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○第十五話○夢





「リーダー?んだそれ」



「いやね、俺たち、これから騎士団(ギルド)を立ち上げる訳だぜ?しかも、花形の討伐系ギルドだ。つまり、商売に例えるとだな、七番通りに出店するようなモンだ。」



「あ?そうかよ?」



「ああ、そうだ。じゃあな、のし上がるためには、他の店と同じように、『シナモンスコッチ』はバカ正直に『シナモンスコッチ』と呼ぶのか?いいのかそれで?」



「いや、でもシナモンスコッチはシナモンスコッチだし……」



「良くないよな?な?」




「あ、ああ……」




「だろ?じゃ、俺たちは『シナモンスコッチ』を『バタースコッチ』と呼ぼう」




「え?バタースコッチって、シナモンスコッチを貴族に出すように高くして作られた奴だろ?詐欺じゃね?」




「商売なんてほとんど詐欺みてえなモンなんだよ。いいから聞けって。ギルドにはまとめ役がいる。誰かって?もちろん俺だよ」



「……弱えけどな」



「うるせえな。とにかく、皆が俺のことを、『おい、まとめ役!!』って言うのか?そんなの願い下げだね」



「じゃあ、どうすんだよ……」



「今言っただろ。今日から俺は『リーダー』だ。いいな?ギーク。俺らは仲間だ。仲間で世界を獲るんだ……」



     ※ ※ ※


 ゆっくりと、彼の瞼が動き。


 唇を舐めると、言った。言ってくれた。





「やっと、その名で俺を呼んでくれたな」



「……リ…リーダァァ!!」


ゆっくりと、彼の瞼が動き。


 唇を舐めると、言った。言ってくれた。





「やっと、その名で俺を呼んでくれたな」



「……リ…リーダァァ!!」



 リップスは動きこそしなかったが、口を小さく動かして、オレに答えた。ベッドとベッド、距離にして腕の長さは三本分ほど。



「おいリーダー、怪我はねえか?」



「ねーよ。無傷」



「ああ、それじゃ…」


 そうだったのか。まずは安心した。

 ……まあ、この状態で…謝罪をするのは難しい。それに、退団を申し込むのはいささか…格好が悪い。出来れば、無傷のリップスに…




「「動けねーから、起こしてくれね?」」




 ……被った。



「え゛?」「あ?」



「オレ、魔力切れで…」



「俺もだ。なんか知らんけど。…いや、お前のせいとかじゃないぜ?自業…自得さ」



「「……」」



 あんたも動けねーのかよ。


 コレから、やることを考えると…。


 か、格好つかねー。


 けど、やらなくていい理由など一つもない。やらなければいけないこと。


 オレは、寝転がったまま口を開く。



「り、リーダー」



「ん?」



「こんな形で悪いんだけどよ…本当に申し訳なかった」



「…」



「ヒデえこと言ったし、暴走して、迷惑も掛けちまった。だから…」



「……」



「オレ、抜けようと思うんだ。『ここ』を……」



「………」



「オレみてえな奴がいたら、『アルバトロス』は…良くない目で見られちまう……これから」



「…………」



「なあリーダー…今までありがとよ。オレみてえな…バカに夢見せてくれて」




「…バカやろう」



「…?」


 今までじっと話を聞いていた、それだけだった彼から、たった、一言発せられた。その意図が分からなくて、オレは数度瞬きをする。

 幾分か、余韻を持たせた声音でリップスが言った。



「……置いていくかよ」



「……え?」



「別に、世界の獲り方なんざいくらでもあらあ。」


 

 何故かニヤニヤした顔をしながら、リップスがこちら側に顔を傾ける。



「待てよ…冗談だろ?」



 …嘘だろ?許すとかじゃ、ないよな?



 勘弁してくれ。自分が…これ以上は…。




「…こんなとこでウソ言うかよ。辞めてやらあ。ギルドなんかよ。俺を…リップス=ハバマを誰だと思ってやがるんだ?」




 自分が、嫌になる。




「お前の、リーダーだぜ?」



 オレは、なんて、


 なんていい奴の人生をぶち壊してしまったんだろう。


 ギークの両目から、涙が溢れ出した。









     ※ ※ ※






 や、ヤベェ……。泣いちゃってるよ。号泣しちゃってるよ。



 



 ギークが、俺の話を真に受けて泣いちゃってるよ……。





 今まで一度も、『リーダー』なんて呼ばれたことなかったのに。




 ……全くもってそうだ。自分が嫌になる。リーダー。そう。俺が名付けたリーダー。神話から取った。語呂も良かったし、内容は半分も理解できなかったが、例えば…俺みたいな境遇の奴は『リーダー』と言うらしかったからだ。意味は知らない。



 知らねえけど……。




(辞めてやらあ。ギルドなんか)




 ……言えねえええええ!!


