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8アリーはざまぁをする

『何だって?』


聖剣が驚くのも無理はない。少女が惨たらしく殺された瞬間、アリーの周りにはおびただしい氷の魔力が渦巻いていた。青く煌めく氷のかけらがアリーの周りを惑星の周回軌道のごとく複雑な軌跡を描き、回っていた。


『これは、無詠唱魔法!』


驚いていたのは聖剣だけではなかった。


「こいつ、今、呪文、唱えたか?」


「いや、きっと、前もって唱えていただけだ」


「そうだな。こいつ如きにできる訳がねえ!」


「ケンツ、お前の省略魔法で、こいつにわからせてやれ!」


「ああ! 【汝は炎、我が敵を打ち砕く燃え盛る炎。我が敵を打ち砕く刃なり。


ファイヤーアロー!】」


ケンツがアリーめがけて魔法を放った瞬間、炎の魔法はかきされた。


「……は?」


見ると、ケンツの発動した炎の魔法の周りに氷の魔法が渦巻いていた。


アリーは何もしていない、呪文詠唱をしていないのだ。


にもかかわらず、ケンツの発動した炎の魔法はかき消されていた。


「嘘だ。そんな、こいつ呪文を唱えてなかったよな? お前、一体何をした?」


アリーの顔は見えない、フードで隠れて、その表情は読めない。


まるで、自分達など歯牙にもかけていないかのように、それが不気味ですらある。


「だから、お前! 何をしたんだよ! 答えろよぉ!」


半狂乱で、ケンツが叫ぶ。


そして、今度は剣を引き抜き、構えた。


「今、剣で切り刻んでやる!」


剣を構えた瞬間、涼やかな音と共に剣が粉砕され、ひゅんと後から音が聞こえた。


アリーから魔力の波動が伝わって来る。魔力の奔流はアリーの髪を揺らし、そして、フードをはためかせ、アリーの顔を露わにさせる。


そこに現れたのは痩せこけた貧弱な少女ではなかった。


金髪、碧眼、整い過ぎた顔立ちと無表情の氷の美少女。


無表情の顔にわずかに変化が見える。驚いたような顔?


「あ、ありえねぇ! 俺の剣はミスリル銀製だぞ! そんなことがあるわけがねえ!」


ミスリル銀とは魔法を付与しやすく、軽く、それでいて、アダマンタイトにも近い強度を誇る、冒険者にとっては最高の武具だ。


それを氷の魔法の弾丸で打ち砕くなど、あり得ない。弾丸の強度は魔力によりもたらされたものだとしても、剣を粉砕するからには相当なエネルギーがいる。それも速度エネルギーだ。


つまり、アリーの生み出した氷の弾丸は音速を越えていたのだ。


「みんな! 定石通り、散開戦術だ!」


冒険者パーティはちりぢりになり、アリーの周囲を前後左右から挟み込む。


1対複数の場合の定石。戦力差を数で埋める合理的な戦法だ。


あちこちからアリー目がけて炎の矢が降り注ぐ、だが、炎の矢はアリーから放たれた氷の弾丸で全て撃墜される。


「あ、ありえねぇ、絶対ありえねぇ!」


攻撃魔法を防ぐには防御魔法を使うのが鉄則だ。バリアを張り、防御する。


だが、アリーの魔法の氷の弾丸は彼らの放った炎の矢を全て氷の弾丸で撃墜した。


そんな高度な魔力操作など、常人には不可能だ。


できるとしたら、この国最強の宮廷魔法使い、7賢人の称号を持つ7人の魔法使いに叙せられた僅かな者のみ。いや、彼らとて、それが可能であるかは疑わしい。


それ位にアリーの魔法はあり得ないモノだった。


彼らの目の前で繰り広げられた魔法は、この国最強の魔法使いでも可能かどうかすらわからない……そんな奇跡の魔法。


しかも、炎を魔法はその炎が樹々に燃え移ることなく、全てかき消されている。


氷の弾丸は炎の矢を迎撃しただけでなく、炎の魔法の特性である、炎を対象物に燃え移らせることをさせてもらえず、丁寧にかき消されたのだ。


……奇跡?


そんな言葉が口から出そうになる。魔法を使う者なら、それがどれほど高度な魔力操作であるのかがわかる。


そんな奇跡としか言えない精緻な魔力操作を呪文詠唱なく……つまり、一瞬で行った?


それに気がついた時、彼らの目の前にいる者が、化け物であることとようやく理解した。


「一斉だ! 一斉に魔法と剣でたたみかける!」


ケンツの号令のもと、無謀としか言えない戦いを仕掛ける中級冒険者達。


すでに冷静な判断などできていない。


ある者は魔法を詠唱し、ある者は剣を抜き放ち、アリーに向かい、疾走し、あるいは攻撃魔法をぶつける。


同時に襲って来た魔法と剣士達。


だが、魔法を放った者は魔法を全てかき消され、氷の弾丸が胸にドンと突き当たる。


アリーの周りを回っていた氷の弾丸はいともあっさりと魔法をかき消し、魔法使いたち、全員が仰け反り、その場に崩れ落ちた。


「とったぁ!! グアッ!」


スキル【縮地】。一時的に身体能力を向上させて、瞬間移動したかのようなスピードでアリーに斬りかかる剣士。一度に使うことができる魔法にも注意にも限界がある。散開戦術を完成させるため、アリーの注意を魔法使いたちがひきつけ、剣士が横から斬りかかって来た。


キンと涼やかな音と共に鉄の剣が粉砕される、と同時に氷の弾丸に吹き飛ばされる剣士。


だが、中級冒険者と言えど、彼らは戦いに長けていた。


「俺が本命だぁ!」


いつの間にか後ろに回り込んでいた剣士がアリーに向かって斬りかかる。


「死ねぇ! グハッ!」


しかし、後ろから襲いかかった剣士の後ろから、氷の弾丸が襲い掛かる。


「ば......馬鹿な」


意識を失う直前にあり得ないことに直面し、ありふれたセリフが出てしまう。


アリーは剣士の後ろに氷の弾丸を創造し、剣士の後ろから攻撃した。


これもまたあり得ない神の御業とも言える魔法だった。通常の魔法は術者のすぐ至近距離からのみ発動する。物理的距離が遠いほど、魔法制御は困難になる。


アリーの魔法操作技術は既に神の領域だった。


「(手加減したんだね?)」


「(殺してやりたい、でも)」


アリーは唇を噛み締めた。目には涙を浮かべて悔しそうな顔を見せる。


殺したいほど憎んでおきながら、命を奪うことには躊躇した。


「(それでいい。人の命を奪うのには、勇気と覚悟がいる。今の君にはまだ無理だよ)」


「(殺したいほど憎い……でも)」


「(その女の子を運ぼう。飛行の方法のイメージを送るよ)」


「(うん)」


アリーは亡くなった少女の亡骸を抱え、翼を広げ、街に向かって飛びさっていった。

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