25アリーは悪事が働きたい
「(エミリアさんごめんなさい)」
「(そんなに気に病むなら、止めておけばよかったんじゃないの?)」
「(そうはいかないんです。悪事を働くには、まず身内からと言うじゃないですか?)」
『……言わない……と、思う』
聖剣は心の中で突っ込むものの、アリーのしたことは悪事より、むしろ善行だった。
「(本当にあの毒、ちょっと気分が悪くなるだけなんだよね?)」
「(ああ、君が感じたのと同じ位で、命に別状はないはずだよ)」
「(よかった。エミリアさんに、もし、何かあったらと思うと)」
『なら、毒を盛ろうとか、思わなきゃいいのに』
聖剣は尚も突っ込む。実は魔の山で採集した幻の薬草、アネモネを生成して、ポーションを作ったのだ。エミリアに渡したのは、その内の1本だった。
「(この杖、便利だね)」
「(ああ、その杖はユグドラシルの杖と言うんだよ。製薬の魔道具にもなるし、君の魔力や攻撃力、防御力を10倍にしてくれるよ)」
魔の山でエンシャントドラゴンを倒した時、ドロップアイテムで杖を手に入れた。
杖には、製薬の魔道具と同じ機能があり、杖1本だけでポーションを作れるようになっていたのである。
「(それにしても、エミリアさんのことを思うと、胃がキリキリ痛むよう)」
「(なら、やっぱり止めておけば良かったんじゃ?)」
「(だめなの。立派な悪人になるには、恩人に毒を盛る位じゃないと……でも、ちょっと気分が悪くなるだけだから、大丈夫よね?)」
「(気がつかないよ。多分ね)」
『気がつかないような毒を盛って、悪人になるとか理解できないな』
聖剣は恩人に毒を盛って、一人前の悪人になりたいというアリーの謎思考に困ったものの、例のポーションは凄まじい解毒など状態異常回復の効果があることを知っているので、放置した。
「(あとはポーションをギルドでお金に変えて、トンズラしないと)」
「(うん。お金にした方がいいよ。今後の活動資金にもなるし)」
アリーはまたしてもこの街をトンズラするつもりだった。実は実家の街に向かったつもりだったが、方角を180度間違えていたのである。
アリーは方向音痴だった。
☆☆☆
「本当にこのポーションを銀貨100枚でよろしいのですか? 金貨100枚は下らないと思われますが?」
「だ、だいじょうひなのです。そ、それより、早く買い取ってくだしゃい」
アリーは冒険者ギルドでポーションを売っていたが、例によって、悪事を働いているつもりだから、ドキマギとして、思わず噛んでしまっていた。
しかし、冒険者ギルドはアリーの作ったポーションの鑑定を間違えていた。鑑定の魔道具で上級ポーションと判定されたが、実は更に上の最上級、というか、存在事態が伝説の幻の秘薬エリクシール(最上級回復薬)とアムネタ(最上級解毒薬)だったのである。
「(お腹痛い。早くお家に帰りたい)」
『ほんと、この子、悪人には全く向いてないな』
人間、なりたいものと素養が合わないことは多々にしてあるが、アリーも典型的なそれである。悪の権化、魔王になりたいのだが、小悪党にすら無理な性格である。
それに、魔王ではなく、聖女への道を着実に爆走していた。
まさしく、全力で後ろ向きに全力疾走しているのである。
「(日が暮れない内に逃げよう。バレたら、逮捕だよね?)」
「(ああ、そうだね。今の君の飛行能力なら、君の実家のディセルドルフまでひとっ飛びでいけるよ)」
聖剣は方向音痴なアリーの代わりに冒険者ギルドで閲覧できる地図を見て、方角と距離を頭に入れていたのである。
聖剣のはこれからの苦労を考えると、頭が痛くなった。
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