華の隣に座ると、弁当箱を眺めた。
「これ一人で全部作ったのか?」
「当たり前でしょ? 亮太のために頑張って作った」
「食べる前から恥ずかしいこと言うなよ」
俺は華から割り箸を受け取り、弁当の中から卵焼きを取り、それを華の前に運ぶ。
「はい、あーん」
「ふぇ?」
俺の行動に華はポカーンとそれを眺めている。
「何だよ食べないのか?」
「食べるけど、何で亮太がそれをしているの?」
「別に男がやっちゃいけない決まりはないだろ?」
「な、ないよ。でも、それは恥ずかしい」
「その恥ずかしいことをこの前華がやったんだよ。ほら、あーん」
「あ、あーん」
華は意を決したように卵焼きを口に入れる。しばらく咀嚼した後に満足そうに頷いた。
「うん、今日も美味しくできてよかった」
そして今度は自分の番とばかりに華は、自分の割り箸でウィンナーを取りそれを俺の口に持ってきた。
「今度は亮太の番だよ。はい、あーん」
「あーん」
一度経験した俺は、今度は恥ずかしがることなくそれを受け入れた。ちゃんと焼かれていて、少し塩コショウが振られているのか、ちょっとだけ塩味も感じられる。
「美味しいな」
素直に俺は感想に言うが、華は何故か「むうっ」と唸りながら俺を見ていた。
「な、何だよ、不満そうな顔して」
「何で私だけ恥ずかしい思いしているの?」
「何でって言われても、この前体験したばかりだからな。慣れたんだよ」
「たった一回で?」
「ああ、一回で」
「もしかして、私の知らないところで浮気とかしていない?」
「何でそうなる?!」
「だってほら、亮太、この前榛名と仲良くなったって」
「あの時話して以来一度も会ってないからな!信じてくれよ」
こんなにも早く浮気を疑われるのはあまりに心外なので、俺は必死に否定する。華はすごい疑いの目を向けてくるが、神に誓って浮気はしていないって言える。
「今日は不問にしてあげる。その代わり」
「その代わり?」
「次は命がないから。覚悟しておいて」
「肝に銘じておきます」
2
とんだ冤罪が生み出されそうになったが、とりあえずお昼は完食。
「ふわぁ......」
「もしかして眠い?」
「結構食べたからな」
華が作ってきた弁当の量はかなりあったので、完食した頃には満腹になりその影響か眠気が襲ってきた。
「......んっ」
それを聞いた華は正座をしたかと思うと、膝をポンポンと叩いてきた。
「えっと、華、さん?」
彼女が俺に何をしようとしているのか分かるので、思わずさん付けで呼んでしまう。
「眠いなら膝、貸してあげる」
「い、いや、ちょっとそれはあーんよりも恥ずかしいんですけど」
「さっきの仕返し。亮太も辱めを受けるべき」
「辱めって......」
俺は少し呆れるが、華は無言で何度もポンポンと膝を叩き続けているので、俺には逃げ場はないらしい。
「分かった、お言葉に甘えさせてもらうよ」
俺は諦めて自分の頭を彼女の太ももに預けた。同時に後頭部に柔らかい物を感じる。
(これが膝枕か......)
初めての体験だが、いざ身を任せたら恥ずかしさも何もかも消えた。
「足が痺れたりしたら言ってくれよな?」
「大丈夫。伊達に部活で鍛えていないから」
「そういう目的で鍛えているわけじゃないだろ?」
「冗談よ冗談」
華はそう言いながら俺の頭を優しく撫でてくれる。それだけで眠気がやって来て、俺はそれに身を委ねるように目を閉じた。
「おやすみなさい、亮太」
彼女の言葉に誘われて、俺はそのままゆっくりと眠りについた。
(亮太の寝顔ってこんなに可愛かったんだ......)
自分の膝で寝息を立てている亮太の寝顔を眺めながら、私は胸のときめきを感じる。
(亮太の本当の彼女になれるなんて思っていなかったなぁ)
亮太本人は気づいていないけど、顔は格好いいし優しいから他の誰かとくっついてしまうと思っていた。その時が来たら私はきっと悲しむけど、それが亮太の幸せならいいって思って大人しく身を引ける。
(けど亮太は私を選んでくれた。それだけでもう私は幸せ)
この一ヶ月は色々なことが沢山あったけど、それを全部乗り越えた結果が今この瞬間を生み出してくれている。
(これからも私の隣にいてね、亮太)
これ以上のことは何も望まないから、もう絶対に離れないで。
ーそれが今の私の小さな願いだった。
(もう、誰かがいなくなるのなんて絶対に嫌だから)
私は眠る彼の頭を優しく撫でながら、小さな願いを込めて彼の頬にキスをするのだった。