2アリーは魔王になりたい
吸血鬼? なの?
背中を見ると白い翼が生えていた。子供の頃に読んだ古代書に描かれていた真祖吸血鬼の姿に一致する。
「(そう。君は吸血鬼になった。世界最強の吸血鬼である、僕の後継者として)」
「(あなたは誰?)」
声が脳内に直接響いて来ているのは間違いない。アリーは心の中で疑問を口にした。
「(僕は世界で最初の吸血鬼、真祖ユースティティアと言えばわかるんじゃないかな?)」
「(う、そ!!)」
真祖の吸血鬼ユースティティア、子供でも知っている存在だ。
この世界にはエルフや獣人など亜人と同様、吸血鬼が人と一緒に住んでいる。
吸血鬼の系譜をたどれば必ず真祖に行きつく。
それがユースティティアであり、その力が自身に宿ったというのか?
「(まあ、まずはこのゴブリンどもを片付けるといい、君の仇だ)」
「(......仇)」
そう、アリーは一度このゴブリン達に殺されたのだ。
「ギィッ!」
ゴブリンの一匹が矢をつがえていた。アリーの目や背中を射抜いた者だろう。
だが、地面に滴っていたアリーの血が宙を舞い、それが一筋の矢となってゴブリンの心臓を貫く。
「ギァッ!」
あっさりと倒れるゴブリン。
「(僕がアシストしてるから、安心して)」
「これが 私の力?」
脳に勝手にイメージが入って来る。それが出来るということがわかってしまう。
それを見たゴブリン達は、先ほどまでの歪んだ笑みは消え失せ、恐怖の色に染まる。
逆に笑みを見せたのは――アリーの方だった。
「これなら……これなら、私、魔王になれる!」
「ギ、ギィ……!!」
「(え?)」
何故かユースティティアが驚くが、アリーは自身の血で出来た薔薇の蔦を作り上げる。
ゴブリン達の退路に......。
「ごめんね、ゴブリンさん。なんか魔剣さんが私の体を操って、あなた達を皆殺しにすると言ってるの♡」
「(聖剣ね! あと、僕だけ悪者サイドに引き込むの止めてね。確かに操っているけど、これは君の意思だよ!)」
「(はい。魔剣さん♡)」
「(だから、聖剣ね!)」
アリーの脳内のやり取りをよそに、ゴブリン達が動き出した。
彼らに選択肢は無くなった。先程までは逃げるというのがあったが、今はもう戦うしかない。
次の瞬間......すべてのゴブリンの心臓に、アリーの作り出した血の矢が突き刺さった。
「お姉ちゃん。私、生きてる。それに......これなら夢だった魔王になれる!」
『どういうことだ? 適合者が悪人なのか? そんな筈はない。経年劣化で魔術回路に不具合が生じていたのか?』
剣はアリーの脳内にも届かないところで、一人思案する。
「この力があれば、ダンジョンの中層なんて平気よね。すぐに帰ろ♡」
そう陽気に言って、足を踏み出すアリー。でも崖で何もない処に足を踏み出してしまう。
「へえ?」
何もないところで足を滑らしてしまった。
『もし、聖剣に相応しくない人物なら......この子にはもう一度死んでもらうしかない』
翼があるのだから、飛べばいいだけなのだが、聖剣はアリーにイメージを送らない。
「お姉ちゃーーーーーん!!!」
アリーの悲鳴がダンジョン中に響き、最下層にまで轟いた。
ぐしゃ。
こうして、アリーは崖から足を滑らせて、ダンジョンの最下層まで落ちた。
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