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○第二十四話○自白


「ーー素晴らしい。素晴らしいですよ、兄様」


 そう言って、クロウスは拍手していた。その姿に、俺は怖気を感じる。


「状況が……わかってるのか、あんた。それとも認めるのか?犯行を」


 待て待て。俺の論理は自分で言うのもなんだが、穴だらけだ。そもそもが全て推測、動機も証拠もーー。


「ええ、そうですね……」クロウスは今度はわざとらしく考え込んだ。頬に、手を当てて、だ。くるくると、つま先を回していかにも『上機嫌』そうにしている。ーー異常だ。


「ええ!そうですねぇ、認めましょう、″じゃあ″」


「ーーっ!?」


 ーー″じゃあ″???


 こいつ。なにをしたい。なにがいいたい。もうこれ以上、こいつといっしょにいたくない。何をしでかすかもう分からない。常識で語れない類の人間だ、これは。


「あんた、いいのか!?ーーいいのかって、それはそれでおかしいんだが、あんた、あんたはーー」


「もちろんですよ、だって、今の推理は非常に素晴らしい。『ほぼ』的を射ている。95点です、素晴らしい」


「はあ?」


 俺が聞きたかったのは、どうして、もうこの段階で認めてしまったのか。俺が感じているのは、そのクロウスの愚行に対する、怒りではなく、拍子抜けでもなく、むしろ警戒は強まっていて、ただならぬーー恐怖である。


「ネタバラシするには、及第点だと思ったんです。合格なら、それに見合った報酬が必要です」


「ーーっっ何ふざけてんだお前っ!!」


「貴方は私にとってクッパです」


 ……は、という息が、思わず漏れた。こいつには、感情で応対してはいけないという感覚が、これはきっと本能だろう……、していた。混乱した感情はそのまま、頭だけが冷えて冴えていく。事実だ。事実だけを見るんだ。


「マリオは、そりゃあピーチ姫を救いたくてやるわけですが」


「……」


「亀を踏みつける爽快感からやるのも一因だと思います。しかし、私は常時スター状態」


「……会話する気あんのか?」


「まあ、聞いてください。残機が増えるばかりの今に、嫌気がさしていたんです」


「……まるで、意味がわからない、つまりお前は何がーー」


「フーミルをついでで殺すのも、そこにコインがあったから、そんな気軽さです」


「……っ、お前はーー」


「でも、貴方は違う。及第点だ。貴方は強敵……!僕にとって、クッパだ」


 ふざけるのも大概にしてくれ。

 

「ーーまるで意味がわからない。動機も、それだけじゃない。その話が、本当に本当ならーー。お前が存在している、その意味がわからない……!」


「貴方が存在している意味は、わかりますよ。きっと僕に、立ち向かうためだ」


 俺はこいつと会話するのはやめた。できるのは、交渉のみだ。


「悪い事は言わない、やめろ。今なら俺はもう何もしない。言わない」


「あれ?″貴方に何が出来ます″?」


 クロウスは心底意外そうな顔をして、両手を上げて降参の形を採った。そのまま、後ろに歩き始める。不味い。この先はもう排水口だ。俺は火鼠に、背中に乗せてもらって、じりじりと追う。


「そもそも、貴方は死んだことになっております。後先考えられてます?僕をどうやって捕まえるつもりです?証拠云々の前に、説得力を持たせないと。だから五点減点してるんですよ」


「うるせえな。オマエが罪を自白すれば済む話だろ」


「そうはいきませんよ。そんな幕引き、ふさわしくないでしょう」


「徹底抗戦ってことか?」


「何をいうんですか。私がその気になれば、貴方はとっくにーー」


「やってみろよ。ーーできないんだろ」


 クロウスがやれやれといった感じで頭をかいた。


「オマエの話が本当ならオマエは、俺から取水口の話を聞いて、さっさと俺を殺せば済むっていうんだ。用済みだからな。しかし、あんたはそうしない。まだあんたには秘密がある。できないんだろ」


 もちろん、俺に戦闘力はない。能力もない。クロウスの行動を、形だけでも妨害することはできても、それ以上のことはできない。本気でクロウスが俺を殺そうとすれば、こんな頭蓋骨、赤子の手を捻るなんてものじゃないはずだ。


 今は、情報戦なのだ。あいつが俺に何もしないのも、俺と同じく、相手が未知数だから。どちらも、違う意味で。だから、クロウスは知らない情報があれば、できる限り聞こうとするだろう。ーー仕方ない。奥の手だ。


