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○第三十七話○サラvsリップス❷


「ーーブチ殺してやる」



 刹那で水の鞭のようなものをを生成し、高速回転させ、リップスがいた場所を噴水ごと真四角にくり抜いた。噴水は冗談みたいにくずおれて水ばかりが虚しく空々しく、二人にかかる。

 サラはその水を得て、まさに水を得た魚。笑みを深める。


 リップスはーー間一髪。飛びのいたリップスは、魔法の初動までの絶望的な速さの違いを見た。こちらも、魔力を魔法に転化していたのに、サラのが、水魔法使いのサラのが、圧倒的に早く攻撃に転じられた。




「……珍しいねェ。もしかして、熱魔法?」



 短く速く、一瞬の音を残して水滴は、リップスにふれてたちどころに蒸発するのを見て、サラは人間みたいに目を丸くした。奴が放った問いに答えれば、会話があちらに先導されてしまうため、それには答えず、俺は魔力を熱に染める。魔力は金。力を買って使用するもの。純粋な魔力量では分が悪い。昨日から俺はもう消耗している。ならば、短期決戦。


「熱で加速かぁ、いいね、目で追えないワ」


 瞬間、リップスの姿がかききえる。たまにサラの耳元を強い風が吹き抜ける。恐ろしい速さである。目で追えなければ、魔力で追う。一気にサラは魔力を解放。半径十メートルの魔力感知。侵入してきた自分のものでない魔力を、魂で感じる。見える、追える速度。リップスの軌跡。こいつが何をやろうとしているか。

 殴りかかって来た瞬間にサラが拳を合わせれば、こちらが大した拳速を出さずとも、あちらが勝手に拳に向かってくれる


(あれ?意外と楽勝♡)


 しかし。


 瞬間、うなじの鳥肌が立つ。


「〜ッ!」


 その時、後頭部に強い衝撃が走る。これは……? 正体を探る前にすぐさま受け身を取って転がる。


 殴られた……?殴られたっ!


(な……加速した?いきなり追えなくなった。……あそこから!?あの速さより増して!?防御してなけりゃあ間違いなく……!)


 魔力で追えなかった、今のは!緩急を、あの速さで緩急をつけていたのだ、あの男は。サラに魔力感知を使わせて、おおよその速さを把握させたうえで、それを超える速さでぶん殴って来たわけだ。恐らく魔力感知に引っかかってからこちらに、10メートルを縮めるのはだった0.1秒程度。それで反応はさらには不可能。そしてかなりの痛打。すると魔力感知では完封できない。しかし総魔力量は明らかにこちらが上。しかし、リップスは魔力を湯水のように使っている。瞬間的な魔力量は奴が上。ただ、長期戦に持ち込めば必ずサラが勝てる勝負。しかしサラはそれを勝負とは認めない。面白くないからだ。

 サラは興奮する。


「ンー、戦っちゃる」


 サラはリップスを敵として認め、水魔法を行使する。すると、最適化された魔力が、すぐさま、数秒とかからず水に全て変換。その速度にリップスは驚愕する。


(洗練されすぎだろ……ダメだ。場数は明らかにサラのが踏んでいる)


 体を覆うように、何層にも水の膜を張られる。水は蒸発もしくは凍らない限り体積が変わらぬ。さらに重い。故に水の抵抗は空気のそれよりずっと勝る。だからこそ水魔法は汎用性が非常に高い。攻守揃った魔法。


 しかし、この技術の差の前に奴は、リップスは吠える。



「馬鹿が……調子こいてんじゃねえぞっ!」



 と同時に、ここまで伝わってくるほどの、熱。



「これはーーハッ」



 不味いこいつは本当の意味で相性が悪いかもしれないーー。そのサラの懸念と同時に、


 リップスは雄叫びのまま、水膜をぶち破って拳を肝臓の下らへんに叩っこむ。


 拳が手首まで埋まるほどの衝撃。もんどりうつなどという次元でなく、ほぼ地面と並行に吹き飛び、膵液を撒いて、しかしサラ。しかしそこはサラ。自身に水魔法の膜を突き破らせ、それを利用。段々減速し、ほぼ立っているままとなったが、衝撃だけは殺せず、嘔吐。そして、噴水だったものにもたれかかるサラ。ほとんど満身創痍である。しかし、その目は未だ死なず。



(これは長期戦に持ち込むという問題じゃない……恐ろしいね。水が一瞬で蒸発するほどの、あれだけの熱量。一番身を焦がしてるのは奴の方。しかし、もう一発入れられれば問答無用でオレはオチる。大事なのは、いかに奴を殺すか、避けねば、死んじまうのはおれの方ってわけかァ)


