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○第二十三話○推測



 順を追って話そう。


 まずは、そもそもの話。なんでお前を殺人鬼だと思うか。


 お前しか出来ないからだ。フーミルじゃないが、俺はリオネスを知ってる。あんたしか、無理だ。殺せないんだ。


 クロウス。あんたが墓地の前に落ちてきたっていうか、降臨してきた時の話。あんた、あの時魔法を使って落ちてきたよな?あんた、その時、パイプの中から落ちてきたんじゃないのか?

 あんた、「あらかじめパイプの中にいた」んじゃないのか?パイプには沢山のヒビが入っている。人間が出入りできるくらいの大きさのものも少なくない。あんな高いところから落ちたら誰だってひとたまりもないが、雷魔法ならあるいは?……まあ、まてって。俺が雷魔法に疎いのは知ってる。でも、これが一番辻褄が合う。


 何故なら、俺たちに会いに来た理由に筋が通るからだ。あんた、取水口の場所を教えてもらいたかったはずだ。飛行能力のある動物は排水口からパイプ内へ入ることができる。排水口の出口は、取水口と違って空の上にある。しかし、大きな湖がその下にあって、さらに、取水口と排水口のどちらにも言えることだが、あの中は重力がおかしくなっていて、例えば取水口じゃ地下に落ちてったはずなのに、何故か上空へ瞬間移動して落下速度も遅い。取水口からは必ず外には出れないが、排水口は入ることができる。まさに、来るもの拒まず、去る者追わずっていう前提にあるのだ。


 取水口の場所を知ることによって、あんたは殺しをしてもすぐにパイプへ逃げ込むことができる。


 パイプの秘密はいいとして、もしあんたが排水口から入ることが出来たら、今の話にも矛盾はない。確かに、今の話は、あくまで推測だ。雷魔法も、そんな便利じゃないことはわかってる。しかし、俺はもう一つの可能性も考えている。


 『取水口は一つじゃない』


 俺が、初めてパイプに行ったのは十二の頃だが、俺の記憶が正しければ、おそらく俺は七番通りの墓地になんて行っていない。つまり、王宮のどこかしらからパイプへと落とされたわけだ。あんたはその入り口を知っていた。となると、あんたが家出する前も、パイプに入ること自体は可能だったわけだ。


 ……え?自分がいなくなったら、たちまち大騒ぎ?いやいや、俺も無知じゃないぜ。


 雷魔法はあんた、ほとんど雷速で動くことができるようになる。一を何十個に割った中の一つの時間であっても、あんたは王宮に戻るには十分な時間のはずだ。いま、帰る時魔法を使わなかったのは、俺が魔力感知を使って悟られたくないから。お茶をしたらへんで、あんた、俺が魔力感知を使えることを推測していたみたいだったな。


 そして、あんたが俺から本気で逃げないのは、俺がどれぐらい真実に追いついているか知るため。しかし、何故俺を気にするのか。


 それはあんたがまだ、『殺し足りていない』から。まだ、殺す予定なんだろ?知られちゃ、困るし、手段も知られると、困る。


 で、『手段』の方も推理してみた。初めの違和感は、ヒル、ギルダーに追いかけられていた時のことだった。一人が、上級魔法を使った。制御がきちんと出来ていなかったし、おそらく実力以上の力を発揮したんだと思う。ただ、問題は術者の方だ。彼はその時錯乱していた。魔力中毒の典型的な初期症状だ。もし彼が魔導具を使ったんだとすれば、使い過ぎの典型例だ。


 で、そいつは盗難届が出されていた魔導具と同じものを、使っていたらしい。……そう。サラマンダーの鱗だ。しかし、何故それを奴が持っているのか?あれはもともと王宮にあったもので、あいつが盗めるようなものじゃない。ーーしらばっくれるなよ。あんたが持っていたんだろう?もともと持っていたのを、条件付きで渡したんだ。そのつながりは、知らないけどな。

 サラマンダーには毒がある。もっと言えば、攻撃するときに魔力を譲渡する珍しい特性がある。なので、標的にあいつの魔力をごっそり火に変えて、渡したわけだ。どうやら標的は俺じゃなくてフーミルの方だったがな。体は基本的に魔力を拒まない造りだから、もらえるだけフーミルは貰った。すると、一瞬にして魔力中毒が抜け、代わりに魔力切れを起こし、気絶する。色々な要因が重なって、あんな珍事が起こったわけだ。


 で、フーミルの魔力容量は凄まじいから、魔力中毒には至らなかった。火の魔力も一日あれば抜け切るだろう。あんたが狙っていたのは魔力中毒死じゃなかった。


 「目印」だ。魔力感知を使って、目標がいつどこにいるか知るために、あんたはこの方法を採った。犯行はすべてヨルのうち、と言う話だったが、違った。ヒルから目標を他人に任せて決めて、あんたがお得意の信じられないほど範囲の広い魔力感知を使えば、すぐに目標が見つかる。


 あんたは七番通りに的を絞っていたみたいだったから尚更だ。


 そしてこれは推測だが、あんたは一日一人きっちり、殺しているよな。


 だが、こうも考えられる。一日一人殺さなきゃいけない。あんた、どうもこだわるタイプだ。謙虚だが、自尊心が低いとは思わない。


 まあ、理由はなんにせよ、あんたはやろうと思えば何人だってやれるはずだ。場合によっては、王都全員。それに、手段を選ぶ必要がないならあんたはさっさと俺を殺して明日まで身をひそめりゃいい。反乱が終わるまでな。そうしないってことは、何がなんでも下界に降りて、人を殺さなきゃならないのだろうな。


 そうだろ?お前の標的はもともと『フーミルじゃない誰か』だった。恐らくリオネス殺しも『想定外』の事態だったんだろ?


 しかし、あんたが逃げたことによってギルダーに俺を探すための緊急任務が入り、偶然目印がフーミルについた。もうこれからは前のようにいかないことを悟ったあんたは、パイプを拠点に、すべて一人で殺人を敢行することを決意した。だから取水口の場所も、知る必要があった。魔法を使わず王宮に戻らず、パイプへ行くために。



 そうだろ、クロウス。



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