 もう金無くて解散するしかありませんなんて言えねええ!!


 カッコつけてギークには金が余りあるとか、そんな素振りを見せてたけど、三年間働いて貯めた金がもうねえなんて言えねえ!!



 資金の半分はギークが出した奴だし!アイツ!俺の資金繰りに絶対的な信頼を寄せてやがる!!

 そんな得意じゃねんだよ!?

 俺の家の見せ物小屋いっつもカッツカツなんだよ!!一日二食なんだよ!?


 俺の家族は騎士崩れなんだよ!元々ダメダメだったんだ!


 くっ。まぁいい。美談にするのも悪くない。このまま、上手いこと…ギークを言いくるめて『理想のリーダー像』を見せてやるのだ。


 その方が…そう。この後はまた資金集めに逆戻りしてしまうのだが、都合がいいだろう。商売でもなんでもして…金集めて。


 …そして…。


 慣れた響きだ。口の中で反芻する。



 …金。


 …金。金。金。


 ……また、金か。


 盛り上がっていた気分は体温と共に下がった。


 でも。仕方ない。


 仕方ない。しょうがないんだ。


 リーダーは演じなきゃいけない。物事を円滑に進めるために。夢の為、金の為に、人を騙さなきゃいけない。そんな俺とはまるで正反対に、


 ギークが感極まった風に言った。




「リーダー……。オレ…オレみてえな野郎を拾ってくれてありがとよ…」





 ……ギークが、ギークが、感極まった風に言った。


 金集めて…また……どっかでつまづいて。


 そして、また……騙すことになるのか。


 …当たり前だ。


 俺は、そういう道を選んだ。




「でも、仕方ねえよ。俺はどうしようもねえ。そんなやつに情なんかかけなくていい」




 ギークが…申し訳なさそうに言った。


 …違う。


 …違うんだ。


 …違うんだ。金はもうないんだ。解散する以外ないんだ。


 そもそも、俺たちは崖っぷちだったんだ。持った野心が大きすぎた。世界一の騎士団〈ギルド〉になると。団員を増やすことに躍起になって。金のこと考えずに。


 そして…破滅する一歩手前だった。


 焦ってた。俺は。なんでもいいから金を集めないといけなかった。


 生き埋めにされた仲間を助けることより……。



 俺は、金が大事だった。



 金が全てなんだ。この世界は。


 金があれば人は幸せになる。


 何故なら、幸せと金は同義だから。


 ふと、脳裏にぽつんと思い浮かんでしまった。その考えが。


 金。


 この世に生を受けた以上、俺たちは……夢の次に、いや、それ以上に金のことを…四六時中考えなきゃいけないんだ。金を伴侶に踊らないといけないんだ。金のことを考えて考え詰めて上り詰めてそして…。

 そして……世界を獲るんだ。


 夢を、叶えるんだ。


 金で。


 レベルカは親から認められるんだ。



 ギークはかつての友人達に認められるんだ。



 そして俺は……騎士になって。世界から。



 今まで…俺を冷やかしてきた世界が、一気に俺たちの味方になるんだ。



 全て、全て金だ。


 金で、金があるから、幸せになれる。



 そして……そして……。



 ……それは、いつの話になるんだろう。



 俺らって、俺らっていつ認められるのか?



 そもそもこのまま行って認められるのか?


 

 ……違う。


 ……違う違う違う!!


 ……俺の夢は…もっと…。


 世界なんかより、簡単で、難しいんだ。


 



「頼む……リーダー…俺を、見限ってくれ」



 

 ……俺は、金が欲しかった。


 金なんだ。全てが。


 世界なんかじゃない。親父から認められたかった。いっつも金がなくて喘いで居るくせに、子供を殴るときは一丁前になる親父を見返したかった。


 金さえあれば幸せがついてくる。


 金さえあれば…騎士にだって……。


 なれる。


 なったとして…。


 世界一にはなれない。


 隣のベッドにいる奴が、世界一だ。


 俺が憧れた人間だ。


 俺が憧れた親父だ。


 

 覚悟が出来ているんだ。うだうだと夢に浸ろうと思っていないんだ。現実を見て、自分に向き合って、身の丈に合った人生を歩むのだろう。親父と反対の人間だ。いや、



 自分とは…正反対の人間だ。




「夢を……掴んでくれ。リーダー」




 違う。


 違う。



 違う違う違う!!


