○第三十三話○決戦準備❷
「……あの、その、お疲れのところたいへん申し訳ないのですが、私、フーミルといいまして、リオネス様の給仕者をさせていただいてました。その、気づいたら寝かされていて、何が起こったのかわからなくて、どうか、知っていらっしゃる方、居りませんか……?」
おずおずといった感じにフーミルが言った。彼女は目が覚めると寝かされていて、隣には大汗をかいた人が大勢寝かされていた。そこで慌てたフーミルは取り敢えず拭くものを濡らして汗もができるのを防ごうとしていたのだが。
ミシェルは、どっちが言う?とレベルカに目配せした。あんたが言いなさいよ、とレベルカは鷹揚にアゴをしゃくった。やれやれ、と思いながら、ミシェルは説明しだした。
「今日の未明くらいに、スケルトンが君をここに連れてきたんだ。君は何故かひどい怪我をしていて、ぼくたちが生命魔法で治療したけど、情けなくも僕らは魔力切れで伸びちゃってね。こうやって、面目丸つぶれな事態になってるわけさ」
「そんな、そんなことありません!皆さん、ご立派です!え、えと、その、治療いただき、ありがとうございましたっ」
「う、うん、どうも」
と言ってフーミルは深く頭を下げるが、未だ混乱の色が強い。まだ思い出していないのだろう。そりゃあ、思い出して欲しいかというと、きっと思い出してほしくはないことだが(だっていきなり腹を切り裂かれたなんて経験、精神がやられてもおかしくない)、フーミルには少し事情があった。
……彼女は、死にたがっていた。
ここをどうにかしないと、この話は解決しない。ミシェルはただの治癒術師で、なにか人の心に関して深く精通しているわけでも、やらなければならない義務があるわけでもなくて、突き詰めてしまえば、これはただの欲を出した、身勝手だと言える事で、本当の意味で彼女を助けるには、どうしたらいいか。自分で考えたそれが結果だった。
しかし、ただの身勝手でフーミルを傷つかせるわけにはいかなかった。これはなによりも繊細な問題だ。どうにかするなんてつまるところ理想論で、話を聞いてやれるかどうか、聞き出せるかどうかも分からないのだ。でも、そうしたら。
いやな緊張が降りる。舐られるような這うような緊張だ。フーミルは訳が分からなくて、混乱の色が強くなる。
停滞してしまうのだ。どんな言葉をかけてやればいいか、かけられるのか、そして、かけてはいけないのか。分からない。畜生、学校じゃこういう一番大切なことは教えてくれない。家族は教えてくれるかもしれないが、ミシェルには生憎そういったものがない。ミシェルが己の無学さに歯噛みしていると、
「フーミル。貴方は、クロウスにお腹を斬られて、ここへ運ばれてきたの。スケルトンさんが、必死にね」
「ーーえ」
フーミルが呆然と呟くのを聞いて、ミシェルも全く同感だった。レベルカは一体何を言い出すのか。確かに堪え性のない彼女だが、人の気持ちを思いやることができたはずだ。いま、それをーー。
「もちろん治療したわ。生命魔法を使ってね。でも、本当のことをいうと、できなかった。そもそも発動しなかったのよ。貴方は生きたがってはいなかった。心から」
「……」
フーミルの顔から感情がなくなっていく。あの時の光景が早回しされていく。斬られたという衝撃。自分が死んでしまうという恐怖。いや、それよりも。
「……どうして、殺してくれなかったんですか」
か細い、か細い彼女の弱さが、ここにはあった。理由はわからない。でも、邪推はできる。彼女にとって大切な人が死んだ。それは恐らくリオネスだ。幼い彼女の世界は広くなかった。リオネスと、彼女と、他、数人。世界は死んでしまった。だから、自分も、死んでしまいたい。ごく自然な流れだった。彼女は、きっと強い子だ。あのスケルトンからあれだけ大切にされていて、大切にされるべき子だ。だから、だからこそ、君の弱さは理解したい。そうミシェルは言いたかった。きっと、理解したい。受け入れたいのは本当なんだ。
