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○第四十二話○真相❷


     ※ ※ ※


 どうやら、ゲーム内では、五感もろもろ、全て現実と遜色なく機能するようだった。NPC……プレイヤー以外の人々も、決まった受け答えをするわけではなく、生き生きとしていて、まるで自分たちと変わらなかった。恐ろしい技術だと思ったが、ここまでいくと、よくわからない思考回路で、そういうものだと、なぜか納得してしまうのだった。


 すぐに、プレイヤーがオレたち二人でないことは分かった。届いてくる新聞の中に、オレたちしか分かりえない外来語で、小さく隠された文言。


『六時に、噴水前へ』


 と。オレは成香を探している途中だったが、参加しない理屈はない。とりあえず噴水前に足を運んだ。


 集まったのは二十二人であった。全部でプレイヤーは二十四人いるらしい。一人は身分の関係上なかなか来られないのと、もう一人は冒険家だからだった。


 リーダー格らしき、聞くところによると、医者らしい。なるほど、道理で何処か高圧的なのか、と理解した。その男が言うには、


「君にはなかなか度胸がある。先の花屋は、『立場』に抵触することを恐れて、来ることさえ出来なかったのだ」


 という。彼らはクランみたいなもので、できる限り協力してクエストを全てクリアしようという連中らしい。オレは、それになし崩し的に入れられているらしいが、鍛冶屋という立場上、表立って動くことはできなかった。オレはゲームの中でワサツミと名乗り、鍛治の腕前が恐ろしく向上していた。


『七番通りの顔。凄腕の鍛冶屋』とかいうのが、オレの職業説明欄の記述だった。七番通りの顔ってなんだ?と思ったが、細かいことは気にしなかった。




     ※ ※ ※



『クエストをクリアしました』


 初めて二ヶ月で、簡単な七つのクエストをクリアした。受注方法は、脳内で『ゆうな』と交信すれば良い。クエストを受注すると、時間制限が表示される。制限時間内にクエストをクリア出来なければ、もうそのクエストは自分ではクリア出来ない。他人のを手伝うことでクリア扱いになる。クエストは一日一個までらしく、力の差をナシにするための措置だろう、と皆は言っていた。故に、クランが設立されているのだ。クラン内でもトップランカーは、二十七個。未だ脱出者は出ていないらしく、もともとこのゲームの猛者だったレベルカ=ヴァル=オルトゥルクも、三十七個でサラマンダーに殺されてしまった。なのであの医者野郎は後釜らしい。どうもレベルカがリーダーだった時の方が良かったようだ。医者の、名前はカンザス=ジェラシエル。元の名は神崎というのが、傲慢な態度で取り仕切るこのクランの集会には、ぽつぽつと人が消えていった。


 俺は正直、脱出なんてどうでも良かった。成香を探さなければ。あの二十四人の中にあの子はいない。見たら分かる。だとしたら二十五人目なのだ。彼女は。みんなが気づいていない、二十五人目。成香はこれが世界の『カタチ』だと思っている。自分が現実世界の人間であったことを知らないのだ。だから現実世界に帰ったところで成香は混乱するだけだ。


 王宮の先にある石碑を訪れると、クエスト状況が見れる。そして、プレイヤーのリストも閲覧できる。どうやら、このクランは、だいぶ新参のクランらしい。レベルカ=オルトゥルクによると、わたしがゲームに入ってきた時には、他の奴らは徒党を組んでゲームをクリアしていたらしく、あらかじめ一人からのスタートだった、という。たった一人からここまでこぎつけたので恐ろしいが、リストは、クリア済み、または亡くなってしまった者も表示するようだった。


 千人近い、人間が。


「これだけの人間がーー、このゲームを……」


 だから、通じないはずの外来語が、ある程度通じる。無いはずのレシピが。学ばれていないはずの知識が。

 外で失踪事件とかで有名になっていないのだろうか。いや、行方不明者は年間三万人をこえるというから、気づくわけないのかもしれない。それとも、『ゆうな』が。


 オレは、結局娘を見つけられなかった。


 三年経った。医者は来なくなった。俺はクエストをそれから九つクリアした。いろいろあった。国王が亡くなり、第一王子が行方不明になり、ギルとかいう変人が新聞社を乗っ取り、近衛団長がリオネスになった。


 医者の娘が放蕩しているらしく、大半は医者の育て方が悪いのだろうがーー、冒険者などという訳の分からない職に就こうとしているのだ、とあろうことか冒険家の前で言った医者は、ついにクランから追放され、脱出の目がなくなってしまった。その頃には、俺も本気で脱出しようとか、思わなくなってきていた。現実よりだいぶマシだ。こっちの方が。


 オレは、どこか遠くに行けたんだ、それだけなんだ。


 そんな時に、旦那に出会った。


 スケルトンとかいう魔物らしかったが、言葉を喋るのは初めてだった。そもそも、スケルトンなんていう魔物がいるかどうかも知らないが、限りなく人間に近い仕草で、旦那はバタースコッチを頬張っていた。振る舞いそのものは粗野なものの、深い知性がある。恐らく地頭はオレより良いだろう。