 

 俺はお前が思うような人間じゃないッ!!


 この世界じゃ、夢を諦めた方が強いんだ。今更ながらに、気付いた。


 自分の醜さに、夢を追うことの下劣さに、気づいた。


 だから。ギークには、ギークだけには、真実を知って欲しくて。



 口を開いた。




「ギーク……ち、ちがーー」


 


「ーーあ、いたいた…起きてんじゃん」




 唐突に女性の声がしたので、俺はそちらをゆっくりと振り返った。



 


「レベルカ…?にミシェルも」



 そこには見慣れた二人が居てしまった。


 ミシェルは、透き通った緑髪を掻きながら、驚いた風に言った。



「あれ……もう体調良くなったの」



「ミシェルあんた、起きるのに三日三晩はかかるって言ってたじゃない。ヤブ医者って呼ばれるわよ」



「ええ…それは困るなあ」

 


 え?三日三晩寝てるような状態だったの?俺は。横に寝ているギークも色々と情報量の多さに動揺している。



「リーダー、これは」



「いやー、今日ギルドが任命式とかの護衛やら準備やらで、軒並みいなくなっちまってて、代わりにあいつらがやってんの」



 そう俺が答えると、ギークが意外そうにあたりを見回したあと、何かを思い出したように目の色を変えた。

 二人に向かって数段大きな声で言った。


「いや、そんなこと言ってる場合じゃねえ。聞いてくれ、レベルカ、ミシェル」



「え?」「ん?」



 そして、彼女たちに向き合い、言った。



「申し訳ねえ、なんて言葉じゃ足りねえくらい、あんたらに迷惑かけちまった!本当に申し訳ねえ!!」



「あ、あのさ、ギークそのことなんだけどーー」



「ーーいいんだ、言い訳なんてしねえし出来ねえ。俺は今回のポカの責任を取るため、仲間にこれ以上迷惑をかけない為、俺は今日を持って、『アルバトロス』を辞める!」



「ギーク…」


「お前らは…諦めんなよ!?」


「……」


「俺の放り出した夢…掴んでくれ」


「……リップス…」



「…何だよ」



 ギークが涙ながらに言う中、

 レベルカが申し訳なさそうに俺の元までやってきて、目線が合うように膝立ちになる。



「いや、さっきノーストン伯からさ、コレ土産にって、貰って……」

 

「なんだ…木箱?」



 そう言って差し出したのは両手のひらに乗るくらいの大きさの木箱だ。ギルからの贈り物?いやいや、んなもん絶対まともなものではない。



「いや、その中身なんだけど…」



 レベルカが、何故かあくまで、申し訳なさそうに言いながら…木箱を開けた。



「……ぁ…き……!!」



 金貨である。


 箱一杯の。



 え?幻覚?


 待て、状況を整理しろ。


 ギルが幻術を使って、レベルカに金貨の入ったように見せた木箱を渡したんだ。きっとそうだ。そうでなければ…


 こんな量、一軒家が来るぞ。


 弁償する額なんて払ってもお釣りがくるほどだ。



「…あ?…金貨?え?え?」



「そ、その…ギルド…続けられそうだから…」



「……え…ギークに、どう言うんだよ」



「……まあ、一緒にーー」


 いや。


 いやいや。



 いやいやいや。


 ……出来るわけあるか!!今、あいつが、粗暴で乱暴で横暴なあいつが、心から謝って、「俺を置いて夢を掴め」と言っているんだ!でも、金銭的にも、あいつを置いていくなんてできないのに!


 今更、あいつを置いてギルドを立て直して続行!?


 あのクソ貴族の情けで!?あのプライドの高いギークが!?


 出来るわけがっ!!


 出来るわけが…。


 金のためなら、夢のためなら、出来るわけが…。



「いや、俺がやる」


「え」


「お前はそこで見てるんだ」



 …結局、俺ら…いや、俺は金に踊らされてるだけじゃねえか。


 …金に…踊らされてる…。

 

 レベルカが驚きを隠せない声で言う。


「え…?」


 当たり前だろ?



 …金、か…?


