○第十九話○身の上話
※ ※ ※
「美味しいです」
「ホントか?フーミルは?」
「あい、おいひいでふ」
米をかき込むフーミル(こいつ本当に侍女なのだろうか。公私の切り替えが激しいのだろうか)と、ゆっくり食べるクロウスをみて俺は、金貯めといて良かったー、と心から思った。
そもそも自分は飯を食う必要がないので働かなくても生きてはいけるが、配管工……もとい見せ物小屋の演者として少ないながらもお給金をいただいているので、一度くらいなら豪勢に振る舞えるのであった。
まあ、そもそもこの国は食糧難に喘いでいるため、金があってもやれなくなるだろうが。
そんなこと話している間に、話は婆あの政治の話になった。
「まったく田にも畑にもならない土地を開いたって金しか食わねえってのにどうすんだよって」
「また議会場作るらしいですよ」
「またかよ!?一個で十分だろ」
「次は露天風呂付きらしいですよ」
クロウスが苦笑いしている横で、フーミルが半眼で愚痴った。十三歳から呆れられる女王とはこれいかに。
「あ、そうそう、クロウスは他国に行くってことは、パイプの上に行くってことか?」
「そうですね」
専門家によると、もともとこの国は大穴の中にあって、穴を塞ぐようにパイプがあって、そのの上、天上と言われるところにたくさんの国があるらしい。鎖国状態だったこの国では、そのような情報は一部の貴族と王族しか知らない。
「今更戻っても殺されるだけですし、もしアルバが征服して、どう上手くやったって三日天下でしょう。他国が黙っていませんからね。流石に本腰入れて開国させに来るか、それか制圧させに来ますよ。国の大きさ、勢力に国力が分かっていないからって、これ以上の好機はありませんよ。パイプがあるから時間はかかるかもしれませんが、侵略は可能です」
「ああ、だから最近ギルドだけ金払いが良いのか」
「そうですね、しかしギルダーがどれだけ役に立つかは未知数ですね。兄様、銃はご存知ですか?我々の国より銃は性能が良いそうです。もともと他国が作ったものですしね。良く訓練された兵を、並のギルダーが倒すのはなかなか骨が折れそうです。なんたって銃は生身で受けられないからですね、魔法で防ぐしかないわけです。真正面から受け止めようとするなら、もちろん銃を撃つ方が魔法を打つより早いわけですから、あらかじめ打っておいて、先手を打って詰めて倒すが普通でしょうね。まあ、レベルカだったりの一騎当千の猛者がいると魔力展性が可能なので、脊髄反射で魔法を打てるわけですが、そんな人間両手で事足りるほどしかいませんよ」
「お、おう」
思ったより熱の入った調子でまくしたてたクロウスは、喋り終わってから、はっと我に返って、こほんと咳払いをした。一方の俺は、レベルカあたりのところで、ついでにリオネスの名前を出されなくてよかった、と一安心していた。
会話の中、俺はヒルからの記憶をずっと浚っていった。フーミルと出会いギルに襲われギルダーに追われクロウスが降り、そしてーー。
あれ?そういえば、ギルダーのなかに暴走していた奴がいた。無茶して上級の魔法を放った奴だ。ああいうの、どっかでみた気がする。
さて。薄氷の上で談笑すること、夜まで。
「さて、私はそろそろお暇致しますかね」
「え?」フーミルが目を見開いた。やはり、こういうところが駆け引きに向いてないし、向いて欲しくも無いと、思う。
「もう反乱も起こっていることでしょうし、アルバはそちらで手一杯でしょう」
そう言って遠いところを見るクロウスは、これからの未来に胸を馳せているような感じがした。それを見ると、俺の中の、今までクロウスに抱いていた疑問が、形を持って確定した。一度は、クロウスの告白により、飲み込んだ疑問が、今、形を持った。
「いいのか?お前、心残りとか、ないか?」
「無いです。大事な人も、すべき人も、してくれた人ですら、居ないです」
「ーーそうか。大変だったな」
こいつには、何もないのだ。力と、地位の二つだけ。普通なら持ちそうなささやかな愛国心も、見られない。淡々としている。淡々とし過ぎている。そこだけなにか、常人離れしている。
「では」
「気をつけろよ。どうやってパイプを越えるか知らんが、上手くやれ」
「はい。お世話になりました。いつかこの恩は返しに参ります」
そういうと、クロウスはひどく呆気なく、家を出ていった。意識したのか、戸を閉めた音はわりかし小さく、余韻もすぐに消えてしまった、
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