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○第十四話○リーダー

た。



     ※ ※ ※




 どうして地底へ、などと言う言葉を俺は使ってしまったのだろう。

 まるで、見えない何かにそう言わされたかのように、口をついて出ていた。


 ここは、そらのパイプであるのに。


 …まあいい。


 俺は、自分の記憶を頼りに部屋の中に進む。真ん中に向けて、五歩ほど進めば…そう、顔に紐らしきものが当たった。


 これだ。この紐を…、腕一つ分くらい、下へと引っ張るとガシャガシャと音を立てながら、頭上から光が降ってくる。ヒカリゴケの光だ。普通の一軒家で言えば、小窓に当たる部分だ。

 そこに仕込んでおいたヒカリゴケが、遮るものがなくなって光るのだ。


「…ヒカリゴケを明かりにしたんですか?」



「ああ、光加減が難しかったけど。」



 俺が使ったヒカリゴケはかなり強い個体だったから、魔力をどんどん吸って行って失明するんじゃないかってくらい眩しく光るのだ。俺には目玉が無いけど。なので、こいつらを遮ったり遮らなかったりして魔力の

調整をして、ちょうどいい明るさにする必要があるのだ。

 全く、ココでは魔力は下に溜まるってんのに、ヒカリゴケは相当な生命力というか、生き汚さというか。

光合成をするのに、どう考えても必要ないと分かるくらい眩しく光を放っているのだ。


「…それより兄様、床が…」


「ん?」


 珍しくクロウスが驚いたような声で言った。確かに、外観の綺麗さ?とは裏腹に、燭台だの皿だの枯れたヒカリゴケだの光らないヒカリゴケだのなんだのかんだの散らかってあって、床が見えるところがあまり…多くない。つまり…



「ああ、散らかってて悪いな、言うの遅くなったけど」



「その言葉って、ある程度綺麗になっている部屋に人を招き入れるときに使う言葉だったなんて知らなかったってお母様が愚痴ってました」



「……お前のお母さんとは親友になれそうだよ、フーミル」


 たった十数年しか生きてないもんだから、社交辞令等々には疎いので。フーミルの母のように苦戦するかもしれない。しかし、だな…。



「入れ歯が一目でわかったように、大事なものはきちんと並べられてあるんだぜ?」



 そう言って、俺は貰い物の木のタンスの上に置いてあるたくさんの瓶を指さした。瓶の中には、それぞれ形の違う総入れ歯が入っている。



「例えばあれ。歯がギザギザした入れ歯。あれは誰かを脅す用に使う入れ歯だ。未だに使ったことないけど。」



「は、はあ…?」


 フーミルは戸惑うようにそういい、クロウスは苦笑いしている。




「で、あのキラキラしたイケてる入れ歯が俺の一張羅用だ。これで使い方あってたっけ?」




「歯に一張羅ってあったんですか?知りませんでした!」



 フーミルは懐疑的ではなく、本当に意外そうに言う。こう言うところは年相応に幼い。

 続いて俺が刺したのは、真っ黒な入れ歯。黒光りしている。



「で、あのキラキラ…テラテラしたのが、黒い入れ歯。なんか結婚用だな。何となく。だから高値になりそうだな。知らんけど」



「…け、結婚…?」




「フーミルも結婚したらつけてみるか?」



「…!!…いや、いいです」



 そう言うとフーミルは俯いてしまった。自然とクロウスと目が合う。奴は笑っていた。俺に向かって。

 


 ……何故だ?