 いや、俺が踊ってるのは、夢か。


 …ああクッソ。


 …とんでもねえ土産だ…。



「くっそ…ヘクター…最後にとんだ置き土産を…」




 でも、誰かがそれを、役目を果たさねえといけない、騙さないといけない。そうしたら、やる奴は、俺しかいない。



「親父……俺、演じてばかりだよ」


 誰にも聞こえないように呟いた。


 あるときは子供。


 あるときはリーダー。


 あるときは戦士の衣装を身に纏って。


 俺の最後の踊りになる。金と一緒に、夢と一緒に、踊るワルツ。幸せになるために、踊る。最後に、あいつをまた、



 騙すことになる。


 俺なら、出来る。


 私利私欲じゃない。


 コレは俺だけの問題じゃない。レベルカも、ミシェルも、急遽入団した6人も、ギークも、全員が幸せに生きることが出来るかがかかってる。


 皆の期待がかかってる。


 だから騙すんだ。


 俺が適任だ。


 リップス…罪悪感を騙せ、


 自分を、騙せ。



「ギーク…おいギーク!」



「…ああ…?」



「俺さ…その、ああ、あ、諦めきれねえよ!!」


「は?リーダー?」



 こうだ。

 夢が諦められない。ギークが居ないと夢が掴めない。だから戻ってこい。

 そう言うのだ。

 そうしたら事は円滑に進む。



「お前がいねえと夢叶えらんねえから!」


「おい、リーダー何言ってーー」


 

 レベルカの期待にも応えて、ギークにも面子を保てる。


 理想のリーダーを演じることが出来る。



「金の心配なんてしなくていいし、金だけが全てじゃねえから!だから、もう一度…」



 やり直そう。

 俺たち…夢を追い直せるんだ。




「リ、リーダー」


 無実。




「俺、お前のこと許すからさ……も…もう一度世界を……」


「リップスッ!!」



 完璧だ。


 俺の過去最高の演技でギークを見る。すると…。


 あいつは…泣いていた。


 苦笑混じりに言った。


「オイオイ……なんで泣いて」




 すると…だ。




「リーダー……お前何泣いてんだよ」






「……は…??」


 あれ…ギークがにじんで見える。


 頬の部分に手をやると、生暖かいものが指に触れた。



 え…?俺、泣いてる。


 こんなの、台本にないだろ。


 何やってんだ。俺。


 ……何やってんだ、俺。



「それに…金の心配とか…するに決まってんだろ。強がってんじゃねえって」



 …強がってんじゃねえ?


 俺。強がってんのか。


 とっくに…弱いってこと、バレてたのか。


 

 


「ククク…」


「…?リーダー?」


 …笑える。


「くふふッ。ふふふ…。」


「何…笑ってんだよ?」


 …俺の。


 …俺の人生すげえ笑える。




「ははははははッ!!」



「………」



 ギークは、俺が笑う様子を呆然と見つめる。


 そして、何故か、天井を見て笑みを浮かべた。




 …俺。


 …何やってんだ俺。



「……リーダー」



 …マジでクソみてえなことしてるな。俺。


 …俺、何しようとしてたんだっけ。

 

 …結局、親父の真似してるだけだ。


 …親父にならねえなりたくねえと足掻いてたけど、結局!!


 夢を追ってた。その時点で……


 …もう俺は親父だった。



「リーダー…あんたさ、夢があったよな」



 …なんだっけ。


 …夢?


 …夢ってなんだよ。


 


「騎士に…なるって」



 …俺の夢って騎士だったろ。…いや、違うな。


 …騎士を毛嫌いする親父に反発したんだ。人を守りたいなんて思ってないんだ。人を憎んでさえいる。ホントは。



「世界を獲るってさ」



 …世界を獲るなんて夢、いつ考えたっけ。


 …金が欲しいってことを誤魔化してただけ。



「でもさ、ふと、思うんだ」



 …ホントは……


 ギークが、言った。




「リーダーは、強がってんじゃねえかって。」




(世界獲るんだろ!?)


(騎士になるんでしょ!?)


(金が要るんだよ!)





 ……幸せになりたかっただけだった。


 …親父がいて、母さんがいて、普通の家があって。


 …レベルカはその名で生まれなくて。


 …ギークは親に捨てられなくて。


 …ミシェルは医者の名家に生まれなくて。


 …そうしてたら俺…本当に笑えたのに。



「やめだ」


「あ…ああ?」


 …リーダーを演じるのは、やめだ。




「…ギーク。何やってんだろな。俺」



「……」



「夢の為って言って、金をかき集めて」



「…ああ」



「金の為っつって。人騙して。クソみてえなことして」



「…オレも同じだ」



 違う。


 違う違う違う。


 俺はお前とは人種が違う。


 俺はクズ。簡単に人をだませるクズ。夢を叶えて欲しいって、身の丈に合わない夢を追わせた。自分の夢を誤魔化したかった。でもお前は…



「違う!お前らには…ずっと『きっと夢は叶う』とか、『夢は諦めるな』とか、お前らに夢を…負わせてたんだ!!」



「それはアタシたちも同じ!」



「…」



 割って入った声はレベルカだった。入り込む隙が分からなかったのかもしれなかったが、少し前から何か言いたそうな顔をしていた。



「リップス、あんたが夢を追ってれば、いつか自分も叶うって、理由もなく思ってた。あんたにそれを求めてた。でしょ?ミシェル?」



「…ああ。僕も同じだよ」



 ミシェルが頷く。やめてくれ。

 演技すんな。

 失望してるはずだ。

 俺は金集めもままならないどころか、人としても終わってる。




「はっ。なにが同じだ」


「?」


「俺は…金で仲間を買ったんだぞ?いいや…仲間としてじゃない。愚痴の捌け口にだ」

 


