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28アリーはお姉ちゃんに甘えたい

「(お姉ちゃん、いるかな?)」


「(実家なんだから、家に入ればいいんじゃ?)」


「(追い返されると思うよ。私、追放されてるもん)」


「(そうだったね。ごめん)」


アリーはニコッと笑う。聖剣への配慮。アリーに常識はないけど、心根は良い女の子だった。魔王を目指しているのだが。


実家のすぐそばの路地に紙袋にいっぱいの野菜を持った少女が歩いて来る。


聖剣が問いかける前にアリーは動いていた。


「お姉ちゃん!」


「アリー!」


アリーによく似た顔立ちの黒髪の美しい少女が思わす紙袋を落としてしまうが、気にせずそのまま、飛びついて来たアリーをぎゅっと抱きしめる。


「ソフィアお姉ちゃん、会いたかったぁ」


「私の可愛いアリー、私、あなたのことが心配で心配で、もう、お父様のバカぁ」


姉、ソフィアはアリーを抱きしめると、慣れた手つきでアリーの髪を撫でる。アリーからこんなに激しくスキンシップを求められたことはなかったので、びっくりはしたけど、心がキュンとなった。


「(私の妹はなんて可愛いの?)」


久しぶりのアリー成分をたっぷり堪能すると、ついついアリーの頭を撫でるスピードが上がってしまう。


「良かった。生きていてくれたのね。エリザベス姉さまから、アリーはきっともう死んでるって聞いて、わ、私、あなたに何かあったらどうしようか本当に!」


「お姉ちゃん、私、大丈夫だよ。今は冒険者として、何とか暮らせているの」


「そう、そう、良かったわ。あなたに何かあったら、私、自分が許せない」


アリーを抱きしめながら、頭を撫でる手つきは慣れた熟練の技だった。アリーは久しぶりに姉に頭を撫でてもらって、とても安堵した気持ちになった。気のせいか、いつもより撫でるスピードが速いような気がする。


アリーとソフィアはしばらく抱き合い、どちらからともなく顔を上げた。


「あの、お姉ちゃん」


「どうしたの? アリー?」


「私、気が付いたんだけど、うちの実家ってヤバいよね?」


アリーは追放されて、一度死んだ。追放されるまで、ぼっと生きる屍のように引きこもっていたけど、外界へ出て、改めて自分の実家が色々な意味でヤバいことに気が付いて来た。


アリーの実家は強力な魔法使いを輩出して来たことで知られている。だけど、ここ最近はあまりパッとしない。お父様はAクラスの魔法使いに過ぎず、将来を期待されている姉、エリザベスは性格が色々アレだった。


何より、お父様は魔法しか興味がないバカで、領地経営は上手く行っていない。


領地経営のプロでも雇えばいいのに、ひたすら姉のエリザベスへ、高額な金を払って魔法の家庭教師を何度も呼び寄せていた。


「グラキエス家の現実に気が付いてしまったのね?」


ソフィアは考え込むと、下を向いてしまった。アリーがソフィアの横顔を覗き込むと、長くよく整った睫毛の先にいっぱいの涙を溜めて、目を閉じた。涙がソフィアからこぼれる。


ソフィアはグラキエス家の現実を思い、描いたような美しい眉をひそめる。


「私、魔法学園を退学させられたの。多分、すごい年上の地方領主の元に嫁がされると思うの。お父様は魔法筋だし、エリザベスお姉様はアレだし、お母さまはもっとアレだし」


「え?」


姉、ソフィアが地方領主の嫁に出されるということにアリーは顔面蒼白になった。

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