「あ、す、すみません、変なこと言って。申し訳ありません。忘れてください」
違うんだ。申し訳ないのはこっちの方だ。弱さをひた隠すなんて、それも誰かの為に。そんな悲壮なこと、しないでくれ。受け入れたかった。弱さを、でも、僕たちも弱かった。何もかもは包み込めなかった。僕たちはその弱さを救えないで、君を救った。
「ーー何があったのかは、知らないわ。知ってしまったらきっと、貴方に同情してしまうから」
レベルカは、重々しく口を開くと。フーミルをすうっと見つめた。フーミルの目を見ているようでその実、ずっと奥の方を見つめている目だった。フーミルは首を振って、何かを振り切るようにして答えた。
「そんな、私は死にたいなんて」
「思ってないの?でも、腹を切られて死ぬなんて、痛いだけだからやめたほうがいいわよ」
「いやっ、そんな、私は、死にたいなんて……。私は」
「じゃあ、いなくなりたいの?」
「……」
「楽に、静かに、誰にも気づかれずに、この世から……、いなくなってしまいたいの?」
「……」
フーミルは、頷いた。
「どうして、と言ったわね。そうね、たくさんあるわ。それぞれ違う。例えば、横に転がってるミシェルとかいうバカは、とにかく貴方を助けたかったそうよ。貴方が思っているほど、貴方の想いを覆せるほど、深い理由はないみたい。やっぱりポンコツね」
「……」
「私には深い理由があるわよ。こういうと怒るかもしれないけど……正直、私と貴方は、似ていたわ。わたしはね、死のうと思った事が沢山ある。貴方なほど本気で思ったことは、ないかもしれない。でもそれは事実よ」
「あなたは」
「レベルカ。変な名前でしょ?英雄みたいに生きてほしいってーーそう。でも、ただのレベルカ。親の期待にも応えられなかったわ。一般的にいって、出来が悪かったのよ。私は。持たざる者だったの。だからおかしな目で見られるのも笑われるのも、辛かった。私はレベルカであってレベルカではないの。私はそうなれなかった。私は絶望して、死のうと思った。だから、知ってる。簡単に死ぬ方法も、楽に死ぬ方法も。でも、おしえられないわ。
生きていかねばならないもの。どれだけ辛くても、生きて行かなければならないの。だって、生きていれば、生きていて良かった、なんて事があるかもしれない……だなんて無責任なことは言えないわ。
でも、貴方には生きてほしいわ。貴方は可愛いもの」
「え?」「なんだって?」ミシェルとフーミルの声が重なる。
「わかるのよ。誰かから、愛情を与えられて、そして与えて生きている人間は。見たら分かってしまうの。分からざるを得ないのよ。だって、私と貴方の笑顔は違う。私は笑顔になるだけだけど、貴方の笑顔は、きっと誰かを笑顔にさせる。貴方には笑顔になってほしいわ。きっと、なにより素敵だと思うから」
「何だよ、とどのつまり、君だって単純な理由じゃないか。ただ、笑顔になってほしいから、なんて」
「うっさいわねえ、私はそうなった過程まできちんと話してやったわ。でもあんたは『助けたかった』。だった六文字。私の勝ちよ」
「いや、どういうことだよ、いつから勝負が始まったってんだよ」
「うるっさいわねえくどくどくどくど、男のくせに。あんたバカァ?」
「僕はバカでいいよ、じゃあ君だって馬鹿だ」
「はあ?んなわけ」
くすくすくす、と挟まれた鈴の音のような笑い声に、一旦口喧嘩は中断された。目だけ動かすと、口を押さえたフーミルが座っている。可愛い。
「すみません、つい。でも、仲良いんですね」