 少し不思議だったが、最後の、やけに綺麗な入れ歯を指さす。




「…で、あの…ピカピカした入れ歯が、歯磨き用入れ歯。手応えがいい」



「…兄様、歯磨き用入れ歯とか、本末転倒でありますよ」




この…入れ歯も同じように、ここに置いてあるもの、家具は、そのほとんどが貰い物で占められている。

こういうときに人脈とは役立つ。


 しかし…流石に、今日は彼女らの飯を賄えるとは思えない。



「さてと…」



 口が寂しいから買おうと思った昼飯も、七番通りに消えて行ってしまった。まあ、硬貨を落としてしまっただけなんだが。自業自得だ。

 俺は、昼食ったシナモンスコッチがあるからいい。夜まで食いつなげる…と言うか、食う必要がない。人間じゃないし。


 …ああ、そうだ。おっちゃんに貰った余り物の…貰い物のシナモンスコッチがあった。あれはどうだろう。


 ポケットの中から、青い葉の包みを出す。手に収まる程の。…まあ大きさからして三切れくらいだ。ちょうどいい。


 …だとすればあれしかない。



「…クロウス」



「何でしょう」



「…まずは、茶でも飲もうぜ」



 とにかく茶でも飲んで、話を整理しよう。


 クロウスは嬉しそうに頷いた。

  


   ※ ※ ※


 




 とんでもないことをしてしまったと、気づいたときには、もう遅かった。 


 騙されたのだなんて言い訳なんて、とても 出来ない。


 自分が、『アルバトロス』を潰してしまうかもしれないと思ったときには、もう自分の止められるところではないと思った。



 ……悔やんでも悔やみきれない。



「くっそ…」



 涙は重力に逆らうかのように横に流れていき、オレの…ギークの枕に一筋の跡を残していった。


 体が動かない。魔力を吸いすぎて、魔力を保持しておくべき器官がイカれたのである。顔や…口はある程度動かすことが出来るが、かなりの重労働だ。

 ……恐らく、ここはギルドルームだろう。自分が気を失ってから、自分を見捨てないでいてくれた仲間が、ここに寝かせておいてくれたのである。


 しかし、だ。




「どうっして…あんなにっ……」




 恩は仇で…いや、仇なんて可愛いものではない損益を彼らに与えてしまった。


 俺は…ギークは、『アルバトロス』を辞めなければならない。


 当然だ。当然の責任の取り方だ。


 それでも、やったことは消え去りはしない。彼らは大損害だ。

 


「これからだったって言うのに」



 女々しいことは分かっている。


 しかし。悔やみきれずにはいられなかった。何故、あそこまで功を焦ってしまったのか。力任せになってしまったのか。感情の制御が効かなくなってしまったのか。この……


 『鱗』を、うまく使いこなせなかったのか。



 結果は、このザマだ。


 もう、自分は『アルバトロス』に必要とされる人間ではない。もし、自分から辞めなかったとしても、必要とされていないことくらいわかる。


 オレの目に、オレの元に、リップスが、レベルカが、ミシェルがいない。もう。それくらい分かる。


 どれだけ耳を傾けたって、あの声はもう、聞こえない。


 どれだけ首を傾けたって……。



「……リッ……プス?」


 

 …傾けた頭の先。


 隣のベッドに眠る彼は、紛れもない。


 リップス…



「ま、まてよ」



 …嘘だろ?


 まさか、


 怪我したとかじゃないよな?



「リッ…待て、ま、まって」



 まさか、


 オレの攻撃を、身を挺して止めようとした訳じゃないよな?


 その…そのかけられた布団をめくったら……。



「………ッッ!!」



 包帯が何重にも巻かれてる訳じゃないよな?



「おい…リップス…おい、リップ!!」



 懐かしい名で彼を呼んだ。


 彼が戻って来てくれる気がした。


 

「…死ッ……リップ!!起きろ!!なあ!?」



 最も想像してはいけない、するはずもないことが、頭にめぐって、其れを言葉にしてしまう。


 今に、現実になるかもしれない。


 それでも…彼は深い眠りについて、ピクリともしない。


 あとは何がある。彼を呼べる言葉は何がある。


 彼を彼として、リップス自身を呼べる名前。


 オレの…呼ぶリップス。

 


「……リーダァァァ!!」



 


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