 サラに湧いたのは欲望であった。勝つのはいつでも出来る。しかし、どうしても、渇望してしまう。一人の武人として、一匹の殺人鬼として、サラとして。


 どうしても……


 奴の力を完封したい。


 自信満々で飛び込んできたところに、一発いいのを入れて、絶望の面も、希望の面も全て、もう二度と戻らなくなるほど……。


 ……壊したい……(╹ω╹ )」



「ーーどうしてだ」


「?」


 またしても、期せず声に出していたサラに、反応したのはリップスだった。先程までの怒りはそこに見られず、尋問、詰問というより、確認のように思える。


「あんたは、何がしたいんだ。サラ。あんたは何がしたかった」


 リップスの穴という穴から、湯気が噴き出る。もうリップスは、火力を三度も上げていた。こもった熱をどうにかしないと、リップスは焼け焦げる。それを悟られないための、この会話。相手にリップスの速さの対策を立てるだけの時間、考える時間を与えないが為の、会話。


(次で決める)

 

 しかし、そう考えているのはサラも同じ。


「何がしたい……ねェ」そうもったいぶった感じで腹をさすりながら、手を見つめる……しかし魔力感知は解かない。やはりリップスも初歩的な罠。乗ってこない。


「こういう時だってあるでしょォ。なんか、人を殺したい気分。オレならなおさら。とにかく……」


 リップスにとって、この作戦は刹那に立てたにしては完璧に、最善策に近いものであった。しかし。だ。見誤っていることがあったとしたら一つ……。


「そうだなー。ンー。人をー、人をねー、『殺してみたかった』」


「ーー今、なんて?」


 サラが、突き抜けたクソ野郎だったことだ。


 リップスは再度火力が上がる。ほとんど自然だった。彼単体で起こされた上昇気流。怒髪はまさに天を突き、目は爛々として、皮膚は蒸気をあげ赤くなる。


「殺して『みたかった』ってお前……冗談だろ?なあ?……オイ……冗談じゃねえよ……」


 押し殺した声に、しかし確かな怒り。それはまるで烈火に晒される火山の岩漿。吹き出て。噴き出て。


「それはお前。殺したかったじゃねえ……。殺すなら誰でもよかったってことかよ」


「ああ」


「殺しても、んな軽ィ気持ちで、責任も取る気がなかったってことかよ……!」


「ああ」


「んだお前。どうしてだよ。なんなんだお前は。ふざけるな」


 地面が、石畳が砕ける。ジャッ、と嘘みたいな音を立てて、そこらじゅうの石畳が溶け果て、岩漿が覗く。ひゅうとなる風より速く、リップスは駆ける。


「速いけどよお、リップスゥ!当たんなかったら意味ねんだよなぁ〜!」


 そう吠えると、サラは魔力感知の形を変えた。今魔力に満ち満ちて、感度が高いリップスには、奴の禍々しい魔力がまるでヤマアラシのように『魔力のトゲ』を作る。


(これは、ギルさんの魔力感知……!)


 何という器用さ。基本的に魔力感知は球状。ギルのように一方向を伸ばせる特性。それを奴は模倣した……!あの、球状を限りなく小さくする代わりに、延ばした『魔力のトゲ』は、20から30メートルはある。これでは詰めるのに〇.二秒はかかる。このままでは、リップスの攻撃は届くまでに猶予ができて、サラに反撃される。


(とでも思ってんだろうよ……!)


 しかし、わざわざトゲに向かっていく奴がいるか。制御が効かないとでも思っているのだろう。当たらないよう体をねじ込めばすむ話。トゲとトゲの隙間から、ブチ込んで終わりだ。



「うらぁっ!!」



 そう意気込んで、今までの最大火力。火球そのものになって、リップスは突っ込む。間違いなく決勝の一撃。




「……ザンネン。戦いは、勝ったと確信した時点で、負けなのヨ……」



 しかしそれも、当たればの話。



「なに」


 

 この怖気。リップスに這い寄った怖気。これは。


 こいつの魔力感知に″引っかかった″!?馬鹿な、しっかり避けたはず。


(生え変わっている)


 魔力のトゲが、形を変えている……!?まさか、俺を煽って、攻撃の機会を誘導し、それに合わせてトゲを避けて入ってくるであろう俺を、『読んで、すぐさま形を変えた』……!


(不味い。非常に不味いこのままでは対処されてしまう。


 これほどこいつが魔力調整が上手いとは!どうするどうするもう引けないそこまでの細かい調節はできないうごきの。


 ならばどうする?



 ならば!


 ならば殴るしかないこいつをおばさんの分まで。ぜってえにこいつを倒して……?……あれ)




 俺、俺どうしてこんなに頭回ってんだ?


 ……ああ、そうか。




 これは。




 走馬灯かーー。



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