「そんなことねぇ!『リーダー』は…」



 …リーダー。


 笑えるぜ。いい名前。俺には似合わねえ。


 俺の中の、何かが切れた。



「お前らが!俺の重荷だった!!」



「…ッ!!」



「どうしてギークは、両親に捨てられてんだ!?

 どうしてレベルカは、その名前で生まれてきたんだ?

 どうしてミシェルは、あの家に生まれたんだ?


 どうして俺は…夢を諦めきれなかったんだ?」


「…」


「お前らがいねえときに、あいつらと飲むと、どうしようも無く楽しかったぜ」



「……」



「幸せを、金で買う。コレが俺の真実だ。失望してくれ」




 でも俺は、


 金にしがみ付き、


 夢にしがみ付き、


 現実を見てこなかった…クソ野郎だ。

 

 だから、ここにはいられない。


「あばよ……ッ」


「…あ!」


 俺はベッドから、起き上がるべく、動かない体を無理矢理にでも動かそうとした。


「…ッ」


「ちょっと!絶対安静にって」


 体に鞭を打って、出口へと向かう。止めようとするミシェルとレベルカを、抵抗にもならない抵抗で押しのけようと…。出来ねえ。何も、出来ねえ。これが俺。


 だから。


 ただ、睨む。



「うるせえな。俺はもうお前らの『リーダー』じゃない」


 


「……」



 二人は、気圧されて手を離した。俺が積み重ねてきたものだって、その程度だ。


 それに見向きもせず、俺はドアへと向かった。


 そこに、割り込んできた影。



「ハア…行かせねえぞ…リーダー」




 ギークが、俺と同じく、体に鞭打って俺を止めようとしていた。


 …同じとか言うなよ。何もかもが違うのに。

 


「その名で俺を呼ぶんじゃねえ……ッ。ハア…」



 軽い息切れを起こしながらも、俺は前に進む。

 ギークを押しのけようとするが、彼も抵抗する。


 後ろからもレベルカとミシェルに引っ張られ、全く動けない。


 でも、構わない。



「ギーク、これからはお前がリーダーだ」



 ギーク。



「何言ってやがる…」


「金は余るほどある。今日の任命式で貴族と繋がりを作っておくんだ」


「ふざけんな…あんたがいなくて…アタシたちが」



 次はレベルカ。



「レベルカ。理不尽なことが起きても、癇癪は起こすなよ?世の中理不尽な事ばかり。ただ、お前にはそれが少し多かっただけさ」


「…」


 ミシェル。


「ミシェル、お前は…特に問題はねえが、ほかの問題児の手綱をちゃんと握っておいてくれよ?」


「……」



 どうしてだろう。息切れが止まった。


 今、全てを失おうとしている今。


 どうしてだろう。



 妙に足が軽い。


 ギークが言った。



「なんだ…?魔力が…膨れーー」



 全てが。軽い。


 今、何でも出来るような、そんな気がする。俺の中に新しく産声をあげたそれが、願っている。



 ーー奴らを、蹴散らせ。と。



 俺は、軽く鼻歌でも歌うように言った。



「ほのお…『熱ーー加速魔法』」


「「「!?」」」



 


 言った。


 俺は人生で初めて、自らの魔法を行使した。 



「夢老い人」



「づあっ!?お、重ーー」



 軽く左手を振る。


 三ヶ月分の筋肉の、制限なしの『成長の加速』ーー。圧倒的に強化された筋力が、ギークを引き剥がす。


 そのまま、進み始める。


「うっ!」


 引き留めようとしていた二人は、無理に引きずられ、転倒した。

 ドアを開け、半身だけ体を出す。


 …そうだ。


 伝えたいことがあった。


 ゆっくりと振り向く。



「最後になるけど、夢は追い続けろよ?その時が一番楽しいから。」



 夢は、叶うことではなく。追うことだ。


 追うことに意味がある。


 ついに、俺は全身を部屋から出し、


 音を立てないようゆっくりと閉めた。



「……おやすみ」


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