 オレは長い鍛治業で身も心も鍛冶屋になりつつあったのか、人間を刃に例えるクセができていた。ああ、こいつは名刀だなとか、ナマクラだなとか。


 ーーこいつは妖刀だった。ムラがあるが、こいつの根底は怨みと生への衝動から来ていた。付き合い始めてそれはすぐに分かった。業を背負っている人間は、背中がやけに大きく見えるのだ。旦那は、これから罪滅ぼしに、もしくはその報いに、そのために生きるのかもしれない。でも、どう生きるにしろ、強く、生きてほしい。


 その頃、新米の冒険者は、やはりオレに武器を作ってもらうと箔が付くので、こぞって鍛造依頼に来ていた。その中に、アルバトロスとかいう不遜な名前をしたギルドが訪れた。


 すると、野心が服を着て歩いてるみたいな奴がやってきた。名はリップスといったか。あの医者ほどではないが、気に入らない奴だ。


「ここはこうして、名前はアルバトロスってここにこう彫ってもらって」


 自分の仕事であるはずなのにあれこれ口に出されるのも気に食わなかった。ただ、彼は間違いなく必死だった。そこらの冒険者とは違って、夢のみ見ている目ではなかった。

 完成した防具を受け取りに来てもらった時に、訪れたのはリップスではなかった。



「……成香」


 

 彼女は怪訝そうな顔をした。もちろん、現実世界で過ごしたのはたった二ヶ月。あるはずがない、記憶など。しかし、言わずには、否、溢れずにはいられなかった。彼女こそが、娘。ワサツミの、三沢の、ずっと探していた娘。


 そして、医者の娘、レベルカ=ジェラシエルであった。



     ※ ※ ※



「正直、言いたかったさ……俺が、あの子の父親だって、代わりに名乗り出てあげたかった。でも……ああ、臆病なだけかもしれないな。あの子のことを思って、なんで今は……レベルカ……知ってるか」


「ええ、知っていますとも」すぐさまギルが応える。


「ワタクシの記憶が正しければですが、彼女は今救護…ギルドテントに」


「ああ、あの子が!?」俺は合点が言った。治癒術師とともに、魔力を与えてくれた勇ましい女性。ワサツミの娘だった?いや、違う。おっさんは独身だ。俺はおっさんの話を頭から信じてはいなかった。異世界もゲームも、あまりに荒唐無稽な話だが、つじつま自体は合うように思える。しかし、たくさんまだ聞きたいことがある。でも、そんな時間、残されていそうになかった。大事なことは、そのレベルカが、



「クロウスはな……本気でゲームをクリアしようとしていた。三年かけて、だ。あいつがおかしくなっちまうのに、十分な時間だった。あいつは、何かに気づいたんだ。ゲームの秘密に。そして、オレたちを脅して、毎日一人ずつ殺していった」


「つまり、そのレベルカがクロウスの最後の標的だって、そう言いたいんだな?おっさん」


「ああ、そうだ。しかし、レベルカは二人いる。石碑には上の名前しか表示されない。レベルカは死んだものだと、クロウスは思っている。まあ、千人以上のリストから、レベルカが二人いるなんて、わからないよな」


「理屈はいいんだよ、無駄に喋んな、死ぬっておっさん。ーーギル。ギルドテントには生憎動ける人間がいないーーどうする」


「自警団に手配致します」


「生きてるのか!?あいつら」あいつらのことをあの家で置き去りにしていた。恐らく彼らは逃げているだろうし、クロウスも追っかけてまで念入りに殺すとは考えにくい。


「死んではいません。負傷の状態が分からないので、任務を遂行できるかは分かりません。しかし、レベルカを匿わねば」


 ギルは指笛を吹く。バサバサ音を立てて、鳩がやってくる。


「自警団員は覚えさせてあります。あとは賭けるしかありますまい」


「待て、偽者も何匹か飛ばしておいたほうが得策だ。クロウスが連絡手段をみすみす見逃すとは、考えにくい」


「御意」

 

 そういうと、ギルはまた指笛を吹いた。今度は長く。間もなく、数十羽程の鳩がやってくる。俺はおっさんの方を向く。おっさんは浅い息をしている。


「おっさん、大丈夫か」


「なんとかな……成香を、宜しく頼んだぞ」


「ああ、任せろよ。俺のできる限りだけど、守るから」そう答えると、おっさんの顔が心なしか、綻んだような気がした。俺はまた前を向く。もう振り返らない。


「なあ、旦那」背中の後ろで声がした。


「なんだよ、あんまり喋ってる時間はない」


「旦那」


「なんだよ」


「……旦那ぁ」



「ーーなんだようるさいな」


「……だんな」


「……ああ、分かったって!分かった分かった」



 俺はため息をついた。格好がつかないが、振り返る。



「……分かったって、守ってやる。あんたの娘を。たとえ、死んでも、だ。約束する」



「……」



「……?」



「……おい?おっさん?」



     ※ ※ ※


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