 ーー早く来てくれ。


「抗う力どころか、俺はもう死んでる」


「なんですって?」


 クロウスが眉を上げて、素っ頓狂な声を出した。ようやく、彼を足止めすることが出来そうだ。


「ああ、いや、まあ、貴方のような不思議な生物、ほかに見たことがありませんからね。実在すら、会う前までは疑っていましたよ。スケルトンなんて、神話上の生物ですからね。生きているうちにお目にかかることはないとおもっていましたが、もう死んでる、はないでしょう。貴方がどうやって動いているか、喋っているか考えているか、非常に気になるところですがね」


「俺は、十三の時餓死した。」


「ーーほう」


「さっき俺は、あんたに魔導具について、話しただろ。動物が死ぬときに放った魔力が、呪物となるのが魔導具の由来だ。で、話は俺の死んでる死んでないの話に戻るが、俺は死ぬ間際に、死にたくないと願った。


 そりゃあ、死ぬほどな。そのあと、死んだ。意識を失ったわけじゃないんだ。死んで、動かないからだを俯瞰していた。まるで幽体離脱みたいにな。しかし、それも時間が経つにつれて体と一体化し始めた、精神がな。


 そして、俺が白骨化したぐらいだった。ーー俺は、右手の先がほんの少し動くようになっていた。そのときに自分は、自分のからだで生命魔法を使っていたことに気づいたんだ。」 


「なんですって?興味深いですね、非常に。人は自分では生命魔法を使えないはずです。他人を癒すことしか、出来ないはずです」


「違う。真相は、違うんだ。生命魔法は、回復されるその本人が、本音から回復したい、生きたいと思わないと思わないと発動しない。そのとき、回復させる側は魔力を根こそぎ持っていかれるが、それは魔法を行使したからじゃない。魔力を譲渡したんだ。


 生命魔法を使っているのはその回復する本人だ。


 生命魔法とは、『生きる意志』がそのまま具現化することだ。


 他人が必要なのは、ただ魔力が足りないだけだ」


「現に、貴方は回復した、死すらも超えて」


「そうだ」


「すると、貴方は生命魔法を自在に使えるということですか?他人にも?」


「そうだ。魔力がありゃな」


 軋むように、クロウスは笑うと、お話は終わりだ、とばかりに俺に背を向けた。もう、聞きたいことは聞けた、ということだろうか。


「興味深い話をどうもありがとう。時間稼ぎの片棒を担ぐこの辺でやめさせていただきますよ。どうやら何も起きないようなのでね」


 どうやら、目的は看破されていたらしい。クロウスは問答に飽きてしまったから、そろそろ本気で身を隠す事にするようだ。


 前から、ヒョウヒョウと風を切る音がする。がもう、本当に近い。


 頼む。早く来てくれ……ッ。


「ああ、そうそう。サラマンダーの鱗で魔力を入れたフーミルは、大丈夫ですか?」


 またクロウスは振り返って、なんのことなしに聞いた。フーミルのことをわざわざ懇切丁寧に教えてくれるということは、まだ何かあるのだろうか。


「オマエに心配される筋合いはない。あのくらいで魔力中毒にはならないことくらい、オマエも知っているはずだ」


「ええ、健康な状態ならね」クロウスは三日月型の笑みを作った。決して、歯は見えない。そんな不気味でいやらしい笑みだ。


「フーミルは大変らしいですね。噂によれば、恋人が死んで気を病んでいるとか」


「……、知っていたのか」


「魔力の乱れは、生理のようなものですからね。時期が重なってしまうと、魔力中毒になどならなくともーー、いえ、ここらで止めておきましょう」


「調子に乗るな。フーミルは強い子だ」


「そうですね。ああいう子の心を折るのは骨が折れるがーー」彼は三日月型の笑みをを広げて、はに噛んでみせた。


「心が躍るーー」


「ーー糞外道が」


 と、俺が悪態をついた頃だった。急にクロウスが振り返り、警戒をその身に纏った。空気が重い。恐らく魔力展開をしているのだろう。


「ーーおおっと、どうやらお客さんのようだ。私は存じ上げませんが、貴方へでしょうか?」


「ああ、そうだ」


 ーーきた。


 バサバサと音を立てて排水口の馬鹿でかい穴から飛んできたのは、あの時の伝書鳩であった。

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