「「良くない」」
※ ※ ※
待ちくたびれたと言った様子で、おっさんは布を防具立てにかかっていた布を取り去った。そこには鈍色に光る胴体があった。なんだか……ごつごつした鎖帷子だ。
「じゃじゃーん!!こいつがお前におくる最強の胴体!その名も『玉砕二号』!」
「だせえ!それに不吉だ!考え直せ!」
「はあ?割と名前考えるのに時間かけたぜ?二時間くらいは」
「はあ!?そんな時間があったら早く渡せよっ」
「何言ってんだ名前があってこその武器だろ」そう言って憚らないおっさんの顔は、さっき泥水かぶってきたみたいに汚れている。今、俺はおっさんにある程度距離をとりながら受け答えをしている。
「じゃあ、レベルカの片手剣の名前は?」
「『粉砕一号』。あとで『ぎゃらてぃく、ぜのぶれえど』に改名されたけどな」
「……聞いた俺が馬鹿だったよ」
肩を落として俺はそのごっつい鎖帷子に手を出した。結構重い。いや、腕がもげそうだ。というか、よく見ると胴体だけではない。何やらごちゃごちゃ管のようなものが肩部分から延びている。
「一体、何をつけたんだ、おっさん」
「まあまず、火炎放射器は外せないよな」
「……はあ?」
「いつでも使えるように装置は左手につけておいたぞ。それよりも特筆すべきはその耐久性にある。極鉱石に近しい耐久性を持つ繊維を鉄に通してある。壊れることはねえと断定できるぜ。そして防水加工!火炎放射器は水中でも使えるっ」
「……意味ねーだろ」
「ロマンはあるだろ、ロマンは……それはいいとして、貯水槽も備えてある。恐ろしい勢いで噴射できるぜ!そこの装置、そうそう、そこの棒を前に倒すと」
ピューッ、と花に水をやるのにちょうど良さそうな水圧の水が右の義手の管から飛び出す。微妙な沈黙が降りる。
「……それはいいとして、しっかりテマエの本体であるイカした頭も守れるぜ!胸の装置を押してみろっ」
ガションッ、と勢いよく胸の部分からまな板みたいな、薄い板が飛び出してくる。しかし「あ、痛ててて」と、勢い良すぎて、顎に当たって擦れて削れてしまう。
「そいつで頭も守れるぜ」
「……おいこれ遮光板じゃねえか!?なんも見えないんだが!?」
何か透明な板でも出てくるかと思えばただの仕切りであった。これではただ邪魔なだけである。
「……それはいいとして」
「もういい加減にしろ!もういいよ漫才は」
「胸の扉の中に極鉱石が入っている」
「……なんだって?」
本当であった。黒びかりした宝石めいたものが、中に入っていた。しかもこれは。おっさんは続ける。
「パイプだ。パイプの極鉱石をそこに入れた。パイプは魔導具そのものだ。何故ならパイプから魔力は出ているからな。パイプから魔力は降りて、他人の色に染められた魔力は上に上り、浄化され、下にいくを繰り返す。パイプの極鉱石というのは、非常に強力な魔導具だ」
おっさんの言うことには頷ける。普通なら魔力操作がままならない人間はパイプの中にいくとやがて体調を崩す。そのことをパイプに侵されるという。フーミルとかクロウスはそれが無意識にできているので平気だったのだ(フーミルは制御は苦手でだだ漏れだったが)。俺はそもそも生命魔法で体を維持しているため、魔力が豊潤なパイプ内は生活に最適だといえる。
「やっと使えそうなもんがでてきたな」
「使えそうなんてもんじゃない。2センチや3センチのちゃちい奴じゃない。12センチだぜ。他国に持ち出せば、これはもはや国宝さ。一億はくだらないだろうね、魔力中毒にならなかったらの話だが、極大魔法さえ何発も打てるくらいの魔力を、そいつは秘めてるぜ」
「それは……なかなかやるな」
嬉しい誤算であった。これほど使えそうなものを持ってきてくれるとは、なかなか強力な手札が増えた。これからクロウスへの対抗策を考えることにしよう。
