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○第九話○再会





 ギークは道に大の字になって気絶していた。魔力を吸入する器官を使い果たしたのだ。人が走り続けると気を失うように同等の事が彼には起こりうる。


 しかし、体力と違うのは、魔力不足で人は死なないと言うことだ。


 そもそも、人が生きるのに魔力及び魔法は一切必要ない。生命を維持する器官ですら。


「ああ、くそ…これ、どうするよ」


 そう投げやりに言ったのはリップスだった。リップスはギークの暴走の惨状を、見やる。


 石畳みはポコポコ。


 人様の家すら抉ってしまった。


 もう出てくる。打ちつけた扉を破って、住人が出て、もう言い逃れできなくなる。


 このまま逃げても良いが、ギークを置いて行けない。


 それより、リップスは、任務でないところで物を壊し、弁償の義務を果たさないのは許せなかった。これまでの自分の生き方が、そうさせなかった。


 弁償は当たり前だ。しかし、足りるだろうか。


 今、波に乗っているギルド『アルバトロス』ですら、出せるかどうか分からない程の大きな被害。


 くそ、せめてギルの野郎がいれば…。



「終わった…」


 レベルカが、リップスが言うまい言うまいと我慢していたことを言った。


 確かに、このままでは、『アルバトロス』は終わる。もし仮に被害総額を弁償したとしても、ギルドの何人かは『アルバトロス』を抜けてもらう必要がある。衣食住が保証出来ないからだ。


 弁償出来なかったとしたら…。


 『パイプ行き』だろうか?


「ああ、クソ…。俺がもっとしっかりしてれば…」


 涙が出て来る。


 初めは、この幼馴染4人で出来たギルドだった。


 初めは資金繰りに苦しんで、どんな汚れ仕事だってやってここまでのし上がってきた。


 さあ、今からって時に…。


 いや、違う。


 ツケが回ってきたのだろうか。


 きっとそうだ。


 いつからこんな、


 任務のためには墓を荒らすクソ野郎集団になってしまったのか。


 ……。


 ……俺だ。俺がアルバトロスをこんなにした。



 リップスは両手に手をつき、アルバトロスに、そして仲間に謝るように言った。


 解散だ。


 大切な彼らに迷惑をかけられない。


「悪いが、みんなーー」


「終わらないよ」


 小さな声で言ったのはミシェルだった。


「…え?」


「ボクらが近くの人に説明して、謝ってくる。君はスケルトンを追いなよ」


 確かに、奴を捕まえれば、返済の目処が付く。



「そ、そんな…良いのか?」



「良いに決まってるだろ。いつもいってたじゃないか」


 ミシェルは前髪をかき上げ、恥ずかしそうに言う。


「金の為、ってね。」


 リップスの、ただの欲望でしかなかったものは、とうとう、


 『決意』に変わっていた。


「うっ。…うっぷ。吐きそうです。」


「…大丈夫か?きついなら吐けよ?幸いな事に、アンタはゴミ箱を履いているんだから楽だろ?」


「冗談言ってないでさっさと引っ張り上げてください」


「はいはい」


 俺とフーミルは奴らからなんとか逃げ延びて、墓地へと続く通りで一旦止まっていた。俺がゴミ箱からフーミルを引きずりだすべく、両手を思いっきり引っ張る。

 お、重い…。踏ん張りが効かない。

 それでもなんとか彼女を引き摺り出したが。何故だろうか。右肩が妙に軽い。


「よいしょっと。出れまし…あ、取れちゃいました。腕が」


「ええ゛?」


 引っ張りすぎたせいで俺の右手が肘から取れている。骨だから大して気持ち悪いこともないが、ここまで乾いた反応をするフーミルもフーミルだ。


 フーミルから右手をもらうと俺は、なんかこう上手いこと付け直した。違和感もない。


「付け外しできるなんて、便利なんですね」


「反応が軽いな」


「そりゃあ、誰かさんのおかげでゴミ箱に入れられたりゴミを被ったりしましたから」


「悪かったって」


 フーミルは、俺からやらされたこと、特にゴミを被されたことをかなり根に持っているようだ。そして、代わりに被ってやんなかった俺も俺である。大人気ない。


 それに、ゴミ箱に隠れるという案もフーミルにとってはあまり良くなかったようだ。いつの日か俺はゴミ箱のメリットについて力説していたような気もするが、大切なことを一つ忘れていた。密閉した空間で緻密な魔力操作が出来ない者が砂魔法を使うのは非常に危険、というより不可能に近いのである。伝播して自らも朽ち果てる可能性があった。


 …だとしたら、なぜフーミルは俺を蹴り飛ばせたんだ?才能があるのだろうか。


 …ああ、それと。


「どうして追っ手の中にギルはいなくなったんだ?」


「飽きたからじゃないですか?元々そういう人ですよ」


「え?」


 気にしたって無駄無駄、といった雰囲気でフーミルが降参の形に腕を広げた。本当に神名持ちはこれだから…といった感じだ。


「貴族の中で一番魔力の扱いが上手い大魔導士で、王国の中で一番チャランポランな人ですよ。何考えてるかわからないし…ノーストン家の当主らしいですが、家族や他の貴族も、彼とは距離を置いているそうです。」


 ええ。かなり凄い人に俺たちは追われていたのか。チャランポランで良かった。しかし、彼がノーストン家の当主であれば、まあ、お疲れさんと言うほかない。


 俺らは墓地への道を早歩きしながら行く。走らないのはフーミルの平衡感覚に配慮してのことだ。

 それに、周りの景色が懐かしいいろにうつりかわっていくことが、墓地への距離の近さを物語っている。


「できれば、いてくれたほうがよかったんだけどな」


「そういう事」


 俺がふとつぶやくと、フーミルが首をかしげた。

 墓地がとうとう視界に入りはじめたころ、彼女は口を開いた。


「嫌な予感がしてたんですよ」



 七番通りにはありえない静寂の中、いっそう強く風が吹く。


 少しずつ辺りの建物が少なくなり、明るくなっていく。


 木がさんざめく。小鳥は歌う。そしてーー


 ーー墓地に咲き誇る金色の花が、無い目に映る。


 ……彼女は口を開いた。


「だから、嫌な予感がしてたんですよ」


 理由?


 見たら分かる。


 墓地に人影が見える。数は一つ。


 そして、電光のように去来する一つの違和感。


 俺たちが進むにつれ、ゆっくり、ゆっくり目に見えて大きくなる。


 そして、やっと、


「…悪かったって。…これ、何回目?」



 全容が見えた。



「これはこれは。運命的な、出会いですね。お嬢。そして、アース君」



 墓地に圧倒的な存在感を醸し出すギルは、招かれし来訪者の、苦渋をにじませた顔に笑みを返した。



 とても、凶悪な、笑みを。




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