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51アリーは王子様と出会う(恋愛感情なし)

入学式の日、授業はなく、クラスメイトと担任の教師との顔合わせのみだったので、早々にアリーは寮に帰った。


「アリー、あなたもなのね」


そこには化粧をばっちり施された姉、ソフィアがいた。


「お、お姉ちゃん、きれー」


「アリーだって、もう」


姉のソフィアも化粧は苦手だった。


アリーほどではないが、グラキエス家で彼女も疎まれていた。


お化粧代まで出してはくれなかったのである。


その上、ソフィアも実家から逃げるため、必死に勉学に励んでいて、おしゃれどころではなかった。


よく見ると、姉の髪に可愛い髪飾りがついていた。おそらく友達からもらったのだろう。


「じゃあ、無事にお友達ができたのね、よかったわね」


「うん、とっても可愛いお友達。もっと仲良くなりたい」


「お姉ちゃんのことほったらかしだと拗ねるからね?」


「そんなことしないよ」


二人はそれぞれ寮で個室を与えられていたが、いつも姉がアリーの部屋に遊びに来る。


王都に到着してから2週間、毎日そんな日々だった。


「あれ?」


アリーは窓を叩く音が聞こえたので、視線を窓に向ける。


すると。


「クロちゃん!」


いそいそと窓を開けると、そこには魔の山で保護した竜の幼生がいた。


窓から竜の子供を抱きとめると、竜は可愛くにやぁと鳴いた。


『君は魔の山に帰ったんじゃないのか?』


『事情が変わってね。魔の山は神竜の子がしばらく預かってくれることになって』


『つまり、僕たちの元にいれば一番安全と考えた、という訳か?』


『そうだよ。どのみち、今の僕はエンシャントドラゴンにも勝てない位だから、魔の山なんて守りきれないんだ。そこに気のいい神竜が通りかかって、魔の山を頼んで来たんだ』


『なるほど』


聖剣と竜の子供、正体は暗黒竜の幼生だが、そんな事情があった。


「アリー。正式にペットとして飼うんだったら、申請しなきゃだめよ」


「うん、わかった。お姉ちゃん。明日にでも出して来るよ」


姉の言葉にうなずくアリー、だが、聖剣から更に忠告される。


「(ペットしてではなく、使い魔として登録するといいよ。おそらくそれだと授業中も連れて歩いていいと思うよ)」


「(ありがとう。そうだね。授業中、一人にしたら可哀想だよね)」


聖剣の意図は違った。暗黒竜の幼生はエンシャントドラゴンには勝てなくとも、S級災害獣位の力はあるはずだ。


いざという時には戦力になる。


暗黒竜も同意するだろう。


彼の目的は保護されることだからだ。


「可愛いわね」


「そうだね。お姉ちゃん」


二人でそれが暗黒竜の幼生とも知らずに愛でていると、唐突にアリーの魔力探知に反応があった。


「あれ?」


「どうしたの? アリー?」


「寮の裏側」


「……え?」


魔力を感知できないソフィアには意味が分からず戸惑っている。


「さっき、女子寮の裏側に魔力の反応があったの。多分、飛翔の魔法」


アリーは不思議に思う。何故なら女子寮の裏側は学園内ではなく、市街地だ。


入って来た痕跡はない。女子寮から出たのなら、女生徒だろう。


夜の市街地はいくら治安のよい場所だとしても、若い女性が歩いていい場所ではない。


「お姉ちゃん、私、ちょっと様子を見て来る」


「うん。でも、気を付けてね。もしかしたら、ロミオとジュリエットなのかもね」


こんな時間に男子ならともかく、女子生徒が抜け出すとは考えにくい。


それでソフィアが思いついたのがロミオとジュリエットである。


争い会う家系の愛し合う二人が密かにあいびきしている。


そんな乙女チックな妄想をたくましくする。


実は案外正鵠を得たものとは、今のアリーとソフィアは知らない。


アリーは窓を開けて、地面を見下ろす。


部屋は三階なので、飛び降りる高さではない。


だがアリーは羽根を広げて外の世界へ飛び出したのである。


魔力の痕跡を追って行くと、旧校舎の奥、今は使われていない中庭に誰かがいる。


それで、思わず二階建ての旧校舎の上に着地する。


中庭を覗くと、二人の男女が見える。


もしかしたら、ホントにロミオとジュリエット?


そんなことを考えていると、不意に後ろから口を塞がれる。


「誰だ?」


「……っ、ひぃっ!」


アリーは思わず身をよじって、男から逃げようとした……が、あわてて石に躓いた。


「ふぎゃっ!」


間抜けな声をあげて豪快にすっ転んだ結果、アリーは逆に男の胸の中に抱きとめられる。


「あ、わ、わ、……」


アリーがあわあわとしている。既に彼女の脳内ではいけない妄想が捗っていて、アリーは既に妊娠したと確信した。


「(この人、責任とってくれるかな?)」


「(何言ってんの? まだ何もされていないだろ? それに強姦魔にそんな良識求める?)」


聖剣の突っ込みも確かにだが、聖剣は判断に悩んでいた。


その気になれば、普通の男など、アリーの体を乗っ取ればどうにでもなる。


しかし、アリーの口元を押さえた男はかなり高貴な身分と思える顔立ちをしていた。


「私の友人があいびきしているんだ。できれば内密にしてくれないかな?」


そう言った男は銀の髪と青い目の見目の良い男性だった。

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