「さて、作戦を決めるか」
「おい、俺に話していいのか?」と慌てておっさんが尋ねた。未だにおっさんは俺からの信頼を勝ち取れていると思ってはいないようだった。
「バーカ。あんたやってることわかってるのか?あんたはほとんど人生を賭けてこの胴体を作ったんだろ?」
「え?……ああ、そうだが」
「それならいい。もしあんたのいうことが嘘だったら、あんたの人生は終わるってことだからな」
固唾を飲む音が聞こえる。おもったより、凄みがあるように聞こえてしまったらしい。見た目はこんななのに。
「いや……ハハ、冗談だよ。それに、あんたに俺が本当を言うなんて証拠もないしな」
「……そうだな」
「あんたに聞くが、もうあんたは『サラマンダーの鱗』で印をつけられているのか?」
「……ああ。その通りだ。毎日サラが更新しにくる。だからオレは自警団の時以外家に篭っている。本当の標的と間違えるといけないからな。クロウスはだから、一つの通りを囲ってしまえるだけの魔力感知を持っているってことだ」
「冗談じゃない」俺は額に手を当てる。そう、これは現実離れした話だったが、ギルも数キロまで魔力感知が使えるので、十数キロくらい、クロウスにとってはわけないのかもしれない。
「まずはそれがある限り、こっちの位置が筒抜けってことをどうにかしないと……」
俺は立ち上がった。と同時に崩れ落ちた。お、重すぎる。この鎖帷子。
「おい、おっさんこれ重すぎるぞ!このままじゃ歩くのもままならないんだが!?」
「分かった。じゃあ貯水槽の水と油を抜こう。中身の大部分がそれらだからな」
いや、でもそうしたら火炎放射と水圧の意味がないのでは?そう思った俺は、抜かれたあとの鎖帷子の劇的な軽さに、その不満が吹っ飛んだ。
「旦那。別に魔導具がその義手には埋め込まれてるから、出来ないわけじゃないんだぜ?魔法の行使は」
「いやいや……俺は生命魔法じゃないと魔力を借りることが出来ないから……使えないな」
「ええ……大分使い勝手がわるくねえか?旦那、あんたの魔力は?」
「すずめの涙ほどだが、水魔法と砂魔法の複合魔法。名は究極魔法。それが使える」
「おお、強そうじゃねえか」
「いや、ただの目潰しと虚仮威しだ」
「……」
「悪かったな。生命魔法の容量がデカすぎて魔法はこれくらいしか使えないのさ」
「……なんだよ。せっかく良質なサラマンダーの鱗とセイレーンの涙の結晶を用意したってんのに」
「セイレーンの涙?」言い覚えのある単語に俺の頭が記憶をさらう。一日前の記憶でもこうやって思い出す必要があるから、頭蓋骨になってからは本当、残念だ。しかし、セイレーンの涙。それはーー。
「おいあんた、それ、魔力吸う効果もあるだろ。それ使えば、印だってーー」
「いや、無理だった。ただの涙にそんな複雑なことできないらしい」
「クロウスもそれを知っていて使っているってことか?」
「あー、恐らくな」
まあ、そう言われてみればそうだ。涙というあまり遺体などとは関係のない部分だから、水圧が弱いのも窺える。ただ、そうなると……あの時、クロウスと対峙した時。
「完敗だったのか……」
「え?何がよ」
「いや、悪い、こっちの話だ」
苦し紛れの抗弁をした時、あの時俺はすでに敗北していたのだ。ああ、そうだ。だから、あのサラマンダーの印が本当にフーミルの物だと知っていたから、サラはわざわざ殺しにやってきたのか。畜生。俺の馬鹿野郎。俺がフーミルを……いや、次だ。合理的にいけ、ハウエル。次は負けない。
「じゃあ、そうだな。どうやって印を外すか……」
「旦那。あんた生命魔法使えるんだろ?」
「え?ああ、使えるっつーか、人の魔力を借りればな……あっ」
そうか。その手があったか。
「そう。旦那が生命魔法を使って、サラマンダーの印を俺の魔力ごと持っていくのさ」
前回の敗北の原因は、俺が一人だったから。他人の力を借りて、あいつに挑もう。次は、勝つ。
俺たちは鍛冶屋の外に出た。ヒル下がり、人の気配はもちろん無く、石畳の道に、昨日と何も変わらない。ここが決戦の地になると思うと、少し拍子抜けだ。ただ、決戦の地にするまでの細工を今から、俺たちはしなければならない。
「旦那、あんた生命魔法が使えるっつっても、相手がいなきゃどうしようもないんじゃないか?」
「その通りだな。ただ、別にその相手が人間じゃ無くたっていいさ」
どういうことだと聞く前に、バサバサと重い音を立てて鳩がやってきた。号外を持ってきた時の鳩だ。こいつをハトヤマ=ジロウと呼ぼう。ハトヤマはその脚に小さな植木鉢らしきものを括り付けていて、だいぶ飛ぶのが窮屈そうだった。
「どうも。配達お疲れ様」
「なんだこりゃ?」
「大樹の苗木だよ。レベルカが名付けたやつで、メタセコイヤとかなんとか」
俺はその苗木を植木鉢から取り出すと、扉の麓に置いた。
「あ、そうそう、お前漆喰とか持ってるか?」
「え?いや、そういうのは大工屋が持ってるだろ。別に、俺の家には穴ないぜ?」
「穴とかじゃなくて、脆かったら困るんだよ。いまからこの家を要塞化するからな」
「……なんだって?」
そのまま俺はおっさんのけむくじゃらの手をむんずと掴んで生命魔法を行使するのだった。ホコリが光を反射するみたいな、ほのかな煌めきが舞って辺りがさらに静かになる。
「おい、俺の魔力は」
「これだと四分の三くらいだな」
「え?」
あの時と同じ、苗木は命動し、爆弾のように蔓じみた枝が爆弾のように束になって飛び出て、小枝から腕ぐらいの太さ、太ももくらいの太さにぐんぐん成長していく。玄関はもちろん、バキバキ言わせながらおっさんのの窓が潰されていく。屋根瓦が暴力的な新緑に剥がされていく。
「うおおお!!?オレの家があああっ」
おっさんの悲痛な叫びが、閑静な街にこだまする。どうしてだろう。心地いい。
まあそれはいいとして、要塞化されると銘打った石造りの家は、ひとまわりが家と同じくらいある大樹にほぼ完全に飲み込まれた。こんな騒動があってもやはり誰も打ち付けられた戸をこじ開けて様子をみにくるどころか、ほとんどが窓から様子も覗きに来ないのだから、恐ろしい。
さっき魔力を吸い取られたおっさんは、息も絶え絶えに確認する。
「お、おい、だんな?煙突は残してくれているよな、流石に?それがねえと、俺もう仕事できねえぜ?」
「大丈夫信じろ。この木を。大丈夫だ。それにあんた今日が峠なんだぜわかってるのか?死ぬか死なないかの瀬戸際なんだ。煙突がなんだってんだ」
「いや、そもそもこんなに目立つようにしてどうするってんだよ!?クロウスはここめがけて一直線だぜ!?」
「だからこそだよ。おっさんはいまサラマンダーの魔力が抜けてこのメタセコイヤに還元された。もちろんクロウスは異変を感じて協力者に情報収集を要請する。どうせ方法もなにもかもバレる。だったら派手にやって、宣戦布告をするまでだ」
「ええ、じゃあせっかく印を外した意味が……ああ!鍛冶屋を目立たせておいて、俺はまた違うところに隠れるってわけだな?」
「いや、『だからこそ』あんたは鍛冶屋に隠れる」
そんなこと言われても、とぶつくさ言うおっさんが、かろうじて無事な煙突を見て、歓声を上げた。それを見て、俺はあることに気づく。
「あ、悪いおっさん。作戦上、密閉状態にしないといけないから、結局煙突は塞がねえといけねえ。漆喰買ってこよう」
「そんなああ〜」
冷たい風が吹き抜けていった。




